14 / 46
13. 白は私の一番好きな色です。
しおりを挟む
「どうしよう……」
柚姫は家に戻るなりずっと悩んでいた。
何であのとき、受け取ってしまったのだろう。
それに……
「何で私なんか誘ったのかな?」
当然の疑問が頭をもたげる。
公園で会ったときも、挨拶に来たときも大した会話はしなかった。
「いきなり映画に誘うなんて……」
そんな柚姫は、出逢って間もない吸血鬼と同居を始め、今に至るのだけれど……。
柚姫は、トワの寝ている自室のほうを見る。
あと一時間もすれば日が落ちる。落ちるけど――
――来るな!
柚姫はびくっと身を震わせる。
血を吸わないと言ったトワは、今日はもう顔を見せないような気がした。
自分の部屋に戻ることもできず、何とはなしにテレビをつける。
気まぐれにチャンネルを変えながらときを過ごし、途中でシャワーを浴びる。そしてまたテレビをつけ、時間をつぶす。
トワはまだ起きて来ない。
いや、部屋にいるのかさえ柚姫には分からない。
刻々と時間は過ぎていき、やがて夜の十一時を迎える。
もしかしたら、顔を出してくれるのではないか。
そんな淡い期待を胸に起きていたが、テレビの笑い声がいつの間にか子守唄へと変わり、柚姫は眠りに落ちていた――
「ん……」
あまりの寝心地の悪さに目が覚めた。
柚姫の背は決して高くはないが、流石にソファーの上では十分に身体を伸ばすことができない。
身体がくの字に曲がってしまい、よけいに疲れてしまった。
「あーあ、もったいないことしちゃったよ……」
柚姫は手元のリモコンでテレビを切った。
スマホのアラームがまだ鳴っていないということは、まだ八時まえだ。
ふあ……とあくびを一つ落とす。
チトセは今日迎えに来ると言っていたが、よくよく考えてみれば時間を聞いていない。それで寝過ごさないようにと、適当な時間にあらかじめ目覚ましをセットしておいた。
あまり乗り気ではないものの、断れなかった以上はちゃんとしよう、というのが柚姫の心情だ。
とりあえず出かける準備をする。
「トワは、部屋にいるのかな……」
何に対してだか分からない後ろめたさが、心に刺さっているような気がした。
結局、トワが血を吸いに来ることはなかった。何気なく首筋に触れてみる。寝ている最中に……ということもないようだ。
ふぅ……とまた溜息をついてから、はっ、となる。
「私、もしかして期待してた? トワに血を吸ってほしいと思ってる?」
貧血になるし、嫌なだけだったのに、どうして……。
と、そのとき。呼び鈴が鳴った。
玄関の扉を開くと、柚姫を迎えに来たチトセが立っていた。
白を基調とした清楚な服装、胸元にはシルバーの十字架。
「もう、出られますか? ……どうかしましたか?」
「あっ、いえ、いつも白い服なので、白が好きなのかなって……」
ああ、とチトセは軽く目を見開く。
「白は私の一番好きな色です。穢されることを知らない、無垢な色。だから、たまに穢してしまいたくなります」
怯えた柚姫の表情を見て、チトセは冗談です、と笑みをこぼした。
柚姫は家に戻るなりずっと悩んでいた。
何であのとき、受け取ってしまったのだろう。
それに……
「何で私なんか誘ったのかな?」
当然の疑問が頭をもたげる。
公園で会ったときも、挨拶に来たときも大した会話はしなかった。
「いきなり映画に誘うなんて……」
そんな柚姫は、出逢って間もない吸血鬼と同居を始め、今に至るのだけれど……。
柚姫は、トワの寝ている自室のほうを見る。
あと一時間もすれば日が落ちる。落ちるけど――
――来るな!
柚姫はびくっと身を震わせる。
血を吸わないと言ったトワは、今日はもう顔を見せないような気がした。
自分の部屋に戻ることもできず、何とはなしにテレビをつける。
気まぐれにチャンネルを変えながらときを過ごし、途中でシャワーを浴びる。そしてまたテレビをつけ、時間をつぶす。
トワはまだ起きて来ない。
いや、部屋にいるのかさえ柚姫には分からない。
刻々と時間は過ぎていき、やがて夜の十一時を迎える。
もしかしたら、顔を出してくれるのではないか。
そんな淡い期待を胸に起きていたが、テレビの笑い声がいつの間にか子守唄へと変わり、柚姫は眠りに落ちていた――
「ん……」
あまりの寝心地の悪さに目が覚めた。
柚姫の背は決して高くはないが、流石にソファーの上では十分に身体を伸ばすことができない。
身体がくの字に曲がってしまい、よけいに疲れてしまった。
「あーあ、もったいないことしちゃったよ……」
柚姫は手元のリモコンでテレビを切った。
スマホのアラームがまだ鳴っていないということは、まだ八時まえだ。
ふあ……とあくびを一つ落とす。
チトセは今日迎えに来ると言っていたが、よくよく考えてみれば時間を聞いていない。それで寝過ごさないようにと、適当な時間にあらかじめ目覚ましをセットしておいた。
あまり乗り気ではないものの、断れなかった以上はちゃんとしよう、というのが柚姫の心情だ。
とりあえず出かける準備をする。
「トワは、部屋にいるのかな……」
何に対してだか分からない後ろめたさが、心に刺さっているような気がした。
結局、トワが血を吸いに来ることはなかった。何気なく首筋に触れてみる。寝ている最中に……ということもないようだ。
ふぅ……とまた溜息をついてから、はっ、となる。
「私、もしかして期待してた? トワに血を吸ってほしいと思ってる?」
貧血になるし、嫌なだけだったのに、どうして……。
と、そのとき。呼び鈴が鳴った。
玄関の扉を開くと、柚姫を迎えに来たチトセが立っていた。
白を基調とした清楚な服装、胸元にはシルバーの十字架。
「もう、出られますか? ……どうかしましたか?」
「あっ、いえ、いつも白い服なので、白が好きなのかなって……」
ああ、とチトセは軽く目を見開く。
「白は私の一番好きな色です。穢されることを知らない、無垢な色。だから、たまに穢してしまいたくなります」
怯えた柚姫の表情を見て、チトセは冗談です、と笑みをこぼした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
123
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる