天狗の花嫁

明樹

文字の大きさ
上 下
216 / 221

番外編 かすみ草

しおりを挟む
◇話が飛びます。凛の卒業式◇


銀ちゃんと再会してから三年が経った。
今日は高校の卒業式。新しい門出を祝うかのように青く晴れ渡った空の下、玄関で見送る銀ちゃんに大きく手を振って、俺は走って駅に向かった。


清忠と電車に揺られながら、いろんな事があったなぁ…と懐かしく思い返す。
銀ちゃんと再会してからの一年は、俺の人生の中で断トツに激しい一年だった。
次の一年は、初めに辛い事もあったけど、嬉しい事の方が多かった。清忠に彼女が出来たし、鉄さんが結婚して、鉄さんの奥さん、杏さんのお腹に赤ちゃんが出来た。
去年は、何事もなく平穏に過ごせたけど、俺が受験で頭がパンクしそうになった。でも銀ちゃんが、勉強や気持ちの面で支えてくれたから、頑張って乗り越えられた。
おかげで、銀ちゃんが通った大学ほどではないけど、俺の希望する大学に進学出来た。清忠も学部は違うけど、同じ大学で、また一緒に過ごせるようになって嬉しい。
倉橋とは違う大学になったけど、定期的に倉橋の神社に、俺と清忠と浅葱で遊びに行ってる。この四人の友達関係は、ずっと続けたいと思っている。





卒業式を行う為に、体育館に入場する。入場するなり、とても目立つ集団がちらりと目の端に映った。俺は少し苦笑しながら、隣に座る清忠に小さく囁く。


 「あそこ…すごく目立つよね?清忠の兄さん、なんで銀ちゃんの横にいんの?」
 「わかんね…。そもそも、俺は来なくていいと言ったんだけどな。てか、一ノ瀬さんを挟んで兄さんの反対側に座ってんのって…」
 「うん、俺の兄ちゃん。その隣が兄ちゃんの恋人の茜さん。茜さんは銀ちゃんの従姉妹なんだよ」
 「へぇ~、凛ちゃんの兄さんって、あんま凛ちゃんに似てないんだな。でもかっこいい」
 「ちょっと待って。俺に似てなくてかっこいいって何?それって俺はかっこよくないってこと…」
 「違うって。凛ちゃんはかっこいいじゃなくて可愛いだろ?一ノ瀬さんにも、いつも可愛いって言われてるだろ?」
 「…銀ちゃんに可愛いって言われるのは嬉しいけど…。銀ちゃん以外にはかっこいいって思われたい…」
 「凛ちゃん…意外とわがまま…」
 「え?何か言った?ねぇ、それより銀ちゃんの後ろに座ってる人って…もしかして…」
 「お…俺も気づいた…っ。あれって、は、白様…だよな…。人間に変化してるんだろうけど、オーラがヤバい…」
 「う、うん…。倉橋を見に来たのかな…」


倉橋が座る方を二人でそっと見ると、後ろを向いた倉橋が、大きく溜め息を吐く姿が見えた。


滞りなく卒業式が進んでいって…るはずなんだけど、複数の生徒がちらちらと後ろを振り返り、保護者席の辺りも少し騒ついてる気がする。両脇に並んで立つ先生の中にも、隙をみては、保護者席に視線を向ける人もいる。


ーーまあ、あんな目立つ集団がいたら、気になって仕方ないよね…。兄ちゃん、あんな華やかな集団の中にいて、大丈夫かな…。


俺は少し心配になり、そっと後ろを向いて首を伸ばした。その瞬間、銀ちゃんと目が合って、綺麗な笑顔で微笑まれる。俺は慌てて前を向くと、熱くなった頰を袖で擦って俯いた。


銀ちゃんの顔は、毎日いっぱい見てる。朝なんて目覚めるといつもどアップで、俺の顔にキスをしまくっている。俺だけに見せる綺麗な笑顔だって、充分見慣れているはずだ。
だけど、いつまでたっても銀ちゃんは、俺をどきどきとさせるんだ。
さっきの見慣れたはずの笑顔で、俺の胸がきゅーっと締めつけられて苦しい。


ーーさっきの笑顔…。ヤバかった。超かっこいい!


あの人が俺の旦那様なんだと思うと嬉しくなって、今度は顔がだらしなく緩んでしまう。俺はニヤける顔を真顔に戻そうと、頰を軽く摘んだ。





卒業式が終わって教室に戻る。
先生が来るまでの休憩時間に、銀ちゃんからメールが入った。
俺はメールを読んで、弾んだ声を出した。


 「清、倉橋、今日は清ん家でお祝いだって!やったぁっ。いっぱい食べて、楽しく過ごそうなっ。あ、でも、場所は清ん家でよかったの?」


清忠と倉橋も、制服のポケットからスマホを出して確認する。


 「あ、ホントだ。兄さんからメールがきてる。うちが一番広いし、右近と左近が料理が出来るから、兄さんが誘ったみたいだよ。だから気にしなくていいし。いいじゃん!楽しもうっ。あ、茉由ちゃんにも声かけていい?」
 「宗忠さんが?そっかぁ、ありがと。うん、呼んであげなよ。たくさんいた方が楽しいし」
 「うん。さっそく聞いてみる」
 「あ…。白から、先に行って待ってるから早く来いってメールきてるわ」
 「「…えっ?」」


見事に清忠とハモってしまった。
清忠はメールを打つ手を止め、俺は固まって倉橋を見つめた。


 「ん?」
 「え?あの…、白様ってメールするの?」
 「え?何それ?念力?念を飛ばしてメール送ってきたのか?」


倉橋が、俺と清忠を交互に見て声を出して笑った。


 「あははっ、真葛はおもろい事言うな。椹木も驚き過ぎやで。念力ってなんやねん。白がスマホを使いたいって言うから、一番操作が簡単なやつを渡してんねん。白は何でも出来そうに見えて意外と不器用でな、メールを打つのが遅い。でも、ちゃんと使いこなせてるで」
 「「へぇ~…」」


あの白様が、スマホを弄ってる姿が想像出来ない、と清忠と間の抜けた顔をして、間の抜けた返事をした。
しおりを挟む

処理中です...