銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールが運んできた料理を食べ、風呂で身体を洗って用意された服に着替えた。
 ラズールが持ってきたのは、刺繍やレースが施された黒いドレスだ。
 ラズールに手伝ってもらってドレスを着た僕は、鏡に映した自分の姿を見て息を呑んだ。目の前に姉上がいるのかと思った。でも姉上のような優しさはなく、とても冷たい雰囲気だ。
 首元や手首まで伸びたレースが、うまく痣を隠してくれる。僕は男にしては細い腰と手足をしているから、どこからどう見ても女に見える。    
 広がるドレスの裾には、銀糸が埋め込まれているのか、少し動く度にキラキラと輝く。
 僕が無言で鏡を見つめていると、ラズールが後ろに立った。
 鏡越しに目を合わせて会話をする。

「お美しいですよ。銀髪が黒によく映えます」
「そうかな…。まるで死神みたいだ」
「またそのようなことを言う。あなたを見た隣国の王子が、どう反応するのか気になります」
「大丈夫だよ。僕が完璧にフェリのフリをするから」
「しかし、王子はあなただと気づくのではないですか」
「僕を見てよ。男に見える?」
「いえ…」
「リアムには気づかせないから…だから、おまえは黙って見てて」
「わかりました。しかし、もし隣国の王子があまりにもしつこく何か言ってきましたら、フィル様は亡くなられたと伝えればよろしいかと」
「そうだね…わかったよ」
 
 僕は視線を逸らせると、俯いて小さく息を吐いた。
 今からリアムに会う。手を伸ばせば触れることのできる距離に愛しい人がいて、僕は平静でいられるだろうか。リアムに名前を呼ばれでもしたら、走り寄って飛びついてしまうかもしれない。…ああでも、僕は今、走れないんだった。足首が痛くて歩くのでさえ困難だった。
 僕は小さく首を振る。
 まだこんなことを考えてるなんて、しっかりしろ。僕はフェリ、この国の女王だ。隣国の王子に、毅然とした態度で臨まなければ。
 ラズールが前に来て僕の手を取った。

「そろそろバイロン国の第二王子が繊月の間に入られます。俺達も行きましょう」
「…わかった」
「では…フェリ様」
「ん…」

 僕が両手を上げると、ラズールが軽く抱き上げた。そしてしっかりと抱いて振動を与えないように静かに歩く。
 部屋を出て右に廊下を進み、突き当たりの階段に差しかかる。
 階段を降りる時にラズールの腕に力がこもったように感じた。先ほど僕を突き落としたのは、きっとラズールなりに僕を止めようと必死で手を出してしまったのだろう。
 そう思ってラズールの顔を見ると、ラズールは困ったように微笑んだ。

「…やり過ぎたと反省してます。手を出した俺を恨んでますか」
「どうして?」
「あなたが悲しそうな目をしているから」
「そうなの?自分ではわからないよ。それに僕は恨みも怒りもしてないよ。むしろ止めてくれて感謝してる。僕は国のためにまだ何もできてないのに、責任を放棄するところだった」
「…あなたは本当にお優しい。俺はあなたのためなら何でもします」
「頼りにしてる」
「はい」

 話している間に階段を降りて左へ進み、長い廊下の途中で止まる。左側に扉があり、ラズールが足を止めたと同時に、扉が向こう側へと開いた。

 
 
 
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