狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

文字の大きさ
14 / 272

14

しおりを挟む
 道の端の草むらの陰に黒い塊が落ちている。何かの動物ぽいけど、動いていない。

「なに…?仔犬?」

 驚かせないよう静かに近づくと、両手におさまるくらいの小さな犬が地面に倒れていた。もしかして死ん……ではいないようだ。

「どうしたの?大丈夫だよ」と囁きながら膝をつき、犬の身体をよく見ると、足から血が出ている。

「これは…獣か魔獣にやられたんだな」

 リオの言葉に答えるように、犬が薄く目を開けて小さく頷いた。

「おまえ、俺の言葉がわかるのか?ははっ、賢いな。もう大丈夫だ。俺がすぐに治してやるからな。だから少し大人しくしていてくれよ」

 犬が先程と同じように首を縦に振る。
 リオは犬の身体を優しく撫でて、怪我をしている足に右手を当てた。そして頭の中で傷が治る場面をイメージする。傷に触れている手が一瞬白く光り、犬は驚いたのか暴れ出した。
 リオはもう片方の手で犬の胴体を押さえつける。しばらくして光が消え痺れる右手を離すと、怪我の具合を確認する。

「ふぅ…治った。ほら、もう動けるぞ」

 もう片方の手も離し、犬の頭を撫でてやる。
 犬は少しだけ首を傾げると、起き上がってリオから離れ、ぴょこぴょこと歩き出した。でも去って行かずにリオの傍に戻って来る。そしてリオの腕に鼻を擦り寄せ、ちっとも離れない。

「なに?礼を言ってるの?別にいいから早く親のところに帰りなよ」

 それでも犬は、嫌だという風に「アン!」と鳴く。
 なんとも気の抜けた可愛らしい声に、リオは思わず笑ってしまう。まだ小さな子どものようだから、親が探してるんじゃないかと心配したけど、近くにいる気配もない。襲われてる内にはぐれたのかもしれない。

「変な鳴き声だな。でもかわいい」

 尻をついて座り込んだリオの膝に乗ってきた犬が、だんだんとかわいくなってきた。初対面からこんなに懐かれては堪らない。堪らなくかわいい。目つきの悪い顔をしているけどかわいい。
 リオはため息を吐くと、人差し指で犬の顎を撫でて、ふと首を傾ける。

「ん?犬かと思ったけど、違う?狼かな?かっこいい顔をしてる。おまえ親とはぐれちゃったの?仕方ないなぁ。俺は家を持たないしずっと旅をしてるんだけど、一緒に行く?」
「アン!」

 またしてもリオの言葉がわかるかのように、かわいく鳴く。リオは笑って「よし!一緒に行くか。今からおまえの名前はアンだ」とひねりもクソもない単純な名前をつけて、抱きしめるようにして撫でた。
 アンは狼に似ていた。いや、狼だと思うのだけど、少し違うようにも見える。全身は光の加減で銀に見える黒色で、目は金色だ。もしかして魔獣の一種なのかも。でも、アンはとても綺麗でかわいい。人懐っこく魔獣とは思えない。
 リオはアンを抱いて歩き出した。アンは大人しく抱かれて動かない。本当に俺と一緒にいてくれるんだと思うと、なんだか嬉しくなってきた。一人でいることに慣れていたけど、仲間ができたみたいで嬉しい。やはり一人は寂しいから。 
 半刻ほど歩き続けたけど、まだ森を抜けないので、拓けた場所を探して休憩した。
 蝶を追いかけてぴょこぴょこと走り回るアンを見ているうちに、リオは睡魔に襲われて眠ってしまった。その時に夢を見た。
 大きくなったアンが、背中から翼を生やして空を飛んでいる。その姿はとても神々しくて綺麗で、そして自由に空を飛ぶアンを羨ましいと思った。
 リオの魔法の力は強い。母さんがそう話していた。でも様々なことが可能な魔法でも、空を飛ぶことはできない。だから羨ましいと思った。
 リオの前に舞い降りてきたアンが、「アン!」と鳴く。

「ふふっ、おまえ、そんなに厳つい見た目になっても、その鳴き声かよ」

 見た目と声のギャップが可笑しくて、笑ったところで目が覚めた。
 アンがリオの膝に乗り金色の瞳で、心配そうにリオを見ている。
 リオがアンの頭を撫でながら、「アン、おまえ、かっこよかったぞ」と笑うと、アンが嬉しそうに「アン!」と鳴いて、リオの手のひらに鼻先を擦り付けた。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ
BL
【ひょうきん軍将×ド真面目コミュ障ぎみの踊り子】 踊りをもちいて軍を守る聖舞師という職業のサニ(受)。赴任された戦場に行くとそこの軍将は、前日宿屋でサニをナンパしたリエイム(攻)という男だった。 一見ひょうきんで何も考えていなさそうな割に的確な戦法で軍を勝利に導くリエイム。最初こそいい印象を抱かなかったものの、行動をともにするうちサニは徐々にリエイムに惹かれていく。真摯な姿勢に感銘を受けたサニはリエイム軍との専属契約を交わすが、実は彼にはひとつの秘密があった。 第11回BL小説大賞エントリー中です。 この生き物は感想をもらえるととっても嬉がります! 「きょええええ!ありがたや〜っ!」という鳴き声を出します! ************** 公募を中心に活動しているのですが、今回アルファさんにて挑戦参加しております。 弱小・公募の民がどんなランキングで終わるのか……見守っていてくださいー! 過去実績:第一回ビーボーイ創作BL大賞優秀賞、小説ディアプラスハルVol.85、小説ディアプラスハルVol.89掲載 → https://twitter.com/karoito2 → @karoito2

騎士は魔石に跪く

叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。 魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。 他サイト様でも投稿しています。

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

触れるな危険

紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。 毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。 「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」 俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。 バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。 15話にて本編(なれそめ)が完結。 その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)
BL
不死鳥の巣で目覚めた俺には、秘密がある。 病に倒れた恩人を救うため、卵を盗みに来た――そのつもりだった。 けれど互いの正体を知らぬまま、“ひな”として世話を焼かれることに。 不死鳥は時に巨大な鳥の姿で、時に美しい男の姿で俺を包み込む。 そして、恩人との再会をきっかけに、彼のまなざしが変わっていく。 不死鳥攻めの執着愛。天然×天然のちょっとズレた溺愛をどうぞ。 表紙は攻めです。描きたかったんです。 ※ムーンライトノベルズにも掲載しております

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...