闇堕ち確定の主人公を恋する幼馴染が救う異世界の話。

山本いちじく

文字の大きさ
7 / 100
1章

崇拝

しおりを挟む
「うふふ。押さえ込まれていた悪魔の性質が覚醒したわね。この角はね、あなたの父さんと同じ匂い。懐かしいわ。この匂いを嗅ぐと、身も心もじっとりと濡れてしまう。
 そして、コフィ、あなたの本当の姿が悪魔だっていう証の角よ。ふふ、おめでとう。ちゃんと育てて、立派な悪魔になるのよ。安心して、あなたがその気になればすぐだから」

 アスタロトがにっこり甘く微笑んで、角をベロリと舐めた。
 俺は、アスタロトに好かれたくて、言葉を選ぶ。アスタロトの爪が触れた首筋に、心地よいくすぐったさが広がっていく。アスタロトの爪が俺の肌の上を優しく走って、ゾクゾクする。俺は、しだいに心を許して、アスタロトを求めてしまう。

「うん...だからもっと...」

 その時、スピカが怒りに身を震わせながら雷鳴のように絶叫した。

「私のコフィに触らないで!!!」

 余裕の笑みを浮かべて、アスタロトがスピカを嘲笑う。

「あら、彼女がいたのかしら。うふふ、略奪愛なんて、更にいいわ。悪魔には、背徳がご馳走よ。
 身体も力も貧弱なお嬢ちゃん、生かしておいてあげる。せいぜいコフィが悪魔になるための、養分になりなさい。ふふふ」

 リオ兄が遠くから俺の名前を呼んでいる気がする。
 でも、俺は、アスタロトの甘い香りにクラクラして、その声をすごく遠く感じる。
 アスタロトがリオ兄を小馬鹿にするように言った。

「おや、星の精霊リオ、宇宙最強の存在の一人。おぉ怖い怖い。うふふ、あたしの誘惑が効かなくても、手も足も出せないでしょう。
 お前の背負った罪が、そうさせるんだね。哀れな傍観者、まじめな異星人よ。村人をどこかに空間転移させたみたいだね。余計なことを。
 でも、できることはそれだけかい?せいぜい、指を咥えて見ていなさい。うふふ」

 リオ兄が激怒したライオンのように叫ぶ。空気が怒りでビリビリと振動し、膨大なエネルギーを感じる。

「たかだか悪魔ごときの分際で!神の力などほとんど扱いきれていないようだな。その程度の力では、バリアを壊せても、魔石を壊すこともできないだろう。早くコフィを返せ。その気になればいつでもお前を消し去れる」

 アスタロトが不機嫌に言葉を荒げた。

「あの忌々しい異次元のAIと同じことを言うじゃないか。あの傷一つつかない館も、いつかぶっ壊してやる。いいだろう、コフィを返してやるよ」

リオ兄が爆発寸前の怒りを堪えるように言った。

「お前に魔石よりも硬い館を壊すことなど、不可能だ。あの館は、僕でも壊せないように作られている。
 さっさとコフィを返すんだ!この身が滅びようとも、お前の魂を再生不可能に破壊するぞ。怒りを抑えられる自信がない」

「あぁ、ゾクゾクしてとろけてしまうわ。強い男の脅しの言葉って、興奮しちゃう。
 リオ、あなたが邪悪ならよかったのに。あたしは、あなたが大っ嫌い。星ごと何百億人も殺しているくせに、善人顔して罪悪感に苛まれているなんて、最低のつまらない男だわ。気色悪くて、反吐が出る。
 あなたほど力があるなら、星も命も無造作に壊しまくればいいのよ。星なんて踏みしめる石ころのようなものでしょうに」

 そして、アスタロトが俺を胸元から離す。俺は、その人肌恋しさにアスタロトの方へ手を伸ばす。なんで?もっと触れていたいのに。
 アスタロトが優しく俺に言った。

「うふふ。あなたが可愛くて、内臓が疼くわ、コフィ。でも、この先は、まだだめよ。今日は、ここまでで、おあずけね。
 こう見えてあたし、逆らえないくらい強い男に振り回されたり、隷属を強いられたり、責められるのが好きなの。可愛いけど、言いなりのコフィでは、物足りないわ。
 でも、安心して、一つずつ順番に、あたしの全部をあげる」

 それからアスタロトが邪悪さを隠さずに低い声でザイドに命令した。

「ザイド、用がすんだわ。城に戻るわよ。ザイドには、コフィを立派な悪魔に育ててもらうわ。悪魔になったコフィをあたしの前に連れてきなさい。そうしたら、使いきれない富をあげる」

 ザイドが一瞬で姿を現す。

「御意でございます」

 アスタロトがコロコロと笑いながら、俺の手からすり抜けていく。アスタロトが笑顔のまま手をかざすと、手から黒い立方体が出てきて、クルクルと回った。

「神の力の試し打ち、ここでも一発しておくわ。あたしを見捨て、海底に一万年放置して忘れた人類など、絶滅させてやる」

 マツモト村の地面に深い地割れが縦横に無数に走り、黒い衝撃波で建物は一瞬にして全て瓦礫に変わった。
 つまらなそうに村の残骸を見てから、アスタロトが俺の耳元で生温かく囁いた。

「待ってるわね、コフィ。あたしは、もうあなたのもの。あなたと作る子供は可愛いはずよ。
 あたしはね、見たいの。魔石バリアを失って逃げ惑う人類が、恩知らずに神を呪うのを。
 そして、人類最後の一人が悪魔を崇拝しながら絶望の中で苦しみ死ぬのを。一緒に暗黒の世界を作りましょう」

 アスタロトが楽しそうに笑いながら、俺に背を向けた。形のいいお尻からくねくねとした悪魔の尻尾が伸びている。 
 そして、また黒い立方体をクルクル回すと、城と共に姿を消えてしまった。俺を置いて。

「行かないで、アスタロト。もっと一瞬に、いたいんだ」

 俺は、屋根のない天守閣にふわふわと着地をして、泣きながら眠ったらしい。そして、可愛いアスタロトの豊かな胸に溺れる甘い夢を見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...