狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 ビクターは最初、ケリーを不審に思わなかった。皆でギデオンを捜しているのだから、ケリーもそうだろうと思った。しかし、様子がおかしい。黙々と歩いていたかと思うと、急に足を止めて笑い出したのだ。主が行方不明になり、しかも生死がわからない時に笑うか?
 ビクターも足を止め、ケリーを注視した。
 ケリーはよほど浮かれていたのか、ビクターの露骨な視線に気づくことなく、笑いを堪えきれない様子で、滝とは反対側へと去って行った。
 ビクターは追いかけようかと迷ったが、ギデオンとリオのことが気になる。だからケリーの姿が斜面の上に消えるまで見送り、再びリオが通った形跡を辿り始めたそうだ。

「あいつ、ギデオンとリオが滝の裏にいる所を見たんじゃないか?話を聞く限りリオに興味を抱いてる様子。久しぶりにリオを見かけて興奮したとしか考えられぬ。また何かをしかけてくるのではないか?」
「そうかもしれぬ」

 呟くギデオンの背中で、リオは身体を震わせる。
 ケリーは俺のことを諦めてないの?まだ疑ってる?というか、魔法を使ってギデオンの傷を治しているところを見られたんじゃ…。

「だが心配はいらぬ、リオ」
「…え?」

 ギデオンがリオを背負い直して歩き出す。

「ケリーに手出しはさせない。今度は必ず守る。だから不安になることはない」
「ギデオン…ありがとう」

 後ろを歩くビクターが口を挟む。

「物騒だから俺も狼領主の城に滞在してやるぞ」
「いらぬ」
「なぜだっ」

 軽快な二人のやり取りに、リオは思わず吹き出した。
 二人はお互い口では嫌いだと言いながら、気の置けない友のように見える。もっとお互いに素直になればいいのに…とは口に出して言わないけど。

「なにが可笑しい」
「いえ、別に」

 ビクターの鋭い声が後ろから飛ぶ。
 リオは前を向いたまま答え、前方から走ってくるモノを見て驚き叫んだ。

「アン!どうしてここにっ?」
「アンっ!」

 アンがいる。城にいるはずのアンが、全力で走って来る。
 リオはギデオンの背中から飛び降りた。足に力が入らず、その場に膝をついたリオの胸の中へと、アンが飛び込んでくる。
 リオの身体が後ろによろける。だがビクターに支えられて、倒れはしなかった。

「アン!おまえっ、危険だから留守番してろって言っただろ?」

 アンは熱心にリオの顔を舐める。リオに怒られても知らないと言わんばかりに。
 ギデオンが片膝をつき、アンの頭を撫でながら口を開く。

「アンはおまえの後をついてきたのか?」
「違う。だって俺は、ゲイルさん達と馬を走らせて来たから。アンはアトラスに預けてきたんだ」
「ではアトラスが後からつれて来たのでは?」
「そうなのかな…」

 それにしてはアトラスの姿が見えないとリオが顔を上げると、アンが来た前方から、今度はロジェが現れた。
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