銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「実は約十日前にイヴァル帝国の女王が亡くなった。そしてまだ若き王女が即位した」
「…そうか、亡くなられたのか。病か?それとも暗殺か?」
「詳しくはわからないが、病だと思う」
「まだ若いのに労しいことだ。王女も心細いだろう。兄弟でもいれば心強いが…」
「いる」
「…は?」
「だから兄弟がいる。イヴァル帝国の王女には、双子の弟がいる」
「まさか…。イヴァルに跡継ぎが産まれたと報せを受けた時、そんなことは言ってなかったはすだぞ」

 伯父上の大きく開かれた目を見て、俺は溜息をつく。

「隠されていたんだよ、十八年間ずっと。あの国には悪しき慣習がある。王は女でなければならない。双子は縁起が悪い。特に双子で産まれてきた男は呪われた子だと言って、本来は産まれてすぐに消されるそうだ」
「恐ろしい話だな…」
「まったく」

 険しい顔をする伯父上に、俺は深く頷いてみせる。
 あの国でフィーが受けてきた仕打ちを思うと胸が痛いが、その悪しき慣習が無ければ、俺はフィーと出会えていなかった。複雑ではあるがフィーと出会えたことは感謝している。
 俺は小さく咳払いをして「その双子の王子が」と続けた。

「その双子の王子がフィーだ。姉が病弱だったために、消されずに姉の代わりをしていた。産まれてからずっとだ。だが成長して体力がついてきたこと、新しい薬が作られたことで、姉が元気になった。その途端にフィーは城から追い出されたらしい。そして森の中で殺されそうになっていたところを俺が助けたというわけだ」
「なんと不憫な…!二人とも王の子ではないかっ」
「だからそういう国なんだよ、隣国は。俺は旅をしながらお互いを知って、城に戻って父上の許しをもらってフィーを妻にしようと決めた」
「不憫なフィルさんを、おまえが必ず幸せにしてやれ。……ん?王子?フィルさんは男か?」
「…そうだ」

 伯父上が真剣な表情で俺を見る。でもすぐに目を細めて「そうか」と頷いた。

「おまえが好きになったのなら、きっと素晴らしい人なんだろう。それに美しくて可愛いと話していたな。ますます早くフィルさんに会いたくなった。隣国の王が代わって、フィルさんはもう狙われなくなったんだな?」
「それが…」

 俺はグラスに手を伸ばそうとした。だけど空だったことに気づいて、指を固く握りしめた。

「俺はフィーを王城まで連れ帰った。父上に話そうと思っていた矢先に、イヴァル帝国から使者が来た。王の逝去を報せる使者だ。その使者の一人がフィーを城から連れ出して、イヴァル帝国へと帰ってしまった」
「なぜだ?新王の命か?」
「違う。もっと複雑な理由だ」

 俺はイヴァル帝国でのことを思い出して、眉間にシワを寄せた。

 
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