ふれたら消える

明樹

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 夏樹の部屋は広くて、机とベッドの他にソファーもある。部屋に入るなりソファーに座らされ、冷たいペットボトルの紅茶を渡された。

「今日はお疲れ。はいこれ。昊の好きなミルクティー」
「…ありがとう」
「で?なにがあった?」
「え?」
「だってさ、おまえ休憩の後からずっと変じゃん」
「そんなに変だった?」
「おう」

 俺はペットボトルの蓋を開けてひと口飲むと、隣に座った夏樹と目を合わせた。

「あのさ…夏樹は俺の気持ち、知ってるだろ」
「知ってる。それに無責任かもだけど、俺は昊の気持ちを応援してる」
「うん…ありがとな。そう言ってくれる夏樹に、俺は救われてる…」
「青と何かあったのか?でも青はいつもと変わんなかったけど」

 俺はもう一口飲んでペットボトルを机に置き、両手で顔をおおった。

「はあ…、早く大人になりたい」
「なんでだよ」
「家を出たい…青から離れたい」
「なんで」
「傍にいるのが辛いんだよ」
「昊…」

 以前に夏樹が、たとえ報われなくても、好きな人の傍にいられるなんて幸せじゃんって話してた。でも俺はそうは思わない。報われないのなら、傍にいるのは辛いだけだ。確かに毎日顔を見て声を聞けることは嬉しい。でもその内に、青が俺以外の誰かの傍にいる姿を見る日が来るかもしれない。そんなのは嫌だ。見たくない。そうなる前に離れたいんだ。
 俺はゆっくりと手を離して、ペットボトルについた水滴を見つめた。

「今日の休憩中、青に起こしてくれるよう頼んで、図書室で寝てたんだ。俺が起きたら青も隣で寝てた」
「うん」
「無防備な青の顔を見て、キスした」
「うん…ていうか、今までしてなかったの?」
「してねぇよ。できるかよ」
「そっか。昊は純粋だな」
「純粋じゃねぇ。青の許可なくキスした。それを篠山に見られた」
「はあっ?」

 夏樹が大きな声を出す。
 俺は夏樹を見て苦笑する。

「最悪だよな。でも篠山は誰にも話さないと思う」
「なんで」
「口外しないと約束する代わりに…つき合うことになったから…」
「誰とっ」
「俺と篠山」
「はあっ?ダメだろ!」
「いいんだよ、これで」

 思いの外、夏樹が怒ってる。それが何だか嬉しくて、俺は笑ってしまう。

「昊っ、篠山のこと好きじゃねぇだろ?」
「好きになるよう、努力する」
「努力してどうにかなるもんじゃねぇからな!それに好きな人がいるくせにっ」
「青への気持ちは間違ってるんだ。だから俺は、篠山を好きになる努力をするよ」
「そんなの…っ、納得できない!」
「なんで夏樹がそんなに怒るの。ほんと…おまえは優しいな」
「昊には…幸せになってほしいんだよ。俺の一番の友達だから…」
「うん、ありがと。俺も夏樹は一番の友達だよ」

 夏樹が顔を真っ赤にして涙ぐんでいる。自分のことじゃないのに本気で心配してくれる。いつもそうだ。夏樹にはずいぶんと助けられている。だから俺も、夏樹が困った時は助けてあげたい。
 俺はもう一度「ありがとな」と言って、残りのミルクティーを飲み干した。
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