銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 トラビスの天幕に入ってすぐに、バイロン国側に使者を出した。先日の要求に対しての返答をするので、こちら側へ来て欲しいと伝えると、意外にもすんなりと承諾された。
 明日の朝に、クルト王子が来る。
 こちらは供にラズールとトラビスの二人しかつけない、だからクルト王子もそうして欲しいと頼んだが、そのことに関しては何も返答がなかった。一部隊くらいの人数の騎士を引き連れて来るつもりだろうか。
 翌日、高台にあるトラビスの天幕から国境を越えるクルト王子の隊列を見て、僕はため息をついた。予想していた通り、三十人ほどの家来を連れていたからだ。
 まあ敵国に来るのに、こちらの要望通りに少ない人数では来ないだろうとはわかっていたけど。しかし天幕の中に入るのは、クルト王子と側近だけにしてもらう。それを守ってもらえないのであれば、僕は会わない。
 僕は持ち上げていた天幕の入口の布を下ろすと、ドレスの裾をさばいて歩き、奥にある椅子に座った。濃紺の生地に銀糸の刺繍のドレス。いつ見ても似合わないと思う。
 素早くラズールがドレスの裾を整え、背中に垂らした銀髪を撫でつける。

「久しぶりにドレスを着た気がする…。ラズール、おかしくない?」
「とてもお美しいですよ。あなたを見て、クルト王子が断るどころか執着されるのではないかと心配です」
「それは無いよ。ただ…クルト王子は男としての僕に会ってる。あの時の捕虜が僕だと気づかれないといいのだけど」
「知らぬ存ぜぬで通せばよろしいかと。フィル様、あなたが危険だと判断しましたら、俺は容赦なくクルト王子を斬…」
「ラズール、それはダメだと言っただろう。トラビス、いざという時はラズールを止めてよ」

 ラズールの言葉をさえぎり、入口で外の様子をうかがっていたトラビスに言う。
 トラビスはこちらを向いて、僕を凝視した後に「承服いたしかねます」と不服そうな顔をした。
 僕は椅子の背に深くもたれて、先ほどよりも大きなため息をつく。

「二人とも…僕が上手くやろうとしてるんだから、協力してよ。二人のことを最も信頼してるから、今、傍にいてもらってるのに…」

「善処します」とラズールが隣に立ち、「かしこまりました」とトラビスが僕の前に来た。

「もう間もなくクルト王子が参られます。フィル様、これを」

 僕は頷き、ラズールが差し出した扇子を受け取って鼻から下を隠した。
 そしてしばらくして「失礼します!」と天幕の外から大きな声がした。
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