炎の国の王の花

明樹

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中央の城に着くと、シアンが正面広場で待っていた。
俺は、オルタナを着地させて地面に飛び降りる。頭を下げているシアンの前に立つと、「どういうことだ?」といきなり聞いた。
シアンは、ゆっくりと顔を上げて、困った表情を浮かべた。

「申し訳ありません。皆様でゆっくりと過ごされていた所に水を差すような真似をしたことは、重々承知しております。どのような処罰も受けます。ですが、急いだ方がよろしいかと思いまして…」
「…処罰はしないよ。別に怒ってるわけじゃないから。ちょっと残念に思っただけ。でも要件が済んだら、またすぐに戻るからね!」
「はい。今度は気が済むまで滞在して下さって結構です。それでは、早速よろしいですか?中へ…」
「約束だよ。それで?」

俺はシアンに促されて歩き出す。シアンが向かった先は、あの怪しい男を拘束している地下牢だった。

「なに?あいつ何かしたの?」
「いえ…。強力な魔法で両手両足を拘束してますから、何も出来ません。…ただ、数日何を尋ねても黙っていた男が、五日前から妙なことを言い出したのです」
「妙なこと?」

地下牢がある建物に入り、地下に降りる階段横の部屋に一旦入る。
シアンに勧められて椅子に座ると、目の前にお茶を出された。

「お疲れでしょう。少し休んでください」
「俺よりもオルタナが疲れてるから、充分に水分と餌を与えてやって」
「はい」

俺の横に立ち、地下牢がある方向を見つめるシアンの顔が、とても険しい。
これはとても良くないことだなと、俺はお茶を飲みながら思った。

「それで?何あいつ、まだ生贄だとか言ってるの?」
「はあ…まあ。生贄というか…。カナデ様のように他の世界から人が降ってきたと言うのです」
「はあ?」

俺は、飲もうとしたお茶を思わず零すところだった。
なんだそれ。母さまは、あいつが生贄にする為に呼んだんだろ。その話を聞いた時は腹が立ったけど、そのおかげで父さまと母さまが出会って俺が生まれたから、まあ良しとしよう。
でも今回降ってきたという人間は?またあいつが呼んだのか?

「適当なことを言ってるんじゃないの?」
「はい…。俺も信じてはないのですが。とにかくあの男が、カエン様を呼べとうるさいのです。詳しくはカエン様にしか話さないと…」
「はあ…っ、俺、気に入られちゃったのかな…。わかった。あいつに会いに行こう」
「俺が何とかしようと思ったのですが。本当に申し訳ありません」
「シアンは何も気にしなくていいよ。あ、それと父さまは元気になったから。ただ髪の毛が短くなってしまったんだ。綺麗な髪だったのに。でも短髪も似合ってかっこいいんだよ」
「アルファム様は、美しいですから。カエン様も、最近特に美しくなってきております」
「俺?そうなのかなあ。それでさ、父さまと話してて髪の毛を伸ばすことにした」
「ああ、それはいい。きっとお似合いですよ」

部屋を出て、階段を降りながらシアンと話す。
俺ににこりと笑いかけるシアンも、かなり美しい容姿をしている。女の人からの人気も高い。でもずっと独身なんだよな。なんでだろ?

俺がシアンを見ていると、シアンが急に真剣な顔つきになって、静かに頷いた。


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