おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

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005 俺の部下と残念な主神

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「よし、やるぞ!」

俺は両拳を突き上げて意欲を発した。

水を得た魚とは正しく俺のことだ。
リュシーファに転生させられて10年。
いよいよ本格的に始動する時がやってきた。
前世の記憶を持っていたため幼少期から様々に動いて準備してきたのだ。
他の兄弟とはスタートラインが一歩、二歩どころか百歩、千歩ほどに違う。

与えられた領地はアクセル。
領土経営に影響を及ぼさない程度の小規模な領地だ。
首都ミラッドから馬の脚で3日ほど離れた場所で、寂れているものの大きな町がある。
産業が少なく、雑木林が生い茂り、開拓しないと生産性が上がらない領地でもあった。
人口も300人ていどで、Aランクと比べれば3分の1しかいない。
かつては10倍の人口を誇った町だけに、過疎化が進んだ今となっては廃墟の雰囲気が漂っていた。

「こんな領地じゃなきゃ若輩の俺達が賜れないよなぁ」

あくまでも教育としての領地だと改めて認識した。
これなら領地経営を失敗しても支障は無いだろう。

それでも見渡す限りの雄大な景色が所有物になったのだ。
否が応でも興奮するというものだろう。
特に次期当主の座を狙っている長男と次男の気合は相当なものだった。
もちろん、母親間の確執は見るに耐えない白熱ぶりである。

「ベルナール、準備はどうなってる?」

俺は傍に控える中年に尋ねた。
身形の正しい真面目そうな成人男子だ。

「エルロンド様のご指示通りアスタールに奴隷の買い付けを命じました。アスタールの報告では2日後に万事整うとの事です」

「ありがとう。仕事が早くて助かるよ」

俺は子供らしい笑顔で応えた。

ベルナールは俺の秘書だ。
元は貴族で裕福な育ちだったが他国との戦争に敗れて奴隷に堕ち、たまたま人材を探していた俺の目に留まって引き取ったのが経緯だ。
元貴族のため読み書きができる上に計算もできる。
何より教養があるため交渉術に優れ、子供の俺に代わって交渉をまとめてくれる希有な存在だ。
几帳面過ぎるのが玉に傷だが、俺に絶対の忠誠を誓っている。
なぜならベルナールの妻子ごと引き取り、俺の部下として雇った事で奴隷の烙印を取り払ったからだ。
娘の将来を案じていたベルナール夫妻にとって俺は神様のように思えただろう。
おかげで有能な人材を確保できたのだから喜ばしい事この上ない。

「リオン、警備は?」

「すでに不埒者、盗賊の類は討伐済みです。町の安全性は担保されたと言っていいでしょう」

リオンは俺の護衛だ。
藍色の髪と瞳をした美青年で、剣技の腕前を見込んで奴隷商から購入した元奴隷だ。
スキル【鑑定】でステータスを見定めたから間違いはなく、才能を開花させたリオンは期待以上に成長して護衛の任を担っている。
いずれは騎士として叙任しようと思っているのだが、どうにも騎士の地位に興味がない様子だ。

「引き続き警戒を頼む。治安が悪くては移住する人間はいないからね」

「承知いたしました」

俺は満足して頷いた。
俺が子供でありながら領土経営に不安を感じないのは、前世の記憶があるだけでなく、密かに人材を育てていたからだ。
側から見れば子守の従者に見える2人も、俺が指示を出せば途端に有能な臣下に変わる。
国内に後ろ盾を持つ兄弟とは違い、俺の後ろ盾は遠方にいるのだ。
助けを求めてもどうにもならない。
自分で打開しないと誰も助けてはくれないのだ。

「時間が経つのは早いものだな」

10歳の少年が言う言葉ではないが、痛感せずにはいられない。

行動を起こしたのは5歳の頃。
手始めにクッキーを作ったのが始まりだ。
砂糖やバターは高価な代物のため、代用として蒸かした芋を使った。
それに油と塩、ワイン作りで残った搾りカスを混ぜ合わせ、釜でじっくり焼いたのだ。
コクが少なく若干パサパサしていたが、それでも安価で保存性が高く、甘くて腹持ちの良いクッキーは好評を博した。

意外だったのは軍の携帯食に採用されたことだ。
おかげで生産が追い付かなくなるほど売れ行きが伸び、噂が噂を読んでヴィルガスタ領では市民のおやつとして定着した。

始めは母親のソアラの計らいで使用人を働かせたが、生産力を上げるため奴隷を購入する事になった。
屋敷の一角に工場を設け、そこに奴隷の住居も併設した。
広い庭にはクッキーの甘い香りが漂い、それが呼び水となって他国の商人に認知され、ヴィルガスタ領の土産物になりつつある。

ベルナールとリオンを購入したのもクッキー作りの労働力としてだ。
しかしスキル【鑑定】で有能だと知った俺は、同時に教育を施して側近として鍛え上げたのだ。
その芽が育ち、花咲いて俺を支えている。
まったくありがたい限りだ。

町に戻った俺は神殿を訪れた。
神殿にはリュシーファの像が設置されており、訪れた人間は祈りを捧げるのが習わしである。
小さな町ですら神殿を設置してある事から、リュシーファは主神として慕われているらしい。

俺はリュシーファ像に傲慢不遜な態度で語りかけた。

「おい、リュシーファ。聞きたいことがある」

求めに応じたように天から光が指し、リュシーファの像が照らされた。
すると像に替わってリュシーファが姿を現す。

「もう少し敬意を払ってください。私は主神なのですから」

「その主神様が俺に何したか忘れた訳じゃないよな?」

「うっ……わかりました。それで、聞きたいこととは?」

痛いところを突かれて閉口するリュシーファ。
神様と直接会話するなんて普通なら考えられないシチュエーションだ。
きっかけは聖騎士クラスの強さを疑問に思った時で、ダメ元で神殿の像に語りかけたのが始まりだ。

負い目を感じるリュシーファは時折様子を見ているらしく、俺の異常な強さを知って驚いたらしい。
どうやら前世の加護が転生後に復活したのが原因らしいが、主神であるリュシーファは異世界に介入する事ができず、見守っていたとのことだ。
それからちょくちょく神殿を訪れては情報を得たりしている。
そうでなければ神殿に来たりするものか。

「賜った領地の情報を知りたい。昨年まで敵の領地だったからな。地形すら把握できていないのが現状だ」

「わかりました。それくらいならお安いご用です。それで、どうします?口頭で説明しますか?それともいつものように?」

「ああ、直接記憶に叩き込んでくれ」

「わかりました。それはそうと、クッキーなるものは甘くて美味しそうですね」

食いついてきたな。
俺はリクエストされるだろうと用意したクッキーを取り出した。

「食いたいんだろ?ほれ、やるよ」

「おおお!ありがとうございます!」

両手を上げて大喜びするリュシーファ。
子供か!
見てくれが良いだけに中身が残念な奴だ。
まあ、思っていても口にはしないが。

「天界にはこういった甘味が無くて。糖蜜や果物はあるのですが、いいかげん飽きてたんですよ」

「そうなのか?だったらお供え物として定期的に持ってくるよ」

「本当ですか!ありがとうございます!」

子供のように瞳をキラキラと輝かせて喜ぶリュシーファ。
そこまで甘味が大好きなら好都合だ。
試作品のモニターになってもらおう。

「はい?なにか言いましたか?」

夢中でクッキーを頬張るリュシーファ。
俺は薄ら笑いを浮かべると。

「なんでもない。それより情報を頼んだ。またクッキー持って話しに来るからな」

「はい、待ってます!情報は後ほど送っておきますよ」

本当に大丈夫だろうか?
若干の不安を残しつつ、簡単な別れを告げて神殿を後にした。
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