銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「冷酷…か」と呟いて、俺は前王を思い出した。
 フィル様の母親である前王も、冷酷な人だった。実の息子のフィル様を殺そうとしたくらいだ。フィル様に愛情のカケラも見せなかった。フェリ様に対しては少しは優しかったが、それでも笑った顔を見たことがない。

「強大な国の頂点に立つ者は、そうであらねばならないのかもしれない」

 頭の中で思っていたことを、つい口から出してしまった。
 ゼノとジルが俺を見て、小さく頷いている。

「ラズール殿の言う通りだ。だが俺は、リアム様やフィル様が作る国を見てみたいと思う」

 そう言ったゼノの口を、ジルが慌てて手で塞ぐ。

「おい、不用心なことを言うな。第一王子の耳に届いたらどうする」

 ゼノがジルの手を外して笑う。

「大丈夫だ。ここには第一王子の息のかかった者はいないだろう?」
「あの医師は?」
「彼ほど徳の高い人物が、告げ口をするなど考えられないが。ラズール殿」
「なんだ」

 ゼノが俺をまっすぐに見てくる。
 俺は早く逃げる段取りを教えてくれと、思わずため息をついた。

「俺はフィル様は優しすぎると思う。他国と渡り合えると思うか?」
「そうだな。だが本当のあの方は強い。そのことを俺はよく知っている。それよりも、俺達を逃がすことで第二王子の立場が悪くなるぞ。そちらの方が心配ではないか?」
「まあ…そうだな。バレないようにするが、バレると拮抗しているクルト王子とリアム王子の王城での力が傾いてしまう」
「どうする?気が変わったか?」
「とんでもない。一度、あなた方を無事に戻すと言ったのだから、約束は守る」
「では話を進めてもらおうか」
「わかった」

 その時、扉の外から足音が聞こえてきた。あの大きな足音はトラビスだ。
 俺はゼノとジルに断って扉を開け、俺に気づいたトラビスを呼ぶ。
 トラビスは訝しげに首を傾げながら中に入ってきた。ゼノとジルを見て驚き、俺を見る。

「これは、どういう状況だ?フィル様は?」
「フィル様の傍には、第二王子がいる。二人きりにしてほしいと頼まれた」
「へぇ、よく許したな」
「…許してはいない。ところでもらって来たのか」
「ああ、たくさんくれたぞ」

 トラビスが小さな白い袋を持ち上げて、揺すってみせる。
 ゼノが「それは?」とトラビスに聞く。

「栄養や体力がつく薬だ。フィル様が目を覚まさないので食事がとれない。この国を出る前に少しでも体力を回復してもらいたいと思い、医師からもらって来た」
「なるほど。見せてもらっても?」
「ああ」

 トラビスが差し出した袋を受け取り、ゼノが中をのぞく。時おり匂いを嗅いだりして注視している。
 俺は不審に思い「なにか?」と尋ねた。
 ゼノは袋のヒモを引っ張って閉じると、トラビスに返した。

「いや、俺も薬に詳しいので念の為に確認させてもらった。これらを飲めば食事の代わりになるだろう。だが数日だ。やはり食べねば体力が戻らない」
「わかった。ならばやはり一刻も早く国に戻って養生させたい。これからどうすればいい?」

 敵国にいてフィル様を守れるのは俺とトラビスの二人だけだ。ゼノやジルのことを心から信用しているわけじゃない。だが今は協力がなければ無事に国に戻れる気がしない。
 俺とトラビスは、ゼノの説明を聞き深く頷いた。

 


 
 
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