銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「それは誠ですかっ」
「え…あっ、トラビス!」

 背後から大きな声がした。振り返ると、数十人の兵を連れたトラビスがいた。来てくれたのかと僕は心強くなる。
 トラビスは馬を降りて僕に近づき片膝をついた。

「姿が見えなくて焦りましたよ。まさかラズールについてこんな所にまで来てるとは」
「よく来てくれた!石垣の向こう側にバイロン国軍がいるんだっ。落ちる直前に見た!」

「わかってます」と言うやいなや、トラビスが立って手を振り上げた。
 僕は上空を見上げて悲鳴を上げる。
 無数の矢が石垣を越えて降り注いできている。それら全てを、トラビスが魔法で弾き飛ばした。

「トラビスっ」
「ふむ…ここは危険ですね。すぐに離れましょう。バイロン国軍は国境を越えてまでは追いかけてこない。たぶん…今回は様子見でしょう」
「でも誰が…軍を率いてるの?」
「フィ…フェリ様、旗を見ましたか?どのような色をしていましたか?」
「白地に金文字…あ!上部に何かの葉の模様が描かれていたと思う」
「なるほど。その旗を掲げる者が誰か、聞いたことがあります。それはバイロン国の第一王子、クルト王子です」
「第一王子っ?」

 僕は口を開けて固まった。
 第一王子だって?リアムの兄上だ。どうして今ここに来たの?リアムの後を追って?
 トラビスが考え込む僕を立たせて肩を抱き、大声で命令を出す。

「聞け!即刻この場から退避する!俺が先頭を行く。ラズールは真ん中に、副隊長は後方からの攻撃を防ぎつつ、ついて来い!」
「はっ!かしこまりました!」
「フィ…フェリ様は俺の馬に」
「いい。僕が乗ってきた馬に乗る」
「では俺の後ろについて来てください」
「嫌だ。僕はラズールの傍にいる」
「しかし」
「トラビス、王の意志に背くのか」
「いえ…わかりました」

 トラビスが馬の手綱を引いて僕から離れる。
 大柄な騎士がラズールを抱き抱えて馬に乗る。
 僕も馬に乗って、大柄な騎士の後ろについた。
 トラビスを先頭に国境から離れる。後方で矢が飛んでくる音と、それらを魔法で弾く激しい音がする。副隊長とここにいる騎士達は、皆優秀だ。雨のように降り注ぐ矢をかわすことなど簡単だ。だから何も心配はしていない。
 僕が心配なのは、リアムとラズールのこと。リアムは怪我をしたけど大丈夫だと聞いた。だけど僕の目で確認したわけじゃない。自分の目でリアムの元気な姿を見るまでは、やはり心配なんだ。ラズールも止血をして薬を飲ませたけど、気を失ったままだ。早く王城に連れ帰り高度な治療を受けさせたい。元気な姿を見るまでは安心できない。
 そして…最大の懸念ができた。バイロン国のクルト王子は、どうして軍を率いて国境に来たのか。明らかに僕を狙っていた。僕の正体を知っている?でもリアムやゼノが話したとは思えない。それならば、盗難事件の真犯人がクルト王子を向かわせるように仕向けたのか?
 短期間にいろんなことが起こりすぎて、頭の中がぐしゃぐしゃだ。
 僕は目の前で力なく揺れるラズールの腕を見て「ラズール…僕を助けてよ…」と呟いた。

 

 


 
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