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扉を開けたのはトラビスとその部下だ。
トラビスが僕を見て固まっている。
僕の女装がおかしいのだろうか。
そう思ってトラビスの目を見ると、慌てて目を逸らされた。
ラズールが僕を抱いたままトラビスの横を通って部屋に入る。その時にトラビスの耳が赤くなっていることに気づいて、僕は声をかけた。
「トラビス、体調が悪いの?」
「は?…いえ、どこも悪くないですが、なにか?」
「ふーん、ならいいけど。僕…私の警護を頼んだよ」
「お任せ下さい」
胸に手を当てたトラビスを、ラズールが一瞥する。そして部屋の真ん中に立つ大宰相の前で足を止めた。
扉の中は小さな部屋で、繊月の間の控え室になっている。五人も入れば窮屈に感じる狭さだ。
ラズールに抱えられた僕に、大宰相が頭を下げる。
「フェリ様、お怪我をされたと聞きましたが」
「そう。足が痛くて歩けない。だからこんな格好で悪いね」
「大丈夫ですか?どうかご無理はなさらないように」
「うん、ありがとう」
「ではこちらへ」と、入ってきた扉とは反対側の扉を大宰相が開ける。
僕の部屋の五倍はある広さのここが、位の高い貴族や他国の王族と会う繊月(せんげつ)の間だ。高い天井に壁も床も白で統一されていて美しい。そして僕が座る椅子の背後の壁の上部に大きな窓があって、そこから陽が降り注いでいるからとても明るい。天井や壁は白一色ではなく、所々に色鮮やかな模様が描かれている。
この部屋には数えることしか入ったことはなかったけど、僕の好きな部屋だ。母上が出かけた時に、ラズールとこっそり入って、椅子に座って天井や壁に描かれた模様を眺めていたんだ。
僕は懐かしい思いに耽りながら、繊月の間に入り椅子へと歩くラズールの耳に、そっと囁く。
「ねぇ覚えてる?二人でここに忍び込んだこと…」
「もちろん覚えてますよ。あなたにお願いされて鍵を盗んできてましたから」
「え?鍵…盗んでたの?」
「そうですよ。あなたのお願いは断れませんからね」
「見つかって怒られたりしなかった?」
「大丈夫です。そんなヘマはしません」
「そっか…」
僕は一瞬、ラズールの首に回した腕に力を込めた。
この城での懐かしい思い出には、すべてラズールが一緒だ。ラズールがいなければ、ここでの暮らしに僕は耐えられなかったと思う。
「フェリ様、おろしますよ」
「うん」
ラズールがそっと僕を椅子に下ろした。そして椅子の前にまわってドレスの裾を綺麗に整える。次に横に立つと、上着のポケットから扇子を取り出して僕の手に握らせた。
「念の為、これで顔を隠してください。相手は王族ですが王子です。こちらは王ですので、失礼にはあたらないでしょう」
「わかった」
僕は頷いて扇子を開いた。
扇子は黒地に銀糸で刺繍がしてある。よく見ると僕の身体にある蔦のような痣と似ている。
突然何かを思い出して顔を上げた。天井と壁に描かれた模様。鮮やかな幾つもの色で描かれたそれらも、僕の痣の模様と似ていた。
トラビスが僕を見て固まっている。
僕の女装がおかしいのだろうか。
そう思ってトラビスの目を見ると、慌てて目を逸らされた。
ラズールが僕を抱いたままトラビスの横を通って部屋に入る。その時にトラビスの耳が赤くなっていることに気づいて、僕は声をかけた。
「トラビス、体調が悪いの?」
「は?…いえ、どこも悪くないですが、なにか?」
「ふーん、ならいいけど。僕…私の警護を頼んだよ」
「お任せ下さい」
胸に手を当てたトラビスを、ラズールが一瞥する。そして部屋の真ん中に立つ大宰相の前で足を止めた。
扉の中は小さな部屋で、繊月の間の控え室になっている。五人も入れば窮屈に感じる狭さだ。
ラズールに抱えられた僕に、大宰相が頭を下げる。
「フェリ様、お怪我をされたと聞きましたが」
「そう。足が痛くて歩けない。だからこんな格好で悪いね」
「大丈夫ですか?どうかご無理はなさらないように」
「うん、ありがとう」
「ではこちらへ」と、入ってきた扉とは反対側の扉を大宰相が開ける。
僕の部屋の五倍はある広さのここが、位の高い貴族や他国の王族と会う繊月(せんげつ)の間だ。高い天井に壁も床も白で統一されていて美しい。そして僕が座る椅子の背後の壁の上部に大きな窓があって、そこから陽が降り注いでいるからとても明るい。天井や壁は白一色ではなく、所々に色鮮やかな模様が描かれている。
この部屋には数えることしか入ったことはなかったけど、僕の好きな部屋だ。母上が出かけた時に、ラズールとこっそり入って、椅子に座って天井や壁に描かれた模様を眺めていたんだ。
僕は懐かしい思いに耽りながら、繊月の間に入り椅子へと歩くラズールの耳に、そっと囁く。
「ねぇ覚えてる?二人でここに忍び込んだこと…」
「もちろん覚えてますよ。あなたにお願いされて鍵を盗んできてましたから」
「え?鍵…盗んでたの?」
「そうですよ。あなたのお願いは断れませんからね」
「見つかって怒られたりしなかった?」
「大丈夫です。そんなヘマはしません」
「そっか…」
僕は一瞬、ラズールの首に回した腕に力を込めた。
この城での懐かしい思い出には、すべてラズールが一緒だ。ラズールがいなければ、ここでの暮らしに僕は耐えられなかったと思う。
「フェリ様、おろしますよ」
「うん」
ラズールがそっと僕を椅子に下ろした。そして椅子の前にまわってドレスの裾を綺麗に整える。次に横に立つと、上着のポケットから扇子を取り出して僕の手に握らせた。
「念の為、これで顔を隠してください。相手は王族ですが王子です。こちらは王ですので、失礼にはあたらないでしょう」
「わかった」
僕は頷いて扇子を開いた。
扇子は黒地に銀糸で刺繍がしてある。よく見ると僕の身体にある蔦のような痣と似ている。
突然何かを思い出して顔を上げた。天井と壁に描かれた模様。鮮やかな幾つもの色で描かれたそれらも、僕の痣の模様と似ていた。
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