ふれたら消える

明樹

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 二人揃って横を向く。すぐ近くに肩より少し長い黒髪の、目の大きな女の子がいた。その大きな目が、青と俺を交互に見る。
 青が俺を背後に隠すようにして、ためらうように話し出す。

「あ…佐藤さん、こんにちは。買い物に来たの?」
「うん。今から友達と会うんだけど…青くんも友達と?」

 佐藤さんと呼ばれた女の子が、青の背中に隠れた俺を覗き込んだ。目が合った俺は、仕方なく小さく頭を下げる。その時、青が小さく息を吐いた。
 とたんに俺の胸がツキンと痛む。「なんだよ、俺がおまえの知り合いと会っちゃ、マズイのかよ」と口の中で文句を言う。小さすぎて青にも佐藤さんにも聞こえてはいない。
 今の青の態度で一気に気持ちが萎えた俺は、青と佐藤さんの横を通って、「先行くわ」とさっさと歩き出した。

「え?昊っ、待っ…」
「え?お友達どうしたの?」
「ごめんっ、またな!」

 青が焦った様子で追いかけてくる。
 俺は走り出した。走って逃げた。今、青の顔を見たら、余計なことを口走ってしまいそうで、怖くて逃げた。なんで手振りほどいたんだとか、一緒にいるとこ見られんの嫌なんだろとか。しかも友達ってなんだよ。否定しろよ。まあ否定したって、兄だと紹介されるだけだけど。
 俺は人をかき分け細い路地に逃げ込む。しかしろくに運動もしていない俺が、サッカー部の青を撒けるはずもなく、呆気なく追いつかれてしまう。
 俺は掴まれた手を強く引く。だけど青の手の力は強くて離れない。

「なに…追いかけてくんな」
「なんでだよ。先に行くなよ」
「別に…いい歳して兄弟で出かけてるの、見られたくないだろ」

 決して青の方を見ないようにして、嫌な言葉を口にする。くそっ、何言ってんだ俺…。自分が嫌になる。こんな拗ねたような態度、したくないのに。
 クイと手を引かれて足を前に出した。
 青が俺の手を引いて歩き出したのだ。
 俺は、汗でTシャツの色が変わった青の背中を見る。

「なあ、家に帰りたいんだけど」
「そのつもりだけど?同じ家に住んでるんだから、一緒に帰るよ」
「でもさ、おまえ、あの子置いてきてよかったのかよ」
「なんで?ただのクラスメイトだし、今は昊といるじゃん」
「でも、俺といるの、見られたくなかったんだろ?」
「なんでそう思うの?」
「すげー勢いで手を離したじゃん」
「…あれは」

 言い淀んだ青に、俺はなんだか泣きそうになった。これ以上話すと声が震えてしまう。
 結局俺と青は、家に着くまで何も話さなかった。

 
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