炎の国の王の花

明樹

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俺が十歳を過ぎた頃から、母さまが寝込むことが多くなって、父さまも母さまのことで頭がいっぱいで、俺がこの国を護らなきゃという思いが強くなった。
年々母さまの身体は弱くなっていたけど、俺の十三歳の誕生日を前に、ローラントおじさんからもらった薬で元気になった。
それから一年はとても元気だった。
でも一年で薬の効果が切れたらしく、母さまの体調は一気に悪くなった。

そんな母さまを見ていたから、俺は十歳の頃から強くなる為に頑張った。
母さまが悪くなった最後の一年は、特に頑張った。
俺はどうやら、生まれもって魔法の力が強いらしい。魔法を使えない母さまの血を引いていることが、逆に力を最大限に引き出せるのではないか、とシアンが話していた。

だから、どんな奴が来ようと負けない。
炎の国は、俺が護る!



リオが戻って来た翌日の昼頃、朝から青く晴れ渡っていた空に、一頭の飛翔馬が現れた。
俺は報告を受けて、城の正面広場に行った。
空を仰ぐと、確かに飛翔馬が一頭、空中に浮いている。
太陽の光が眩しくて、一瞬ヴァイスかと思ったが、よく見ると毛色が違った。
それなら父さまについて行った兵の馬かと思い声をかけようとすると、馬がすごい速さで俺の前に降りてきた。
馬の上の人物を見て、自然と身体に力が入る。
黒いマントとフード、フードから覗く怪しい赤い目、生気のない白い顔。
リオから聞いていた、母さまを狙う男だ。
やはり、この城へ来た。

男は、俺を見ると目を輝かせて口を大きく開けた。

「見つけた。おまえだ」
「…誰だ、おまえ」

白い顔に不気味な笑みを浮かべて、男が俺を指差す。
俺は、無表情で男を見た。

「俺は、この世界の頂点に立つ者だ。おまえ…その黒い髪とあいつにそっくりの顔。俺が生贄として呼び寄せた黒髪の奴と赤い髪の男との子供だな?」
「へえ?俺の両親を知ってるのか」
「知ってるとも!黒い髪のあいつと赤い髪の男に、俺の目的を邪魔されたからな!だが、ようやく目的を果たせる。黒い髪のあいつが死んだと聞いて落胆したが、おまえがいた。なあおまえ、俺の為に死んでくれ」
「なんで俺がおまえの頼みを聞かなきゃならないんだ。ふざけるな。おまえの目的は永遠に果たすことはできないぞ」
「なぜ?俺は今すぐにでもおまえを殺せる」
「無理だな。俺は簡単にはやられない。ところでおまえに聞きたいことがある。赤い髪の…父さまはどうした?」
「あはっ!」

男が更に大きく口を開けて、いやらしく笑う。

「あいつは死んだぞ。俺が焼き殺してやった」
「そうか…」

俺の目の前が赤く染まる。
激しい怒りで、俺の全身が炎に包まれた。



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