溺れる天使は悪魔をもつかむ

明樹

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 エイルリスが喋らなくなったから、アレンは不安になったのか、謝ってきた。

「ごめん。また悪魔の話をして。嫌だったよな」
「……別に」

 少しの間を置き、答える。そして静かに呼吸を整えると、顔を上げて口を開いた。

「アレン、おまえに聞きたいことがある」
「うん、なんでも聞いて。ほら、こっちに座って話そう」

 アレンに勧められ、エイルリスはソファーに座った。この部屋は、エイルリスの部屋の二倍の広さだから、大きなソファーがあっても狭く感じない。
 
「ちょっと待ってて。紅茶入れてくるね」
「ああ」

 別に喉は渇いていないけど、アレンが話していたいい香りの紅茶は気になる。
 アレンが離れている間、エイルリスは、どうしてもガラスケースが気になり、ずっと見ていた。
 黒い羽根からは、実に禍々しい気が漏れ出ている。例え少量でも、こんなものを浴び続けていれば、体調が悪くなりそうなものだが。アレンは元気だ。顔色もいい。悪魔の禍々しい気を浴びても平気なほど、体力があるということか。ただの人なのに、すごいな。
 エイルリスは目を細めて、ガラスケースを凝視した。そうすると、見えないものが見えてくる。
 ああ、やっぱり。
 ガラスケースの底に、黒い澱のようなものが沈んでいるのが見える。人であるアレンには、見えない黒い澱みだ。
 でも…おかしい。俺の羽根には、あの程度の澱など消してしまう力があるはず。禍々しい気も浄化させてしまうはず。それなのになぜ、底に滞留している?
 俺よりも、あいつの…あの悪魔の力の方が強いということか?くそが。
 紅茶をトレイに乗せて、アレンが戻ってきた。
 エイルリスの前にカップを置き、優しく微笑む。
 その顔を見て、エイルリスは先ほどの考えを撤回した。
 アレンは、あの悪魔の気を浴びても大丈夫なほど体力があるのではなくて、ただ鈍感なのだ。鈍感すぎて、悪影響を受けていることに気づいてないだけかもな。
 そんなことを思われてるとは全く思っていないアレンは、エイルリスに紅茶を勧めてくる。
 エイルリスはカップを持ち、香りを嗅いで一口飲んだ。

「うまい…」
「だろ?気に入ったならあげるよ」

 エイルリスは小さく頷き、紅茶をカップの半分ほど飲んだ。
 しかし、ソファーの座り心地がいい。思わず体を沈めて休んでしまう。しかも、隣で喋るアレンの声が、まるで子守唄のように眠気を誘う。
 でも、寝不足だからといって、他人の部屋で眠ってはいけない。常に危機感を持たなければ。
 エイルリスは姿勢を正して気を引きしめる。
 アレンが、紅茶のおかわりを注ぎながら、寝不足の理由を聞いてきた。
 エイルリスは、カップに伸ばしかけた手を止めて、考えた。
 …話してもいいか。大した理由でもないし。

「ルリス?」
「そんな大層な理由はない。ただ、悪夢を見るんだ」
「悪夢…どんな?」
「楽しい話じゃない」
「それでも聞きたい。ルリスのことは、何でも知りたい」

 ストーカーかよという言葉を飲み込み、エイルリスはため息をつくと、話し始めた。
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