銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 国境近くの軍が待機する場所に近づくと、すでにトラビスが待っていた。僕とラズールが出発する半日前に、先に使いを出していたからだ。
 トラビスが僕に走り寄り深く頭を下げる。

「フィル様、わざわざ出向いていただくことになり、申し訳ありません!」
「トラビス、顔を上げて」
「…いえ、あなたをここへ来させたくはなかったのにっ」
「おまえが謝る必要はない。最終的に僕が決めたことだ。それよりもどう?まだバイロン国に動きはないの?」
「はい。一度使者を送ってきただけです」
「そう」

 僕は頷き、国境の方角を見た。
 あの向こう側にクルト王子がいる。この後使者を送り、イヴァル帝国側へと来てもらう。無理だと言うなら僕があちら側へ行ってもいい。とにかく会って、クルト王子の口から断ってもらうのだ。

「フィル様、お疲れでしょう。俺の天幕で休んでください」
「ん…ありがとう」

 僕が馬から降りるのを手伝い、馬の手綱を引きながらトラビスが言う。
 すぐにでもクルト王子と面会をしたいと考えていた僕は、上の空で返事をする。
 ラズールも馬を降りて、僕の後ろをついて来る。そして不満そうに呟いた。

「なぜおまえの天幕なのだ」
「俺の天幕が一番マシだからだ。フィル様をその辺に座らせる訳にはいかないだろうが」
「そうだが…」
「ラズール」
「…申し訳ありません」

 今は仲間内で揉めてる場合じゃないだろうとラズールをたしなめる。ラズールは優秀なのに僕以外はどうでもいいという態度は改めてほしいと思う。
 トラビスの天幕で休んでいると、レナードが来た。座る僕の前で片膝をつき、頭を下げる。

「フィル様、よく来てくださいました。体調はどうですか?疲れてませんか?」
「大丈夫だよ。ラズールが何回も止まるから休息は充分とれてるんだ。もう少し早く着く予定だったのにごめんね」

 温かいお茶が入ったコップを両手で握りしめながら、僕はレナードに謝った。

「いえ、拒否の伝言を使者に伝えるだけでよかったのにと俺は思います。フィル様自らが来られる必要はありませんでした。クルト王子の方が格下なのですから」

 顔を上げてキツい口調で言うレナードに、僕は苦笑する。

「でも僕は相手より年下の、即位したばかりの頼りない王だからね。国力もバイロンの方が強い。だから無下には扱えない」
「そんなことは…。それで、どのように断るのですか?」
「内緒。僕に任せて」
「はい…。では俺もついて行きます」
「うーん…、ラズールとトラビスが一緒に来ると言ってきかないんだ。レナードまで来たら軍の統制をとる人がいなくなる。だからレナードは残って」
「はい…」

 先ほどの厳しい表情から一瞬で情けない表情に変わったレナードを見て、僕は小さく声を上げて笑った。

 
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