72 / 89
35
しおりを挟む
そして今夜も、昊は俺と目を合わせてくれない。
バイトで遅くなった俺は、母さんが作り置きしてくれていた夕飯を食べ終え、皿を洗っていた。すると昊が冷蔵庫の水を取りに来た。その時伸ばした昊の白い腕の内側に、赤い跡がついていることに気づく。
俺は濡れたままの手で昊の腕を掴み「どうしたの、これ?」と聞く。
「なんでもない…触るな」
そう冷たく言い放って、昊が俺の手を振り払う。そして目を合わすことも無くリビングから出て行く。
俺は昊の華奢な背中を見て、深く息を吐く。
またいつもの態度…寂しい。俺はもっと話したいのに。それにあの腕の跡って…キスマークじゃん。柊木のやつ、絶対にわざとだろ。俺を牽制してるのか、昊に関わる全ての人を牽制してるのか。くそっ!昊はおまえのものじゃない。昊は母さんのことを想って、自分の気持ちを隠しておまえとつき合ってるだけなんだ。…と俺は信じてるけど、違うのかな。昊の態度があまりにも冷たくて、本当に俺のこと、嫌いになったのかなって、最近は思い始めてる。それなら俺も、昊から離れた方がいい。
俺は水を止めて手を拭きながら、同じ大学の、優しく笑う神山さんの顔を思い浮かべた。
俺は昊とは同じ大学には行かなかった。合格をもらっていたけど、ギリギリまで悩んでやめた。昊が柊木と一緒にいる姿を見たくなかったから。
大学に入って半年経った今、それで良かったと思っている。それにいくつかの講義が一緒の女子がいる。彼女の方から声をかけられて話すうちに、仲良くなった。こんなに楽しく話せる女子は初めてだった。
彼女は神山さんと言う。バイトも俺と同じ所に入ってきた。親しげに話しかけられ、ここまで追いかけられたら、さすがに好意を持たれていると気づく。実際、神山さんに「つき合っている人はいるのか」「好きな人はいるのか」と聞かれたことがある。
俺は正直に「つき合ってる人はいないが、好きな人はいる」と話した。
神山さんはショックを受けていたけど、まっすぐに俺を見て聞いてきた。
「その人とはつき合わないの?」
「つき合いたいけど、無理なんだ」
「どうして?」
「嫌われているから」
「それでも…好きなの?」
「好きだ」
「…私も、青くんが好きです」
「うん…ありがとう」
「私の気持ちを知っていてほしい。もし青くんがその人のことを吹っ切れたら、私とつき合ってほしい…です」
「うん…」
神山さんは本当に優しくて、昊を好きじゃなかったら、たぶんつき合っていた。でも、昊を忘れるために、つき合ってもいいかもしれない。もう、柊木の傍にいる昊を見るのが辛くてしんどい。
バイトで遅くなった俺は、母さんが作り置きしてくれていた夕飯を食べ終え、皿を洗っていた。すると昊が冷蔵庫の水を取りに来た。その時伸ばした昊の白い腕の内側に、赤い跡がついていることに気づく。
俺は濡れたままの手で昊の腕を掴み「どうしたの、これ?」と聞く。
「なんでもない…触るな」
そう冷たく言い放って、昊が俺の手を振り払う。そして目を合わすことも無くリビングから出て行く。
俺は昊の華奢な背中を見て、深く息を吐く。
またいつもの態度…寂しい。俺はもっと話したいのに。それにあの腕の跡って…キスマークじゃん。柊木のやつ、絶対にわざとだろ。俺を牽制してるのか、昊に関わる全ての人を牽制してるのか。くそっ!昊はおまえのものじゃない。昊は母さんのことを想って、自分の気持ちを隠しておまえとつき合ってるだけなんだ。…と俺は信じてるけど、違うのかな。昊の態度があまりにも冷たくて、本当に俺のこと、嫌いになったのかなって、最近は思い始めてる。それなら俺も、昊から離れた方がいい。
俺は水を止めて手を拭きながら、同じ大学の、優しく笑う神山さんの顔を思い浮かべた。
俺は昊とは同じ大学には行かなかった。合格をもらっていたけど、ギリギリまで悩んでやめた。昊が柊木と一緒にいる姿を見たくなかったから。
大学に入って半年経った今、それで良かったと思っている。それにいくつかの講義が一緒の女子がいる。彼女の方から声をかけられて話すうちに、仲良くなった。こんなに楽しく話せる女子は初めてだった。
彼女は神山さんと言う。バイトも俺と同じ所に入ってきた。親しげに話しかけられ、ここまで追いかけられたら、さすがに好意を持たれていると気づく。実際、神山さんに「つき合っている人はいるのか」「好きな人はいるのか」と聞かれたことがある。
俺は正直に「つき合ってる人はいないが、好きな人はいる」と話した。
神山さんはショックを受けていたけど、まっすぐに俺を見て聞いてきた。
「その人とはつき合わないの?」
「つき合いたいけど、無理なんだ」
「どうして?」
「嫌われているから」
「それでも…好きなの?」
「好きだ」
「…私も、青くんが好きです」
「うん…ありがとう」
「私の気持ちを知っていてほしい。もし青くんがその人のことを吹っ切れたら、私とつき合ってほしい…です」
「うん…」
神山さんは本当に優しくて、昊を好きじゃなかったら、たぶんつき合っていた。でも、昊を忘れるために、つき合ってもいいかもしれない。もう、柊木の傍にいる昊を見るのが辛くてしんどい。
4
あなたにおすすめの小説
弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~
荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。
これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って……
「龍、そろそろ兄離れの時だ」
「………は?」
その日初めて弟が怖いと思いました。
完璧な計画
しづ未
BL
双子の妹のお見合い相手が女にだらしないと噂だったので兄が代わりにお見合いをして破談させようとする話です。
本編+おまけ後日談の本→https://booth.pm/ja/items/6718689
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる