製造業 vs ファンタジー

新人

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【統計】平均

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今日もゲンツから仕事の話は来ない。

だが、今日に限って言えば、ジュゼに不満はなかった。
ジュゼにとって望外の来客である。

「2種類の刀の切れ味を比べて欲しくて。」

こう依頼するのは、エリー・オームである。

ピンク色の艶やかな長い髪、同じ色の瞳、そしてキレイに整った顔立ち、
これで耳が長ければエルフそのものというのがヨネモリの率直な感想である。

「は、はい、喜んで」

緊張するジュゼを見て、ヨネモリはふぅんという顔をする。

「ヨネモリさん、今日は僕に全て任せてください。手出しは無用です。」

そういうことか。ヨネモリは状況を理解する。

「それで比べる刀はどこに」

「ちょっと待ってね。たくさんあるから取ってくるわ」

そういってエリーは馬の荷台から9本の刀を取り出す。

「この3本と6本を比べて欲しいの」

エリーは刀を2つのグループに分けて提示した。

「ぼ、僕の直感で比べて良いですか?」

「客観的に分かる形で比較出来ないかしら」

ジュゼは刀をそれぞれ10回ずつ斬ることにした。だが、60回と30回斬った合計は思った形にははならない。

ジュゼは3本の刀をもう10回斬ることにした。
これで60回ずつ斬ったことになる。

3本が360、6本が366本。



6本の方が多くの竹を切ることが出来た。

「どうやら6本の方が切れ味が優れているみたいです」

「これって本当に良いのかしら。」

「えっ?」

「だって、3本の刀は20回斬ったことになるわ。途中から斬れ味が落ちたことにならないかしら。」

たしかにそのとおりだと思った。

「じゃ、じゃぁ、6本の中から3本だけ選んで比較するのはどうでしょう。」

「できれば渡した全てで比較して欲しいけど、難しいかしら。」

「ええと・・・」

場に沈黙が流れた。

耐え切れずジュゼがヨネモリへ視線を投げかける。

はぁ、という溜め息とともにヨネモリが口を開く。

「合計じゃなくて、平均で考えてみるんだ。」

「平均?」

そこで平均が出てこないのはおかしいだろう、とヨネモリは思った。

「合計を刀の本数で割るってことだ。
 結局のところ、1刀につき10回斬るわけだ。だったら、何本の刀で切ろうが10回斬った状態に戻して考えればいい。
 3本なら10回ずつ斬れば30回、それを3本で割れば、10回。
 6本で10回ずつ斬れば60回、それを6本で割れば10回。
 その10回の数に戻して、比較してみろと言っている。」

「なるほど、やってみます!」

そういってジュゼは、紙に結果を書き直す。

3刀で切れた竹の合計は195本。3で割ると、平均は65本。
6刀で切れた竹の合計は366本。6で割ると、平均は61本。
3刀の平均が上回っているという結果になった。



「ありがとう。ジュゼ君。」

エリーはニッコリと微笑み、帰って行った。

「エリーの姿を見送るジュゼの鼻の下は完全に伸びていた。」

「やめてください!」

エリーの姿を見届けていたジュゼは振り返り、ヨネモリに抗議した。

「彼女のことが好きなのか。」

「えっ」

ジュゼは慌てた表情になる。

「なぜ・・・それも数字の力ですか。」

「そんなわけあるか。横で見てれば誰でもわかる。」

「そ、そんなに顔に出てましたか。」

ジュゼは自分の頬を手で触り表情を確かめた。

「で、彼女のどこが好きなんだ。」

「それは・・・その、彼女を見ていると、目が離せないというか、すごくキレイですし・・・」

「要は見た目か。」

「違います!!
 たしかに彼女はマジック・アイ持ちですよ。でも僕は他の男達と違って、彼女のマジック・アイに惹かれたわけじゃないんです。彼女は魔法学校時代に僕にも平等に接してくれました。その優しさがキッカケです。」

「ふぅん、で、そのマジック・アイって何。」

「あのピンク色の目から愛という名の魔法がこぼれ出るんです。」

ブフッとヨネモリは吹き出す。

「ふざけてませんからね。本当に目から魔法があふれるんです。結果として、自然に溢れ出た魔法が作用して異性をひきつけてしまう事があります。でも僕は誘惑された彼らとは違って、彼女の優しさが好きなんです。」

その割には最初に目のことを言及してたじゃないか。という言葉が喉まででかかる。

「君は、てっきり別の女性が気になっていると思っていたが。」

「え、誰ですか?」

「・・・そうか。」

ヨネモリはふと気づいたことがあった。

「そういえば、エリーさんとやらと、エムちゃん、二人とも髪型が似ていると思わないか。」

「ああ、そうですかね。あまり考えたこともなかったですけど。
 エムの奴、いつ頃からか髪を伸ばすようになったんですよね。」

これはこれは・・・鈍感な奴もいたもんだ。

「なんですか、その、やれやれと言いたそうな顔は。」

「見て分からないのか。やれやれという顔をしているんだ。」
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