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消しゴム人形
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ヒデは部屋の隅で膝を抱え、溜め息をついた。
エリちゃんの人形を、壊してしまったのだ。
人形といっても、二つの消しゴムを針金でくっつけて、油性ペンで顔を描いたものだけれど。
「大嫌いって……嫌われちゃったよ」
ヒデは再度溜め息をつく。
「だいたいタケシのやつが……」
学校の帰り、エリちゃんの家に寄って三人で遊んでいた。
エリちゃんお手製の人形を我先に見ようと取り合った結果、人形はバラけてただのボロ消しゴムになってしまった。
いつも笑顔のエリちゃんの顔がみるみる泣き顔に変わり、ヒデもタケシもどうしていいのか分からず、おろおろするばかりだった。
「あ~もう!」
ヒデは立ち上がった。
エリちゃんに謝らなきゃ。
机の上の筆箱を開けて、消しゴムを取り出す。勉強嫌いが功を奏して、殆ど使われていない四角い消しゴム。
赤い油性ペンで蝶ネクタイを書いてみた。
あとは顔……。
引き出しをあさってみるが、消しゴムは見当たらない。
蝶ネクタイの描かれた消しゴムを握り締め、貯金箱から最後の硬貨を取り出すと、ヒデは家を後にした。
夏の空は眩しく、二階建て家屋が密集する住宅街に蝉の鳴き声が響いている。
ヒデは目を細め、坂道を一気に駆け下りた。
交差点に差し掛かると、見覚えのある背中を見つけた。
「タ、タケシ……?」
「んあ、ヒデ!?」
タケシは振り返るなり、驚きの声をあげた。
「な、何してんだ?」
「タケシこそ」
「お、俺はちょっと用があって」
「俺も……」
二人は気まずそうに俯く。
「……ヒデ、何持ってんだ?」
タケシが、硬く閉じられたヒデの拳に気付く。
「お、お前こそ」
見ると、タケシの拳も強く握られている。
お互いの視線を受け、二人はゆっくりと拳を開いた。
ヒデの手には、赤い蝶ネクタイの描かれた四角い消しゴム。タケシの手には、顔の描かれたまんまる消しゴム。
二人は顔を見合わせて笑った。
「ヒデ、今日の友は明日の敵な」
「何それ?」
「バーカ、分かんなきゃいいんだよ~」
信号が青に変わり、二人は肩を並べて交差点を渡った。
【了】
エリちゃんの人形を、壊してしまったのだ。
人形といっても、二つの消しゴムを針金でくっつけて、油性ペンで顔を描いたものだけれど。
「大嫌いって……嫌われちゃったよ」
ヒデは再度溜め息をつく。
「だいたいタケシのやつが……」
学校の帰り、エリちゃんの家に寄って三人で遊んでいた。
エリちゃんお手製の人形を我先に見ようと取り合った結果、人形はバラけてただのボロ消しゴムになってしまった。
いつも笑顔のエリちゃんの顔がみるみる泣き顔に変わり、ヒデもタケシもどうしていいのか分からず、おろおろするばかりだった。
「あ~もう!」
ヒデは立ち上がった。
エリちゃんに謝らなきゃ。
机の上の筆箱を開けて、消しゴムを取り出す。勉強嫌いが功を奏して、殆ど使われていない四角い消しゴム。
赤い油性ペンで蝶ネクタイを書いてみた。
あとは顔……。
引き出しをあさってみるが、消しゴムは見当たらない。
蝶ネクタイの描かれた消しゴムを握り締め、貯金箱から最後の硬貨を取り出すと、ヒデは家を後にした。
夏の空は眩しく、二階建て家屋が密集する住宅街に蝉の鳴き声が響いている。
ヒデは目を細め、坂道を一気に駆け下りた。
交差点に差し掛かると、見覚えのある背中を見つけた。
「タ、タケシ……?」
「んあ、ヒデ!?」
タケシは振り返るなり、驚きの声をあげた。
「な、何してんだ?」
「タケシこそ」
「お、俺はちょっと用があって」
「俺も……」
二人は気まずそうに俯く。
「……ヒデ、何持ってんだ?」
タケシが、硬く閉じられたヒデの拳に気付く。
「お、お前こそ」
見ると、タケシの拳も強く握られている。
お互いの視線を受け、二人はゆっくりと拳を開いた。
ヒデの手には、赤い蝶ネクタイの描かれた四角い消しゴム。タケシの手には、顔の描かれたまんまる消しゴム。
二人は顔を見合わせて笑った。
「ヒデ、今日の友は明日の敵な」
「何それ?」
「バーカ、分かんなきゃいいんだよ~」
信号が青に変わり、二人は肩を並べて交差点を渡った。
【了】
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