溺れる天使は悪魔をもつかむ

明樹

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 ケントがアレンを睨んだまま「いいよ、それで」と冷たく言う。
 アレンのやつ、わざと敵を作ってないか?適当に流しておけばいいのに。まあ他人事だから、どうでもいいけど。
 そう言えば売店に行く途中だった、と階段を降り始めたエイルリスの背中に、ケントが声をかけた。

「君、ルリスって言うんだね。覚えておくよ」

 エイルリスは、チラリと後ろを見て、適当に答える。

「覚えても忘れても、どっちでもいいけど、俺の名前はルリスじゃない」
「え?だってアレン君がそう呼んでた…」 
「アレンが勝手に呼んでるだけだ。俺はもう行くから」
「待って」
「もういいだろ。早くそいつを連れて行けよ」

 まだ話し続けるケントを、アレンが遮った。
 アレンが遮らなくても、もう返事をするつもりはなかったけど。
 エイルリスは早足で売店に着くと、欲しかったパンがまだ残っていたので、少しだけ気分が上がった。
 エイルリスはパンを二個と紅茶を買うと、人が来ない場所へと向かう。
 なぜかアレンもパンと紅茶を買い、エイルリスの後をついて来た。
 アレンに穴場の人が来ない中庭の場所を知られたくない。だからといって、人がいる教室やカフェにも行きたくない。
 建物を出て廊下を進んでいたエイルリスは、足を止めて振り向いた。

「おまえ、教室に戻るか他に行けよ」
「え?なんで?一緒に食べようよ」
「アレンはさ、俺が嫌がってるとか思わないわけ?」
「ルリス…嫌なのか?そっか…」

 アレンが見るからにしょんぼりとして、中へと戻ろうとする。
 そのまま放っておいてもいいのだが、またアレンのことを考えてしまうかもと思うと腹が立つ。
だからエイルリスは、仕方なく「別に来てもいい」と、横を向いて素っ気なく言った。
 言った瞬間、アレンがエイルリスの隣に飛んできた。そこそこの距離があったのに、一瞬で戻ってきた。まるで翼があるかのように。
 エイルリスは驚いた。見ていなかったから、どうやって来たのかわからない。きっと素早く走ったのだろうけど。もしくは、幅跳びのように跳躍したのかも。
 飛び抜けて運動神経が良い奴だな、と、エイルリスは笑顔のアレンを見つめた。
 アレンは「そんなに見ないで…照れる」と意味不明なことを言っていた。


 二日後の午前中最後の講義の後で、エイルリスはケントとばったり会った。
 一応、ユラのことを聞いておくかとケントに声をかけた。自発的に声をかけるなんて珍しいことだ。そばにいたクラスメイトが、目を丸くして見てくる。即座に、エイルリスは声をかけたことを後悔した。
 ちっ、ユラのことなど放っておけばよかった。ケントに声をかけなければよかった。
 そう後悔したが、もう遅い。
 エイルリスは、ぼんやりと見てくるケントに聞く。

「なあ、ユラは元気になったのか?」
「ユラがどうしたの?君は、ユラと知り合い?」
「は?」

 ケントが、まるで初めて喋ったという様に、不思議そうに首を傾けた。

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