銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 翌日のまだ夜の明けきらぬ早い時刻に、トラビスから使いが来た。クルト王子から話があるという。
 天幕の外で使いの者からの伝言を聞いたラズールが、奥で横になっている僕の傍に膝をつき、「起きてますか?」と聞いてきた。

「…起きてるよ。それに話も聞こえた」
「では水を持ってきます。先に朝餉を食べますか?」
「いや、すぐに会うよ。水だけ持ってきて」
「わかりました」

 外へ出ていくラズールの背中を見送って、のそのそと起き上がる。そして額を押さえて息を吐いた。
 少し頭が痛い。夜遅くまで手紙をしたため、これからのことを考えて眠れなかったからだ。

「痛…、後で薬を飲もう」
 
 痛みを誤魔化すようにコンコンと軽く額を叩いて立ち上がると、椅子に深く腰掛けて、昨日のことを思い返した。


 クルト王子に男だとバレて、その上リアムが僕を男だとわかって好きだということも知られてしまった。リアムは男でも女でも好きな人のことを隠したりはしないだろうけど。
 でも僕がしっかりと姉上のフリをできていないから、安易に気づかれたんだ。
 もしかして今まで会った人々にも、男だと気づかれていたのかもしれない。
 僕はずっとずっと、幼い頃から姉上のフリをしてきたけど、心の奥では嫌だった。僕は男なのにと拒否をしていた。母上に逆らうことなどできる訳がないから、我慢していたけど。唯一ラズールの前でだけは、本当の僕でいられたから、我慢できたんだ。
 ラズールはずっと、僕を僕として接してくれる。傍にいてくれると安心する。ラズールにはたくさん感謝してる。
 でも…もうすぐラズールから離れる。僕はリアムに会いに行く。幼い頃からずっと一緒だと約束したけど、最期は傍にいられなくてごめんね、ラズール…。本当にありがとう。
 一瞬でそこまで考えて、クルト王子の様子をうかがうと、クルト王子は「ふーん」と呟いて黙ってしまった。もう話す気は無さそうだったので、後をトラビスに頼んで、ラズールとその場を離れたのだ。
 レナードの天幕に戻ると、ゼノがいなかった。  
 レナードが僕とラズールを中に入れながら「遅かったですね」と眉尻を下げる。

「心配しましたよ。フィル様のお戻りが遅いので、クルト王子が暴れているのかと…」

 僕はすすめられた椅子に座りながらレナードを見上げる。

「大丈夫だよ。彼は大人しくしてるよ。何かを考え込んでいる風だったけど」
「そうですか。素直に軍を撤退させてくれるとよろしいのですが…」
「そうだね。ところでゼノはどうしたの?」
「部下の天幕を一つ空けたので、そちらに移ってもらいました。俺も今夜はそこで休みます。フィル様はラズールとここでお休みください」

「えっ、四人で休んでよかったのに」とブツブツと言う僕に「狭いですから」とレナードが笑う。そして手早く自身の荷物を持つと、挨拶をして出て行った。
 

 

 



 
 
 
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