銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「どうかされましたか?」

 僕の隣に立つラズールが、顔を覗き込んできた。
 僕は黙って首を振る。
 身体の痣とこれらの模様が似ていることは、ただの偶然?それとも何か意味があるの?
 僕の心臓がドキンドキンとうるさい。手のひらにじっとりと汗がにじんでくる。
 もうすぐリアムと会うから緊張してるのか、とんでもない秘密を知ってしまったような気がして怖いのか。
 呼吸も荒くなってきた僕の手に触れて、ラズールが言う。

「大丈夫ですよ。俺が傍にいます。ほら、ゆっくりと息を吐いてください」

 ラズールに言われた通りに息を吐く。何度か吸って吐いてを繰り返すうちに、呼吸が楽になった。

「落ち着きましたか?」
「うん…ありがとう」

 ラズールは微笑むと、背筋を伸ばして僕の左側に立った。
 右側には大宰相が立っている。大宰相の斜め前の一段下がった所にトラビスが、反対側にトラビスの部下が、濃い青の軍服姿で正面扉を警戒しながら立っていた。
 リアムが僕に何かをするとは思えないけど、警護をする兵が少ない気がする。そう少し気になったけど、この国で一番強いと言われるトラビスと二番目に強いその部下がいるから大丈夫なのかな。
 トラビスは大宰相の息子だ。本来なら次の大宰相になるはずだけど、文官よりも武官の方が肌に合ってるらしく、父親の跡を継ぐ気はないらしい。でもそれでいいと思う。
 トラビスは短気な所がある。冷静に判断を下さなければならない文官には向かないから、武官が合ってる。彼は僕の一つ上でまだ若いけど、兵達をまとめて鍛え上げているのはさすがだと、ラズールから聞いていた。
 でも、この国で真実に一番強いのは、ラズールだ。ラズールは強くて賢い。質問したことには何でも答えてくれ、ラズールに剣や魔法の稽古をつけてもらった僕は、かなりの腕になった。
 昔、ラズールにどうしてそんなに物事を知ってるのか、どうしてそんなに強いのかと聞いたことがある。
 ラズールは少し照れたような表情を浮かべて、それはフィル様をお守りするために努力してるからですよと言ったのだ。

「もう間もなく来られます。フィ…フェリ様、もしも隣国の王子があなたを連れ出そうなどとした場合は、俺は遠慮なく彼を攻撃します。よろしいですね?」
「…わかった。だけどそんな必要はないよ。僕…私が、礼を言ってすぐに国に帰ってもらうようにするから」
「だとよろしいのですが」

 その時、遠く向こう側にある正面扉の外から、近づいてくる足音が響いてきた。一人…いや、二人?僕はラズールを見上げて聞く。

「ねぇ、バイロン国の使者は何人なの?」
「第二王子とその側近、後は二人の兵です」
「え?そんな少数で来たの?」
「トラビスがあなたを連れ帰る時に置いて帰った兵が、まだバイロン国にいます。彼らを人質に取ってることで、危険はないと思ってるのでしょう」
「じゃあ僕に手を出したとしても攻撃したらダメじゃないか」
「あなたを守ることが最優先ですので」
「ダメだ。…私は自国の民を誰も死なせたくない」
「…かしこまりました」

 ラズールを見上げて小さく息を吐いた僕は、扉の外からの大きな声に肩を跳ねさせた。

「バイロン国の第二王子、リアム様が参られました!」

 大きな声の後に、扉がゆっくりと向こう側へと開かれる。
 恋しいリアムの姿を目にした瞬間に感情が爆発してしまいそうになるのが怖くて、僕は咄嗟に目を伏せた。
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