狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 アンと一緒に行動するようになって、旅がとても楽しくなった。アンは賢くて、リオの話がわかる。たぶんだけど。だって肯定の時は首を縦に振り否定の時は横に振るんだ。名前を呼べば「アン!」と返事をしてリオのもとへ来る。そしてリオと同じ物を食べる。だいたいの物は食べるけど、野菜は苦手なようで、すごく嫌そうにして少ししか食べない。きっと肉食なんだろう。やはりアンは狼かもしれない。もしくは狼に似た魔獣か。でもこんな魔獣いたかな。リオの知る限りではいないと思う。でもまあ、アンが何者でもいいや。今やリオにとってかけがえのない仲間になったのだから。


 アンと出会って十日が経った。そろそろ隣の州との境に着く。
 隣の州には、狼領主と呼ばれる怖い領主がいるらしい。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら目で威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。
 という話を、昨夜の宿の女中に聞いた。女中はとてもお喋りで、部屋に食事を運んで来た時も下げる時も、たっぷりと狼領主の話をしてくれた。そして部屋を出る時に、リオの目をじっと見つめて首を振る。

「なに?」
「…あんた、頼りなさそうだから心配だよ。狼領主様に目をつけられないよう、気をつけるんだよ?」
「大丈夫。俺は人付き合いが得意なんだ」
「まあ確かに人に好かれそうな顔してるけど。綺麗な顔してるし、人攫いにも気をつけるんだよ」
「わかったよ。心配してくれてありがとう」
「じゃあよく休んで。おやすみ」
「うん、おやすみ」

 まだ心配そうにしながら、女中は扉を閉めた。遠のく足音を聞いて鍵をかける。そしてベッドに寝転んで、頭の下に両手を置いて天井を眺める。

「狼領主…ねぇ。話には聞いたことあるけど、どんな人なんだろ?あんなに注意されると、余計に気になるな。よしっ、隣の州に入ったら、領主の城の近くまで行ってみよう」

 次の目的ができた。気をつけろと言われると逆に気になるもので、しかも楽しみになってきた。リオは両手を胸の上で組んで目を閉じる。その時、まぶたの裏にギデオンの顔が浮かんで、慌てて目を開けた。

「はあ?なんでギデオンのこと思い出してんの?…あ、そっか。あの人が怖い顔してたからか。狼領主って、ギデオンみたいな人のこと言うんじゃないの?」

 リオは一人で笑って再び目を閉じる。
 ギデオンの顔は怖い。雰囲気も怖かった。目の下の隈により、すこぶる凶悪な顔になっていた。でも、寝顔はすごく優しい感じだった。
 ギデオンの寝顔を思い出そうとしたけど、思い出す間もなく、すぐに眠りに落ちた。




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