ふれたら消える

明樹

文字の大きさ
67 / 89

34

しおりを挟む
 弾かれるように青から離れて、声が聞こえた後ろを向く。「あ…」と声が出たけど言葉が続かない。頭の中が真っ白になる。
 ドアの前に、母さんがいた。
 いつ、帰って来た?いつ、入って来た?玄関が開く音も、廊下を歩く足音も、リビングのドアを開ける音にも、全く気づかなかった。青とのキスに夢中で、気づけなかった。見られた…どうする?ふざけてたって言う?…無理だ、あんなに激しいキス、ふざけてはしない。でも俺は後ろ姿だったし、なんとかごまかせないだろうか…。
 俺が黙って固まっていると、青が先に口を開いた。しかも俺を庇うように前に出て。

「おかえり。早かったんだね」
「青…あなた…たち…今、なにしてたの…」

 母さんの声が震えている。ああダメだ。やっぱりごまかせない。母さん、ショックだろうな。そりゃあそうだろう。自分の息子達がキスしてたんだから。
 なのに逆に青はとても落ち着いている。なぜ…と思ったけど、すぐにわかった。そうか、青は覚悟ができてるんだ。誰にバレて何を言われても、自分の気持ちに嘘をつかない覚悟が。
 青が静かに、はっきりと言う。

「見た通りだよ。キスをしてた」
「な…なんで。ふ、ふざけて…」
「ふざけてなんかない。俺がしたかったからしたんだ」
「どういうことっ?」

 母さんの声が、だんだんと荒くなる。比例するように、俺の手が震え出す。俺の不安な様子に気づいたのか、まるで大丈夫だというように、青が後ろに回した手で俺の手に触れた。それだけで、俺の震えが少しおさまる。
 好きな人の力って偉大だ。青の大きな背中を見ていると、だんだんと落ち着いてきた。なんだか上手くいくような気がしてきた。でも現実では、俺と青が恋人同士になるなんてことは、決してない。兄弟で、男同士で恋愛なんてタブーもいいところだからだ。その証拠に、ほら、いつも優しい母さんが、今までに見たことないくらい怖い顔をしている。
 でも青は、母さんの様子に怯むことなく、正直に話し続ける。

「俺は、昊が好きなんだ。家族に対する好きじゃない。恋人として、触れたり触れられたりしたいと思ってる」
「青っ!それは勘違いよ。兄弟として好きなことを、勘違いしてるのよ!あなた小さい頃から昊にべったりだったからっ」
「勘違いじゃない。悩んだり考えたりもしたけど、俺の中ではっきりしている。俺は、昊が好きだ」
「青…っ!昊は?昊もそうなのっ?」

 急に問われて言葉に詰まる。でも俺も青が好きだ。ずっと好きだった。だからそう言おうとしたのに、青に遮られた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる

ユーリ
BL
魔法省に悪魔が降り立ったーー世話係に任命された花音は憂鬱だった。だって悪魔が胡散臭い。なのになぜか死神に狙われているからと一緒に住むことになり…しかも悪魔に甘やかされる!? 「お前みたいなドジでバカでかわいいやつが好きなんだよ」スパダリ悪魔×死神に狙われるドジっ子「なんか恋人みたい…」ーー死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる??

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

完璧な計画

しづ未
BL
双子の妹のお見合い相手が女にだらしないと噂だったので兄が代わりにお見合いをして破談させようとする話です。 本編+おまけ後日談の本→https://booth.pm/ja/items/6718689

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...