銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 軽食を食べ終えた頃に、扉が鳴った。待ち人が来たようだ。

「どうぞ入って」 軽食を食べ終えた頃に、扉が鳴った。待ち人が来たようだ。

「どうぞ入って」
「失礼する」

 低い声が聞こえ男が入ってきた。ゼノを見て「よお」と笑った後に、ゼノの向かい側に座る俺に気づき、軽く頭を下げる。
 俺も目礼をして男を注視する。
 男は机の側に来ると、着ていたマントを脱いで椅子にかけた。マントの下は、イヴァルの黒い軍服だ。
 俺は男からゼノへ視線を移し、問うように見つめた。
 ゼノが問いに答えてくれる。

「彼はジルという。ラシェット様の忠実な部下だ。会ったことがあるだろう?」
「ラシェット殿の?…ああ、そういえばあの場にいたな」

 思い出したくもないことを思い出した。記憶を失った第二王子に、フィル様が左腕を切り落とされた時のことだ。あの場にこの男もいた。たいそう謝られたことを覚えている。
 ジルが俺の前に立ち、謝罪する。

「あの時は申しわけなかった。今現在フィル様が元気に過ごされているとはいえ、あの時のことを思うと胸が痛む」 
「元気だと?フィル様が?」
「…何かあったのか?」

 ジルが驚いた顔をする。
 ゼノがジルに「とりあえず座れ」と隣の椅子を指し示す。
 素直にジルが座ったのを見て、ゼノが話し始めた。

「フィル様の体調が良くないらしい。あの時のことが原因ではないと思うが、一因ではある。フィル様は元より華奢きゃしゃな身体付きだ。その身体にイヴァル帝国の王族に伝わる呪いを受けていたそうだ。どれほどの負担がかかっていただろうか。解呪かいじゅされた時には、仮死状態になっている。短期間で元の体力以上に元気になるのは無理がある」
「なんと…そうであったか」

 ジルが更に驚いた顔になる。フィル様が仮死状態になった時、ラシェット殿の部下ならジルも城にいたはずだ。フィル様が大変な目にあわれたこともわかっているはずだ。それなのにフィル様が元気になられ、健やかに過ごされていると信じていたのだろうか。
 いや…俺もジルのことは言えない。俺もフィル様は元気でいると信じていた。そう思いたかった。熱を出されていないか、寝込んでおられないかという不安を胸の奥に押し込んで、大丈夫だ、元気で笑っておられると思い込もうとしていた。もっと早くにフィル様の体調不良に気づきたかった。もっと早くに医師から鉱石のことを聞いて探しに来ればよかった。俺はずっと悔やんでいる。



 
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