銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「ちょっ…フィル様!」
「なんだとっ?」

 トラビスとレナードが同時に叫ぶ。
 ゼノが目を丸くして二人を交互に見ている。
 いきなりレナードが拳で机を叩いた。

「おまえっ、あの者が何をしたのか忘れたのか!」
「忘れてはいない。しかしネロは反省してる。それにネロの生い立ちを思えば仕方がないのではないか?」
「はあ?だとしても俺は許すことはできぬっ」
「おい、口を慎め。ネロは王の血族だぞ」
「うるさいっ」
「トラビス!レナード!」

 このままほおっておけば、掴み合いに発展しそうだと、僕は二人を止める。

「トラビスはレナードを煽らない。レナードも口の利き方に気をつけて。今トラビスが言ったように、ネロは反省している。それにネロの境遇からして、僕よりも民のことをよく理解しているから、民に寄り添った国政を執り行ってくれると思う」
「しかしフィル様」
「これからのネロを見てやって。お願い。僕はもう、いなくなるんだ。こんなこと、二人にしか頼めない…お願い」
「…はい」

 ようやくレナードが頷いた。とても不服そうな様子ではあるけども。
 僕はゼノに向き直って謝る。

「ゼノ、見苦しい所を見せてごめんね」
「いえ、ネロとは第一王子に従っていたあの男ですよね?イヴァル帝国の王族の血を引いていたとは驚きです。俺が口を挟むことではないですが…本当に大丈夫ですか?」

 ゼノまで心配そうな顔で聞いてくる。
 まあネロがやってきたことを考えれば、誰でもそう思うのは仕方がない。
 僕は笑って力強く頷く。

「大丈夫だよ。この三ヶ月間、ネロとはたくさん話したんだ。彼は、心の優しい人だよ。それに大切なもののためなら、自分を犠牲にしてでも心血を注いでくれる。だから僕は彼に託すんだ」
「わかりました。フィル様がそう仰るなら大丈夫でしょう。では、我々のこれからのことを相談しましょう」
「うん。朝のうちにクルト王子をバイロン国側に帰して、即刻撤退してもらおうと考えてる」
「そうですね。早い方がよろしいかと」
「待ってください!」

 話をさえぎられて僕は溜息をつく。
 トラビスが立ち上がり、僕の傍に来て膝をついた。

「早すぎませんか?もう行かれるのですか?今日でなくともいいのではありませんかっ?」
「トラビス…悠長になんてしてられないんだ。こうしてる間にもリアムが苦しんでる。それに…僕の命もいつまで持つかわからない」
「しかし…っ」

 僕も立ち上がると、トラビスの頭を抱きしめた。
 驚いたのか、トラビスが身体を震わせて黙る。

「ねぇトラビス、僕のことを心配してくれてありがとう。ずっとおまえのことは嫌いだったけど、今は傍にいてくれてよかったと思ってるよ。これからは全力でネロを守ってあげて。僕との約束だよ」
「…フィル様…」

 トラビスが消え入りそうな声で、僕の名を口にした。


 
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