狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 二人の騎士が身をひるがえし、厩舎へと走っていく。
 リオは、遠くの雪山と騎士の後ろ姿を交互に見ながら、身体の震えが止まらなかった。
 怖い…あんなの、どうやって倒すの?人なんて簡単になぎ払いそうだよ?ギデオンや腕の立つ騎士達で倒せるの?…俺は、小さな日常で出会う魔獣くらいなら、倒すことができた。だけどあれは?倒せる?まだ全力の魔法は使ったことがないけど、全力の魔法ならもしかして…。
 遠くの黒い影を凝視して、リオが考えを巡らせていると、ギデオンに頭を撫でられた。

「リオ、案ずるな。おまえはアンと共に安全な所へ避難しろ」
「え?嫌だ」
「頼む。避難してくれ。俺はあれと戦いながら、おまえを守る自信はない」
「大丈夫。俺のことは気にしなくていいから。自分の身は自分で守るから俺も行く」
「ダメだ」
「なんでだよっ。俺はギデオンの役に立ちたい!」

 リオは両手でギデオンの上着を掴んで懇願する。
 ギデオンは、リオの目をじっと見つめる。
 紫の瞳にリオの顔が映っている。綺麗な瞳だ。吸い込まれそう。うらやましいなと思っていると、「きれいだな」とギデオンが呟いた。

「きれいな赤だ。俺は、この目をいつまでも見ていたい。この金髪をいつまでも撫でていたい。おまえを…リオを失いたくない。だから言うことを聞いてくれ。安全な場所で、俺の帰りを待っていてくれ」
「ギデオン…」

 リオの視界がかすみ、涙が頬を伝う。慌てて袖でこうとする前に、ギデオンの大きな手でぬぐわれた。大きな手を頬に添えたまま、ギデオンが聞く。

「なぜ泣く?」
「わからない…けど、わかったよ…。避難する」
「そうか、良い子だ」 
「俺はもう成人したよ」
「正式には明日だろう?」
「まあ、そうだけど」
「俺は無事に戻る。アンと待ってろ」
「うん…無茶はしないで。必ず俺の所に戻ってきて」
「約束する」

 ギデオンは力強く頷くと、リオを抱きしめた。
 どうか無事でと願いを込めて、リオもギデオンの背中に手を回す。
 だがすぐに身体が離れ、ギデオンは皆に指示を出していく。
 リオは、足下にいたアンを抱き上げて、雪煙に見え隠れする魔獣を見た。
 魔獣は動いていないように見える。暴れることもなく、その場でじっとうずくまっている。

「もしかして、寝てる…?」
「うっかり冬眠してた巣穴から出ちゃったけど、やっぱり眠いのかもなぁ」
「そうだといいけど」

 隣に来たアトラスに相槌あいづちを打つ。
 アトラスは、リオの腕を掴むと、屋敷の中へ入っていく。
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