ふれたら消える

明樹

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 青が一瞬驚いた顔をした後に、こちらを向いて笑顔で言う。

「そうだな。昊、今から行こうよ。柊木さんは昊と映画を観終わってるから、もういいですよね?」
「えー?俺、まだ昊と遊びたいんだけど」
「昊は?どうする?」

 柊木の言葉など聞こえてないかのようにスルーして、青が首を傾けて俺を見てくる。
 俺は、青が怒っていないことにホッとした。そしてゆっくりと頷く。当然、青といたいから。

「青、映画観に行くか」
「うん」

 柔らかく笑う青に、俺の胸がキュウと締めつけられる。いまだかって、理由は分からないけど、俺にだけしか向けられたことのない優しい笑顔。そんな顔を向けられたら再認識してしまう。心から好きだ、青。
 前方から柊木の不満気ふまんげな声が聞こえる。

「行っちゃうの?つまんないなぁ」
「暇なら俺がつき合ってやるぞ」

 面倒くさそうに夏樹が息を吐く。
 先ほどまで温和な表情だった柊木が、真剣な顔になり周りの空気がピリッと冷えた気がした。

「いい、俺は昊と遊びたいんだ。今日はもう帰るよ」
「ふーん、そ」

 夏樹の雰囲気も怖いものに変わる。
 一応謝った方がいいのかと口を開きかける前に、柊木が席を立った。

「じゃあまたね、昊。今度は一日俺につき合ってくれよ」
「……ああ」

 少し罪悪感を持った俺は、小さく頷く。途端に隣からも冷たい空気を感じて、ねるように顔を上げて青を見た。
 青は、なんの感情も読み取れないような冷たい目で柊木を見ている。

「柊木さん、昊も忙しいから、あまり邪魔しないでくださいね」
「それは昊が決めることじゃないの?弟くんにしろ宮下くんにしろ過保護だよねぇ。まあ、昊が魅力的だから仕方ないよね」

 はは!と笑って机にアイスコーヒーの代金を置き、柊木は店を出ていった。
 夏樹がテーブルの上の金を手に取り「俺達も出るか」と立ち上がる。
「そうだね」と青が腰を浮かせたので、俺も鞄を持って席を立った。


 
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