たゆたう青炎

明樹

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 二十分程歩いて、街から少し離れた所にある、古びた洋館に着いた。グルリと周囲を高い塀に囲まれた大きな家だ。リツは、塀の中央付近にある鉄の門を勝手に開けて、中へ入って行く。
僕は小走りでリツに追いつき、隣を歩きながら尋ねた。


「リツ…、ここは何?赤築家の持ち家?」
「…違う。知り合いの…持ち家だ」
「知り合い?」


チラリと僕を見て、またすぐに前を向く。ここに着いた途端、氷のように冷たく無表情な顔になったリツを見て、僕の頭の中に警報が鳴り始めた。


ーー何か…危ない気がする。ここから離れた方がいいかもしれない。


僕が足を止めて、身体を翻そうとした瞬間、リツが僕の腕を掴んで低い声を出した。


「ルカ、どこ行くんだ?帰っちゃダメだよ。夏休みの相談もしてないし、それに…ここには青砥先生も来てるんだよ」
「えっ?」


僕の身体がピシリと固まる。
目の焦点が合っていないようなリツの澱んだ赤い目に、僕の背中がゾクリと震えた。


「なんで…ロウが…」
「行けばわかるよ」


僕の腕を引っ張って、リツがまた歩き出す。
少し進んだ先の洋館の玄関の前に、見覚えのある青い車が停まっていた。


「あ、れは…ロウの…」
「ルカ、こっちだ…」


小さく呟いた僕の腕を引いて、リツが建物の裏側へと連れて行く。
ここに来るまでには、煩いほどにセミが鳴いていたのに、今は僕とリツの地面を踏みしめる音しか聞こえない。


リツに握られた腕が痛い。
暑さなのか恐怖なのか、僕の頬に汗が伝い、顎からポタリと落ちていく。
洋館を壁伝いに進み、二つ目の角を曲がった僕の目に、中庭らしき広い敷地の芝生の上に横たわるロウの姿が見えた。


その瞬間、僕の心臓がドクンッ!と跳ねた。


一瞬で周りの音も景色も消えて、この空間に僕とロウだけになる。


「あ……ロウ?な、に…してるの?僕が…来たんだ。…早く、起きて…」


呟きながらフラフラとロウに向かって歩く僕を、誰かが背後から抱き止める。その腕から逃れようともがく僕の耳の傍で、鋭い声がした。


「ルカっ!落ち着けっ。青砥先生は薬で身体が動かないだけだっ」
「え…」


顔を横に向けると、リツが顔を歪めて僕を見ていた。もう一度、ロウに視線を戻すと、小さく、僕の好きな低い声が聞こえてくる。


「ル、カ…さま…、お逃げ、下さい…。俺、のことは…いい…から、早く…」
「バーカ、逃すわけないじゃん?今から楽しいショーが始まるっていうのに。ねぇ、シロウ」
「そうだ。青蓮家の人狼、俺に恥をかかせた罪は重いぞ」


聞き覚えのあるその声に、驚いて顔を上げる。
横たわるロウの向こう側に、黄麻ハルトと白蘭シロウ、それに二人の白蘭家の人狼がいた。
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