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009 オーガとの対話
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2日後。
約束通りオーガがやって来た。
一族の長らしき壮年と息子らしき屈強な若者の2人だけだ。
武装はしておらず、血と汗が染み付いた衣服を着ている。
生活の困窮度が窺い知れる格好だ。
こちらはベルナールとリオンを伴って3人で会うことにした。
アスタールも行くとゴネたが、彼にはやってもらう仕事が他にある。
渋々納得していたが、後ろ髪を引かれるように最後まで抵抗していた。
「先ずは話に応じていただき感謝する。私はエルロンド・オスカーシュタイン。この一帯を治める領主である」
相手に舐められぬよう毅然とした態度で接した。
相手が10歳の少年とは信じていなかったのだろうか。
オーガ達は目を丸くして幼い少年を眺めている。
「我はオーガの長でヤシャと申す。この者は我の息子でハンゾウ。一族を代表して領主殿に拝謁いたす」
思いの外礼儀正しい態度にコッチが目を丸くした。
さすがは人間に近い知能と技術を持つ亜人だ。
見た目も人間とさほど変わりはないが、屈強な肉体と額に生える角は圧巻の迫力がある。
「丁寧な挨拶に感謝する。早速本題に移るが、私は雑木林を切り開いて耕作地を広げたい。居住に適した地を用意するので、立ち退いてはくれまいか」
「残念だが、それはできぬ。訳あって理由は話せぬが、期待には応えられぬ」
予想通りの答えに交渉が難航する雰囲気が漂う。
ヤシャからは敵対も辞さない覚悟が窺えるほどだ。
しかし俺は怯むことなく。
「その理由とは、裏切り者のせいか?」
「なぜそれを⁉︎」
ヤシャとハンゾウは驚き、警戒心を露わにした。
「落ち着かれよ。心配せずとも危害を加えるつもりはない。もし危害を加える腹積もりなら、とっくに害を及ぼしている」
「……確かに、そうかもしれぬ」
言いつつもヤシャの警戒心が和らぐ様子はない。
しかしエルロンドに嘘はないと判断したのか、一定の理解を示したのは真偽を計りかねているためだろう。
「その裏切り者だが、昨今の戦いで父上が勝利した折、敵方の情報を流した内通者として功を挙げ、今はヴィルガスタ軍の兵長として軍役に就いている」
「あの裏切り者が兵長に!なんたることか!」
怒りを露わにするヤシャとハンゾウ。
はらわたが煮えくり返っているらしく、激しい憤怒の炎が全身から燃え上がる。
「あの者は一族を裏切り、領主の命令に従って我等を襲った恥知らず!その裏切り者がのうのうと生きておるなど、こんなことがあって良いのか!」
「裏切り者に住処を追われて今まで雑木林に隠れ棲んでいたのは調べがついている。そこでだ、我が町に移住しないか?」
「なんと⁉︎」
思いもよらぬ提案に耳を疑うヤシャとハンゾウ。
「オーガを襲うように命じた領主は滅びた。今は私が領主だ。もはやオーガを脅かす軍はいない。どうだろうか?」
「裏切り者を軍役に就かせている者を信じろと?」
「それは父上の事情で私には関係ない。私は貴方達を欲しているだけで、父上の軍にいる裏切り者などどうでもいい。機会があれば、仇討ちできるよう取り計らう事ができるかもしれん。もちろん、私に仕えるのであれば、だが」
「それを信じろと?」
真偽を見定めるように問うヤシャ。
ハンゾウも疑いの眼差しで見据えている。
「信じぬのであれば、それも仕方がない。だが、雑木林の開拓は断行する。その際、私は軍を投じるだろう。悲劇を二度繰り返すか、それとも安住の地を得るか、二つに一つだ」
あえて最終的な判断を迫った。
危険な賭けだが、仕方がない。
こうでもしないと決着はつかないだろう。
軍を投じるなど全くのハッタリだが、安住の地を与えるのは嘘ではない。
彼等が臣下の列に加われば大きな戦力になるのだ。
「仮に移住したとして、住民が受け入れるか?我等は亜人だ。恐れられこそすれ、受け入れられるとはとても思えん」
「確かに時間はかかるだろう。相手を知る事は時間が必要だ。現に、私は貴方達と会話を重ねるうちに恐怖心が和らいでいる。それに、住民の大半は奴隷だ。いや、元奴隷と言ったほうがいいか。ここに居る2人も、元は奴隷の身だった。だが住民は奴隷だなどと差別せずに付き合っている。それはお互いが接してお互いを知ったからだ。オーガは亜人だが、極めて人間に近い姿をしている。だから私は心配する必要はない、と思っている」
「ううむ……」
信じて良いものか判断に迷うヤシャ。
すると今まで黙っていたハンゾウが口を開き。
「では、俺が最初の移住者になる。それで判断して良いだろうか?住民が受け入れれば一族は移住し、拒絶されれば移住はしない。その結果、事を構えることになろうともだ」
「ヤシャ殿が良ければ、異存はない」
俺が理解を示すとヤシャは天を仰ぎ、大きく息を吐いて頷いた。
「我も異存はない。息子よ、くれぐれも気をつけてな」
「お任せください。しかと見極めてまいります」
これは大きな賭けになった。
果たして吉と出るか凶と出るか。
全ては住民の判断に委ねることになった。
俺は期待と不安を抱きつつヤシャと別れ、ハンゾウを伴って町に帰還したのだった。
約束通りオーガがやって来た。
一族の長らしき壮年と息子らしき屈強な若者の2人だけだ。
武装はしておらず、血と汗が染み付いた衣服を着ている。
生活の困窮度が窺い知れる格好だ。
こちらはベルナールとリオンを伴って3人で会うことにした。
アスタールも行くとゴネたが、彼にはやってもらう仕事が他にある。
渋々納得していたが、後ろ髪を引かれるように最後まで抵抗していた。
「先ずは話に応じていただき感謝する。私はエルロンド・オスカーシュタイン。この一帯を治める領主である」
相手に舐められぬよう毅然とした態度で接した。
相手が10歳の少年とは信じていなかったのだろうか。
オーガ達は目を丸くして幼い少年を眺めている。
「我はオーガの長でヤシャと申す。この者は我の息子でハンゾウ。一族を代表して領主殿に拝謁いたす」
思いの外礼儀正しい態度にコッチが目を丸くした。
さすがは人間に近い知能と技術を持つ亜人だ。
見た目も人間とさほど変わりはないが、屈強な肉体と額に生える角は圧巻の迫力がある。
「丁寧な挨拶に感謝する。早速本題に移るが、私は雑木林を切り開いて耕作地を広げたい。居住に適した地を用意するので、立ち退いてはくれまいか」
「残念だが、それはできぬ。訳あって理由は話せぬが、期待には応えられぬ」
予想通りの答えに交渉が難航する雰囲気が漂う。
ヤシャからは敵対も辞さない覚悟が窺えるほどだ。
しかし俺は怯むことなく。
「その理由とは、裏切り者のせいか?」
「なぜそれを⁉︎」
ヤシャとハンゾウは驚き、警戒心を露わにした。
「落ち着かれよ。心配せずとも危害を加えるつもりはない。もし危害を加える腹積もりなら、とっくに害を及ぼしている」
「……確かに、そうかもしれぬ」
言いつつもヤシャの警戒心が和らぐ様子はない。
しかしエルロンドに嘘はないと判断したのか、一定の理解を示したのは真偽を計りかねているためだろう。
「その裏切り者だが、昨今の戦いで父上が勝利した折、敵方の情報を流した内通者として功を挙げ、今はヴィルガスタ軍の兵長として軍役に就いている」
「あの裏切り者が兵長に!なんたることか!」
怒りを露わにするヤシャとハンゾウ。
はらわたが煮えくり返っているらしく、激しい憤怒の炎が全身から燃え上がる。
「あの者は一族を裏切り、領主の命令に従って我等を襲った恥知らず!その裏切り者がのうのうと生きておるなど、こんなことがあって良いのか!」
「裏切り者に住処を追われて今まで雑木林に隠れ棲んでいたのは調べがついている。そこでだ、我が町に移住しないか?」
「なんと⁉︎」
思いもよらぬ提案に耳を疑うヤシャとハンゾウ。
「オーガを襲うように命じた領主は滅びた。今は私が領主だ。もはやオーガを脅かす軍はいない。どうだろうか?」
「裏切り者を軍役に就かせている者を信じろと?」
「それは父上の事情で私には関係ない。私は貴方達を欲しているだけで、父上の軍にいる裏切り者などどうでもいい。機会があれば、仇討ちできるよう取り計らう事ができるかもしれん。もちろん、私に仕えるのであれば、だが」
「それを信じろと?」
真偽を見定めるように問うヤシャ。
ハンゾウも疑いの眼差しで見据えている。
「信じぬのであれば、それも仕方がない。だが、雑木林の開拓は断行する。その際、私は軍を投じるだろう。悲劇を二度繰り返すか、それとも安住の地を得るか、二つに一つだ」
あえて最終的な判断を迫った。
危険な賭けだが、仕方がない。
こうでもしないと決着はつかないだろう。
軍を投じるなど全くのハッタリだが、安住の地を与えるのは嘘ではない。
彼等が臣下の列に加われば大きな戦力になるのだ。
「仮に移住したとして、住民が受け入れるか?我等は亜人だ。恐れられこそすれ、受け入れられるとはとても思えん」
「確かに時間はかかるだろう。相手を知る事は時間が必要だ。現に、私は貴方達と会話を重ねるうちに恐怖心が和らいでいる。それに、住民の大半は奴隷だ。いや、元奴隷と言ったほうがいいか。ここに居る2人も、元は奴隷の身だった。だが住民は奴隷だなどと差別せずに付き合っている。それはお互いが接してお互いを知ったからだ。オーガは亜人だが、極めて人間に近い姿をしている。だから私は心配する必要はない、と思っている」
「ううむ……」
信じて良いものか判断に迷うヤシャ。
すると今まで黙っていたハンゾウが口を開き。
「では、俺が最初の移住者になる。それで判断して良いだろうか?住民が受け入れれば一族は移住し、拒絶されれば移住はしない。その結果、事を構えることになろうともだ」
「ヤシャ殿が良ければ、異存はない」
俺が理解を示すとヤシャは天を仰ぎ、大きく息を吐いて頷いた。
「我も異存はない。息子よ、くれぐれも気をつけてな」
「お任せください。しかと見極めてまいります」
これは大きな賭けになった。
果たして吉と出るか凶と出るか。
全ては住民の判断に委ねることになった。
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