ふれたら消える

明樹

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 昊の教室に着くと、タイミングよく昊が出てきた。

「昊!」
「青?まだ休憩じゃないだろ?」

 俺は昊の前で足を止め、太ももに手をついて肩で息をした。

「はあっ…あー疲れたっ」
「走ってきたの?」
「そう…」

 俺の額から頬に流れ落ちた汗を、昊が手のひらでぬぐう。
 俺の心拍数が一気に上昇する。
 俺を見上げながら「あつそーだな」と笑う昊が愛しくてたまらない。俺より頭一つ分小さな昊がかわいくて、強く抱きしめたくてたまらない。
 ぼんやりとした頭でそんなことを考えて、昊に手を伸ばしかけたその時、夏樹に呼ばれて正気に戻った。

「青じゃん。なにしてんの」
「…休憩時間、代わってもらったんだ。だから昊と回ろうと思って来た」
「そうなんだ?じゃあ早く行こうぜ」
「うん…」

 俺はうなずき、昊の腕を掴んで笑う。

「ごめん昊…俺の汗、ついちゃったね」
「いいぜ。こうやって拭けばいいし」
「おいっ、俺のシャツじゃん!」
「あははっ!だっておまえの汗だし?」
「そだけど!」
「ほら行こう。時間が無くなる」
「うぐ…」

 昊が、俺に掴まれた腕を引いて歩き出す。
 昊の腕を掴んでるのは俺なのに、まるで昊に手を引かれているような感覚になり、なんだか嬉しい。
 周りの人達に見られてる気がするけど、どうでもいい。昊が触れるのは、俺だけなんだ。昊に触れていいのも、俺だけなんだ。周りのヤツらに見せつけてやる。
 夏樹を先頭に廊下を進んでいると、視線を感じて横を見た。

「ちっ…」

 自然と舌を打ってしまった。
 篠山だ。教室の扉の前に立ち、腕を組んで俺をにらんでいる。
 くそっ、嫌なヤツに会ってしまった。なんだよあの目…絶対にまだ昊をあきらめてないじゃん。俺が昊の腕を掴んでるから、怒ってる目じゃん。
 俺は昊の腕を強く引いた。
 昊がよろけて、俺の胸に倒れてくる。

「うわっ!青っ、なに…」
「ムカつくやつがいた。昊、あっち見んなよ」
「え?」

 しまった、余計なことを言った。見るなと言われれば見たくなるのが人間というものだ。昊が振り返り、篠山が照れたように笑った。しかしなれなれしく手を上げかけた篠山を無視して、昊が歩き出す。

「ほんとだ。胸糞むなくそわりぃから早く行こうぜ、青、夏樹」
「ははっ!おまえってキレイな顔してんのに毒舌ぅ」
「夏樹うるせー」
「口も悪いんだからぁ」
「数学のノート貸さなくてもいいんだな?」
「あっ、あっ、ウソですごめんなさい昊くん」
「あははっ!」

 二人の軽快なやり取りを見て、俺の気持ちが明るくなった。この二人は本当に仲がいい。それに夏樹は昊を変な目で見ていない。純粋に友達として仲がいい。だから俺は、夏樹が昊の傍にいてくれることに、心底安心してるんだ。
 
 
 
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