異世界で次の人生を

ゴンべえ

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012 最長老の判断

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フェイムが発って7日が経った。
シザーウルフの群れと生活を共にして色々とわかったことがある。
岩場には住まないといわれてきたシザーウルフだが、それは間違った認識だった。

シザーウルフの爪は硬い岩を削るほど強度がある。
薄刃で鋭い斬れ味が特徴の爪だけに、同じ刃物に照らし合わせて強度が脆いと解釈されたのだろう。
しかし実際は鉄に近い強度があり、ある程度の弾性もあるため脆いどころか頑丈な作りをしていた。
シザーウルフの長いわく『我等の牙爪が傷つく可能性は鉄製の武器と交戦した時くらいだ』とのことだ。

「お、人懐っこいなお前は」

長の子供が俺の足にじゃれついてきた。
危険はないと判断したためか頻繁に子供達が甘えてくるようになった。
驚いたことにシザーウルフは大所帯でオス30頭。メス36頭。子供が25頭もいる。
現在カップルは10組で、残りのシザーウルフは婚活、妊活の真っ最中だった。

「ほれほれ」

俺が撫で回すと子供はクゥ~ンと甘えた声で鳴き、ひっくり返って腹を見せた。
晒した腹を手で撫で回すと嬉しそうに手足を動かし、やがて無防備に寝てしまった。

『すっかり気を許しておるな』

長は呆れたように言った。
子供とはいえ危機感が無さ過ぎると憂慮しているようだ。
その反面、我が子の無邪気な姿が微笑ましいようにも見える

「そういえば名前は無いのか?」

『我等に名など不要だ。強き者に従うのが魔物の習性。弱き者は淘汰されるのが定め。名など何の意味があろう』

全体を統率できれば個人など特定する必要がない、という事だろうか。
まあ、価値観が違うから致し方ないともいえるが。

名前ぐらいあった方が良いのでは?
そう言おうとした所で部下のシザーウルフが駆け寄ってきた。

『長、フェイム殿が戻られました』

『お連れしろ』

『承知しました』

短く言葉を交えると凄い勢いで引き返して行った。
ほどなくして案内されたフェイムが姿を現わす。
一人ではなく同行者がいる。
驚くことに、それは最長老だった。

「遅くなってすまない。色々と揉めてな」

「予想していたことだ。ところで、首尾は?」

「芳しくないな。まあ、当然だ。エルフの集落にシザーウルフを招くなど正気の沙汰じゃない」

そう、俺が提案したのはエルフの集落にシザーウルフを匿うことだった。
もちろん備えの案も盛り込んでのことだ。
そうでなければフェイムが納得するはずがない。

「やはり眉唾にしか聞こえないか」

「それは仕方のないことだ。お前の能力で強化された力を披露したが、それでも疑念は払拭できなかった」

「そうか……」

圧倒的に強くなったフェイムを見ればある程度は理解してくれるだろうと思ったのだが。
シザーウルフの脅威は俺の予想以上に強いらしい。

「ところで、なんで最長老がここに?」

「芳しくないと言っただろ。完全に否決されたわけじゃないんだ。少なからず同意を得られてな、それで真偽を確かめることになったんだ」

「御託はいい。儂は王命でここに来たんじゃ。信用に足るかどうかは儂が判断する」

相変わらず気難しい爺さんだ。
俺は言語変換の飴玉を最長老とフェイムに渡した。
飴玉を飲み、言葉が通じることを確認すると、いよいよシザーウルフの長との話し合いが始まる。
最長老は険しい表情で。

「儂はエルフの最長老でジーモフと申す。お主達を受け入れるに足るかどうか判断するために参った」

『我はシザーウルフの長なり。慎重を期すのは最もな判断。理由はホランドより聞いている』

「では問おう。シザーウルフは何故に身を寄せる?太古より孤高の種族と聞いていたが、儂の思い違いか」

挑発するような物言いに俺は何言ってんだこの爺さんは!と目を剥いた。
しかしフェイムは涼しい顔で聞き流している。
注意しろよと思いつつ、憤慨していないか長に目を向けると。

『孤高に徹せば種族は滅びる。我は己が自尊心より種族の繁栄を願うのみ。期待に違うたならば我の責任なり。我を笑われよ』

憤慨するどころか冷静に切り返す長。
ジーモフ最長老は長い顎鬚を撫でて頷くと。

「先日、我等が姫様がシザーウルフに襲われ生死の境をさまよった。
幸い、ホランド殿の救済で事なきを得たが、一手違えれば最悪の事態になっていたであろう。
その恨み辛みは容易には晴れぬ。襲撃とは無関係と聞いたが、真偽を図る手立てはない。
ゆえにエルフの大半はシザーウルフに悪感情を抱いておる。
見れば幼子が多くいる様子。
そのような感情を抱くエルフの集落で、はたして子育てができますかな?」

『たしかに信じるに値する根拠を示すことはできぬ。
だが、誓ってエルフを襲っていないと断言しよう。
悪感情を抱いているのは重々承知の上でのこと。その上で申し出たのだ。
逆に考えられよ。我々は幼子を連れて参るのだ。
これほどの弱みはあるまい。悪感情から幼子を害そうと思えば容易に行うことができよう。
だが、誇り高きエルフが幼子を害するとは到底思えぬ。
ゆえに、子育てに何ら心配をしておらぬ』

「姫様を襲われたのだ。理屈が通らぬ輩がおるかもしれぬ」

『その時は、我の命で償うとしよう。我の望みは後継を育むこと。他種族と争うことではない』

ジーモフ最長老は覚悟を見定めるかのように鋭い視線で見据えた。

「もし、お主の命で足らぬ場合は?」

『別天地を求めて彷徨うのみ』

「儂等が敵討ちに出たら何とする?」

『女子供を守るため戦うのみ』

「別天地が見つからぬ場合は?」

『生き延びるため、我の信念を曲げよう』

「それは、他種族を襲うということか?」

『そうだ』

一通り話をするとジーモフ最長老は疲れたように溜息を吐いた。
思えばエルフが恐怖する存在と真っ向から対応しているのだ。
老体には酷な状況かもしれない。

「フェイムよ」

「なんでしょう?」

「リシュナ様が襲われた時、お前は尋常ならざる怒りに打ち震えていた。
シザーウルフを根絶やしにと、激しい復讐の念を抱いていたであろう。
そのお前がエルフの集落に匿う理由は何だ?」

「王の前でも申しましたが、シザーウルフの子供が瓦礫に埋まった際、俺に攻撃される恐れがありながら背を向け、子供の救出に向かった母親に驚かされました。
さらに子供を助けたホランドにシザーウルフの長は頭を下げ、話し合いを持ちかけてきた。
同胞が殺されたのは俺に染み付いた血の臭いでわかったはず。
もしリシュナを襲うほど人間を憎むなら、同胞の仇を前にして冷静でいられるわけがない。
なにより、子を慈しむ姿に嘘偽りはなかった。
シザーウルフに対する憤りは捨て切れませんが、だからといって真偽を見誤るほど眼は曇っておりません」

「左様か……」

ジーモフ最長老は納得したように頷くとシザーウルフの長に目を移した。

「さて、色々と聞かせてもらったが、一つ確認せねばならんことがある」

『なんなりと』

「片割れがいるそうだが、それがエルフの姫様を襲った可能性があると申したそうだな」

『いかにも。他に可能性は見当たらぬ』

「そうか。では、その片割れはエルフにとって敵対の対象となる。万が一にも遭遇したら、何とする?」

俺は固唾を呑んで見守った。
エルフにとって重要な判断材料だ。
袂を分かったとはいえ、元は共に暮らした同族である。
情にほだされる可能性を考慮するのは当然だ。

『その時は、殺しましょう。エルフの集落に匿ってもらえるなら、その敵は我等にとっても敵』

「果たしてできますかな?」

『それが筋というもの。違えれば、追放してもらって結構』

断固として言い切る長に、ジーモフ最長老は険しい表情を綻ばせた。

「よろしい。シザーウルフを受け入れるよう王に進言しよう」

『かたじけない』

長は深く頭を下げた。
ジーモフ最長老は満足そうに笑うとフェイムに面を向け。

「フェイムよ。次代の王は賢明なようで安心じゃ」

「お戯れを。私は罪を許された訳ではありません」

「そうよな。急ぎ戻って王の許しを得ねばなるまい。長よ、同行してもらえるか?」

『構わぬが、ここの守りが気になる』

「俺が残るよ。それじゃダメか?」

俺が提案すると長はフンッと鼻を鳴らした。

『それは良い。お主なら信頼できる。子供も懐いているしな』

「任せてくれ。そうだ、これを」

俺は言語変換のアイテムをフェイムに渡した。

「すまんな。数日で迎えを寄こす」

「ああ、気楽に待っているよ」

俺は戯れてくる子供を撫でながら笑った。
そしてある程度の話が済んだジーモフ最長老とシザーウルフの長は、フェイムと共にエルフの集落に出発して行ったのだった。
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