ふれたら消える

明樹

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 先生と過ごす時間は気が紛れるけれど、昊のことが頭から離れることはない。同じ家にいる時でさえそうなのだから、学年もクラスも違う学校では尚更だ。今何してるんだろうとか、柊木と一緒なのかとか考えて寂しく思ってしまう。
 今もぼんやりと書類を整える先生の手元を見ていると、「好きな奴のこと考えてるの?」と先生が聞いてきた。
 先生は遠慮がない。思ったことを口に出す性格なのだろう。え?それ聞く?ってこともズケズケと聞いてくるから困る。
 俺はちらりと先生の目を見て「そうだよ」と小さく溜息をついた。

「わあ…そこは気を使って『違う』って言って欲しかったなぁ」
「なんで?聞かれたから正直に答えたんだけど」
「なんでって、俺は森野が好きだって言ってるじゃん」
「だからそれ、セクハラですよ?もしくは犯罪です。俺、未成年だし」
「森野が本当に嫌がってるなら言わない。でも、なんだかんだ森野は俺を拒絶しないで話してくれる。すごく優しいよね。見た目もそういうところも、ほんと好き」
「それはどうも。でもやめてくださいね」
「はぁ…ほんと塩対応…」

 当たり前だ。好きだと言われて嬉しいのは、昊にだけだ。昊に想いを向けてもらえたら、この上ない幸せなのに。去年の夏から色彩が消えた俺の世界が、色鮮やかになるのに。
 俺はもう一度そっと息を吐き出すと、机の上の書類に手を置いた。

「これを運ぶんですか?どこに?」
「森野のクラスに。六限目、数学だろ?」
「あ…」
「えー、うそだぁ。もしかして忘れてた?」
「…はい」
「課題は?」
「やったけど家に置いてきました」
「必ず今日提出って言ったよ」
「放課後…取りに行ってきます」
「悪いけどそうしてくれる?森野だけ特別扱いできないから」

 少し目線を上げた先生と目が合う。
 先生は「ごめんね?」と申し訳なさそうに眉尻を下げる。
 年の割に幼い顔つきで、かわいいと女子の間では人気だ。男子に告白されたこともあるという、噂もある。確かに大きな目に見つめられると、目が離せなくなりそう。でも俺の感想は、目が良さそうだなっていうだけだ。それに…特別扱いできないってなんだよ。俺のこと好きだと言ってる時点で、かなり特別じゃん。先生は明るい性格だけど、見た目通り子供っぽい気がする。昊の方が余程大人だ。
 昊のことを考えたら昊に会いたくなってしまった。早く家に帰りたい。課題取りに帰るの、面倒だな。

「先生」
「ダメ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「森野が考えてることはわかる。ダメ」

 エスパーかよと可笑しくなって、俺はぷッと吹き出した。
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