ふれたら消える

明樹

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「昊、どこに行くの?塾じゃないよね?」
「…友達と会うんだよ。おまえは部活だろ?暑いから気をつけろよな」
「友達って誰?篠山じゃないよね?」

 俺はため息をついて靴をはこうとした足を止める。足音を立てないよう、静かに階段を降りてきたのに、青が気づいた。気づいて追いかけてきた。
 先週、篠山が家に来てつき合ってたことをバラした。その時から青が俺にベッタリだ。俺は青が好きだから気にかけてくれることは嬉しい。だけど青のそれは、典型的なブラコンだから。俺の好きとは違う。だからからまれると少し、めんどくさく思う。

「隣のクラスのやつ。夏樹の次にいいやつだよ。青に話してなかったけど、先週篠山が来たじゃん」
「うん…」

 青の顔が明らかに不機嫌になる。かなり篠山が嫌いなんだろう。俺も嫌いだけど。今からする話で、更に篠山に対して嫌悪感を持つことになるけど、まあいいか。

「あの時さ、篠山が俺の首を押さえてキスしようとしやがった」
「は?なにそれっ」

 青が声を上げると同時に、俺の横を走り抜けて玄関を飛び出そうした。
 俺は慌てて青の腰にしがみつく。

「ちょっ…、どこ行くんだよっ!」
「篠山を殴ってくる!」
「最後まで聞けって!何もされてないからっ」
「…ほんとに?」
「ほんとに」

 青の身体から力が抜ける。そして安心した様子で、俺の肩に頭を乗せた。

「だから…首が赤くなってたんだ?昊はかゆくてかいたからって言ってたのに…嘘つき」
「ごめんな?おまえを心配させると思ってさ…嘘言って悪かった」
「うん…それでどうしたの?」

 青が顔をあげない。仕方なく俺は、青の柔らかい髪の毛を撫でた。

「その時に助けてくれたのが今日会う友達だ。篠山を追い払ってくれたんだよ。悔しいけど俺は力でかなわなかったからさ…」
「そいつ…昊のこと好きなの?」
「はあ?んなわけねーだろ。女子にモテまくりのやつだぜ?彼女がいるんじゃねぇの」
「そう。いつ帰ってくる?」
「…おまえが部活から帰ってくる頃には、帰ってるよ」
「じゃあさ、夜に祭り行こ」
「祭り?ああ、今夜だっけ?」
「そう。颯人も来るし。夏樹にも声かけとく」
「わかった」
「約束だよ」
「ははっ、青はしつけぇな。約束したから安心しろ」
「じゃあ夜を楽しみに部活行ってくる」
「なんだそれ。あんまり無理すんなよ」
「大丈夫だよ。でも気をつける。昊も熱中症に気をつけて。行ってらっしゃい」
「ああ」

 ようやく機嫌が直った青に向かって笑う。
 青はかっこいいけどかわいい。俺の大切な弟で、愛する人だ。


 
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