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最終話 幸福(リツside)
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「あっつ!夏も終わりだっつーのに、まだまだ暑いよなぁ」
海を望む建物から外に出た俺は、蒸し蒸しとする暑さに思わず声を上げた。
夏休み最後の週、俺は海の近くにある赤築家の別荘に来ていた。少しだけ残ってしまった課題を持って来て、昨日今日で全部終わらせた。今までで一番の集中力で課題をやり遂げた俺は、気分転換に散歩に行くことにしたのだ。
少し高台にある別荘から海に向かって続くゆるやかな坂道を降りて行く。五分もすると、キラキラと陽の光に反射する海が見えて来た。
せっかく海に近い別荘に来たというのに、来て早々、課題をやり始めた俺は、やっと海に来れた喜びでテンションが上がり、少しだけ足早に歩き出した。
疎らな住宅地を抜けて道路を渡り、砂浜に続く斜面を降りる。スニーカーに砂が入るのも気にせずに、ズンズンと波打ち際まで進んだ。
遊泳の時期は過ぎていた為、砂浜にはポツポツと人がいるだけだ。
波打ち際で足を浸けて遊んだり、貝殻を拾ったり、犬の散歩をしたりする人達。
俺は、波飛沫がかからないギリギリの所に立って、遥か遠くに見えるタンカーを眺めた。
空気は蒸し暑いけれど、時おり海から涼しい風が吹いて、額から流れ落ちる汗を冷やしていく。
しばらく波の音を聞きながらぼんやりと海を見ていると、背後から楽しそうな声が聞こえてきた。
「ルカ、足元気をつけて。手を繋いでいても転びそうで心配だ」
「もう、ロウは過保護なんだから。僕はそこまでドジじゃないよっ」
「ふっ、そうか?でも本当に気をつけてくれ。俺は、ルカにかすり傷一つ付けたくないんだ。大切な宝だからな」
「え、あ…、もう…っ。だ、誰かに聞こえちゃうよ?ロウってば…」
恋人同士のイチャつく会話に、海を見て澄んでいた俺の気持ちに、羨ましい感情が湧き起こる。
ーーくっそ!カップルで海に来やがってっ。ラブラブじゃねぇか。ん?でも、どっちも男の声じゃね?いや、でも一人はハスキーな声だけど…女か?
失礼だとは思いながらも、どうしても後ろの二人が気になった俺は、自然な風を装って振り向いた。そしてすぐに気まずくなる。
思っていたよりも近くにいた二人と、バッチリと目が合ったのだ。
俺も気まずかったけど、なぜか二人がとても驚いた顔をしている。
一人は背の高い、青みがかった黒髪、深い青の瞳のイケメン。
もう一人も同じ髪色に、更に綺麗な青の瞳の可愛い…男?だよな…。
「あれ…?あんた達、人狼だよな?どこの家の者?」
俺の問いかけに、二人は困ったように顔を見合わせる。
「ルカしか目に入ってなかったから、気づかなかった…」
「僕も気づかなかった…。どうする?」
二人でこそこそと話した後に、背の高いイケメンが、綺麗な笑顔で俺を見た。
「君は、その髪色からして赤築家の人狼だね?俺達は、どこにも属していない。二人で静かに暮らしてるんだ。君、俺達と会ったこと、誰にも秘密にしてくれるかな?今のこの幸せを壊されたくない」
イケメンの顔が笑顔から真剣なものに変わって、俺は思わず力強く頷いていた。
チラリとイケメンの隣にいる可愛い子を見る。
その子は俺と目が合うと、ニコリと笑って小さく頭を下げた。
「僕達のこと、内緒にしててね。君はきっといい人だから、約束を守ってくれると信じてる」
「お、おうっ。当たり前だっ!俺は誰にも言わないっ」
「ふふ、相変わらずだね…。ありがとう」
「え?」
「ううん、何でもない」
クスクスと笑って、ルカと呼ばれた子がイケメンを見上げる。
「じゃあな。ちゃんと夏休みの課題を終わらせろよ」
「なっ!もうやったよっ!…てか、え?」
俺が首を捻っている間に、二人は俺から離れ、砂浜から道路に上がってすぐに姿が見えなくなった。
「…変なヤツら…」
ポツリと呟いて、再び身体を返して海を見る。
でも、海を見ている筈なのに、目の前に先程の二人の姿がチラついて、声も耳から離れない。
そのうちに、なぜだかとても切ない気持ちになってきて、勝手に涙が次から次へと溢れ出した。
「え?な、なんで?俺、どうしたんだろ…」
手の甲で涙を拭きながら、鼻をズルズルと鳴らす。
さっき会った二人の事なんて、俺は知らない筈だ。
だけど、二人が寄り添う姿を見て、とても幸せそうな笑顔を見て、俺は嬉しくなったんだ。
「確か、ロウとルカって言ってたな…。男と男だし、いろいろと難しいことがあるんだろうな。どうか、いつまでも幸せでいて…」
俺は、心からそう願い、海から吹く風に言葉を託して、砂を舞い上げながら二人が去った方向へと吹き抜ける風を見送った。
…終。
海を望む建物から外に出た俺は、蒸し蒸しとする暑さに思わず声を上げた。
夏休み最後の週、俺は海の近くにある赤築家の別荘に来ていた。少しだけ残ってしまった課題を持って来て、昨日今日で全部終わらせた。今までで一番の集中力で課題をやり遂げた俺は、気分転換に散歩に行くことにしたのだ。
少し高台にある別荘から海に向かって続くゆるやかな坂道を降りて行く。五分もすると、キラキラと陽の光に反射する海が見えて来た。
せっかく海に近い別荘に来たというのに、来て早々、課題をやり始めた俺は、やっと海に来れた喜びでテンションが上がり、少しだけ足早に歩き出した。
疎らな住宅地を抜けて道路を渡り、砂浜に続く斜面を降りる。スニーカーに砂が入るのも気にせずに、ズンズンと波打ち際まで進んだ。
遊泳の時期は過ぎていた為、砂浜にはポツポツと人がいるだけだ。
波打ち際で足を浸けて遊んだり、貝殻を拾ったり、犬の散歩をしたりする人達。
俺は、波飛沫がかからないギリギリの所に立って、遥か遠くに見えるタンカーを眺めた。
空気は蒸し暑いけれど、時おり海から涼しい風が吹いて、額から流れ落ちる汗を冷やしていく。
しばらく波の音を聞きながらぼんやりと海を見ていると、背後から楽しそうな声が聞こえてきた。
「ルカ、足元気をつけて。手を繋いでいても転びそうで心配だ」
「もう、ロウは過保護なんだから。僕はそこまでドジじゃないよっ」
「ふっ、そうか?でも本当に気をつけてくれ。俺は、ルカにかすり傷一つ付けたくないんだ。大切な宝だからな」
「え、あ…、もう…っ。だ、誰かに聞こえちゃうよ?ロウってば…」
恋人同士のイチャつく会話に、海を見て澄んでいた俺の気持ちに、羨ましい感情が湧き起こる。
ーーくっそ!カップルで海に来やがってっ。ラブラブじゃねぇか。ん?でも、どっちも男の声じゃね?いや、でも一人はハスキーな声だけど…女か?
失礼だとは思いながらも、どうしても後ろの二人が気になった俺は、自然な風を装って振り向いた。そしてすぐに気まずくなる。
思っていたよりも近くにいた二人と、バッチリと目が合ったのだ。
俺も気まずかったけど、なぜか二人がとても驚いた顔をしている。
一人は背の高い、青みがかった黒髪、深い青の瞳のイケメン。
もう一人も同じ髪色に、更に綺麗な青の瞳の可愛い…男?だよな…。
「あれ…?あんた達、人狼だよな?どこの家の者?」
俺の問いかけに、二人は困ったように顔を見合わせる。
「ルカしか目に入ってなかったから、気づかなかった…」
「僕も気づかなかった…。どうする?」
二人でこそこそと話した後に、背の高いイケメンが、綺麗な笑顔で俺を見た。
「君は、その髪色からして赤築家の人狼だね?俺達は、どこにも属していない。二人で静かに暮らしてるんだ。君、俺達と会ったこと、誰にも秘密にしてくれるかな?今のこの幸せを壊されたくない」
イケメンの顔が笑顔から真剣なものに変わって、俺は思わず力強く頷いていた。
チラリとイケメンの隣にいる可愛い子を見る。
その子は俺と目が合うと、ニコリと笑って小さく頭を下げた。
「僕達のこと、内緒にしててね。君はきっといい人だから、約束を守ってくれると信じてる」
「お、おうっ。当たり前だっ!俺は誰にも言わないっ」
「ふふ、相変わらずだね…。ありがとう」
「え?」
「ううん、何でもない」
クスクスと笑って、ルカと呼ばれた子がイケメンを見上げる。
「じゃあな。ちゃんと夏休みの課題を終わらせろよ」
「なっ!もうやったよっ!…てか、え?」
俺が首を捻っている間に、二人は俺から離れ、砂浜から道路に上がってすぐに姿が見えなくなった。
「…変なヤツら…」
ポツリと呟いて、再び身体を返して海を見る。
でも、海を見ている筈なのに、目の前に先程の二人の姿がチラついて、声も耳から離れない。
そのうちに、なぜだかとても切ない気持ちになってきて、勝手に涙が次から次へと溢れ出した。
「え?な、なんで?俺、どうしたんだろ…」
手の甲で涙を拭きながら、鼻をズルズルと鳴らす。
さっき会った二人の事なんて、俺は知らない筈だ。
だけど、二人が寄り添う姿を見て、とても幸せそうな笑顔を見て、俺は嬉しくなったんだ。
「確か、ロウとルカって言ってたな…。男と男だし、いろいろと難しいことがあるんだろうな。どうか、いつまでも幸せでいて…」
俺は、心からそう願い、海から吹く風に言葉を託して、砂を舞い上げながら二人が去った方向へと吹き抜ける風を見送った。
…終。
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