不運さんが転生したら普通の人生を送りたいのに、精霊の力を借りても波瀾万丈な件

山本いちじく

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第1章

これが修行

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 めちゃくちゃ朝早く起きてしまった。
 いよいよ、魔法の修行が始まる!
 昨日は、ワクワクして眠れなかった。言葉がいきなり理解できたように、女神様の加護でチートな魔法の才能が授けられいるのかもしれない、とか妄想が膨らんでしまう。
 クヒカが「前代未聞の天才だわ!私の手に負えない。王都シャーヒルのマジポケ魔法院で学ぶべきよ!」とか言って驚いたらどうしようか、などと考えるとニヤニヤしてしまう。

 パナニが朝食に俺の大好きなクロックムッシュを作ってくれた。

「エレム坊ちゃま、いよいよですね!頑張ってください!」

 ありがとう、パナニ。そうだ、パナニも驚かせてやりたい。パナニは、いつも俺を励ましてくれる。

 そうして、修行は始まった。
 姉弟子にあたる13歳の魔法使いカリンが助手としてきていた。
 発育がよくて可愛い顔しているけど、ヤンチャで気が強い。正直言うと、元気すぎて、ちょっと苦手。。。
 晴れた庭でクヒカが神妙な面持ちで指導する。

「エレム、あなたは、この2年ほど、魔法書で勉強しましたね。5歳で魔法書に触れるのは、異例なことです。
 普通は、11歳になって、魔法の適性を調べてから、魔法書の勉強に入ります。そして、12歳になって初めて、素材を使って魔法の実践に入るのです。
 それほど、素材を使った訓練は、危険です。魔草の小さな葉1枚の訓練でも、最初はかなり身体に負担があります。
 今日は、王都シャーヒルのマガポケ魔法院から特別な許可をもらって、エレムの修行を開始します。
 今日から私が、あなたの師匠です。言葉使いも敬語にしてね。修行の時は、マスタークヒカを呼ぶように」

「マスタークヒカ、よろしくお願いします」

「よろしい。では、手順を覚えていますね。初めは、慎重に。それが大切です」

「はい!素材を手に、魔力を感じてから、詠唱を行う、でしたね。やってみます」

「よろしい。エレム、そのとおりです。カリン、練習用のキキリを1枚取ってきてちょうだい」

 カリンが畑の方に走って行き、小さな葉っぱを持ってきた。
 マスタークヒカが、丁寧に説明を続ける。

「これは私が魔草を育てるときに、間引いた練習用のキキリです。素材の力は弱いですが、間違いなく魔力がある魔草です。丁寧に扱うように」

 カリンが俺に練習用のキキリを渡しながら、意地悪に笑う。俺への対抗意識がすごい。
 
「始めからうまく行くなんて、そんなに甘くないわよ。7歳で実技を始めるなんて、生意気だわ!」

 俺は、手に収まるほど小さなキキリの葉っぱを手に乗せた。忘れもしない、階段から落ちたときに嗅いだミントのような、ドクダミのような香り。手のひらに乗せただけで、ズンっと、痺れるような不思議な感覚があった。こ、これが魔草。

「マスタークヒカ、ま、魔力を感じます」

「良いでしょう。次に詠唱です。最初は、草木の魔法です。キュアの初歩、キュールにしましょう」

 ついに始まる。キュールの詠唱は、最初に覚える初歩中の初歩だ。カリンだって、見返してやる!

「癒しの葉よ、傷を治せ。キュール!」

 あっ。嘘。どうして。
 全身から力が抜けて、立っていられない。マスタークヒカが柔らかく俺を抱きしめて受け止める。
 マスタークヒカが穏やかに優しく笑っている。
 俺は、練習用の魔草一枚から僅かな魔力を引き出そうとしただけで、倒れてしまった。

 昼過ぎに、ベッドで目が覚めた。悔しくて、泣いた。きっと魔力の耐性値がなくなったんだ。こんなんじゃ、不運に対抗なんてできない。

「魔力の耐久値がこんなに低いなんて…。弱すぎる。こんなんじゃ全然だめだ。素質がないのかな。。。」

 俺が、泣いているとカリンが部屋に入ってきた。泣いているところなんて、見られたくなかったのに。

「エレム、何を泣いているの?体調は大丈夫?」

「だって、せっかく修行が始まったのに、すぐに倒れてしまって。恥ずかしくて、悔しくて。こんなに魔力の耐久値が低いなんて。魔力の耐久値は、増えないって本に書いてあったのに」

「ふふふ。何を言っているの。
 むしろ、大成功よ。
 まず、最初から魔力を感じることができる人は、少ないわ」

「そうなの?」

「そうよ。その中で、詠唱に成功して抽出を始められるのも、また少数。私は、もちろん、できたけどね!
 魔力の耐久値は、慣れが必要よ。最初は、すぐに限界を感じるわ。本当の限界を知るのは、もっと先のことよ」

 こうして、初日は、苦い思い出となってしまった。カリンを見返すどころか、慰められてしまった。

 次の日は、キキリの畑の世話から始まった。
マスタークヒカは、魔草の育て方も教えるつもりらしい。

「午前中は、キキリの間引きをしましょう。これくらいの葉が練習用にいいでしょう。育ったキキリには、練習用の1000倍の魔力があります。危ないので、まだ触らないように。
 マガポケ魔法院では、育ったキキリ1株分を魔力耐久値1と換算しています。
 まず、朝、練習用キキリを自分で収穫すること。そして、午後、気を失って倒れても安全な場所で詠唱の練習をすること。
 この柵の中では、火炎草ファイを5株育てています。火炎草は、魔力の耐久値1000以上の人だけが使用を許可されます。危険なので、絶対に触らないこと」

 収穫したキキリの葉は、3日で萎れて役に立たなくなってしまう。国内では育てられる人が少なく、かつ需要も多い、高価な薬草だ。自分で修行できるようにしてくれたのは、ありがたい。昨日は練習用キキリ1枚で限界だった。今日はまず2、3枚取って、1枚ずつ試してみよう。また、1枚で倒れてしまうかもしれないし。

 午後、試してみると、練習用キキリ2枚までキュールを発動できた。2枚目は汗がぐっしょり出て、もう倒れそうだったから、これが今の限界だろう。でも、枚数が増えたことが、嬉しい。魔力の耐久値が0.002に増えたってことだ。勝手にレベルアップの音を想像してみる。
 あらためて、マスタークヒカのA4ランクの凄さがわかる。俺が大怪我をした時、練習用キキリの1000倍の魔力があるキキリを100個以上連続で使い切っていた。
 耐久値100以上。いや、ファイを育てているくらいだから耐久値1000は余裕であるんだろう。マスタークヒカの背中がかなり遠く感じる。
 
 明日は、練習用キキリを5枚収穫してみよう。地道にコツコツ。

 翌日。練習用キキリ4枚を使い切ることができた。

 なんだか、使った回数分だけ増えている気がする。
 もしそうなら、明日は8枚になっているはずだ。3日目で2の3乗。まだ弱いけど、えぐいスピード。
 
 そして、10日後、1024枚。きたー!!これはすごい。やっと魔力の耐久値が1になったぞ!もう間引く手頃な葉っぱはないくらいだ。明日、マスタークヒカに、相談してみよう。

 次の日、マスタークヒカは、どうしようか思案していた。

「ここまでは順調ですね。
 しかし、困りました。私の畑のキキリは、受注生産で、売り先が決まっています。間引く葉っぱももうないし」

「魔力の耐性値を高めるために、キキリを使いたいんですが。。。難しそうですね。。。」

「そうね。エレムも自分用の畑を作りましょうか。カリンの畑の隣を耕しましょう。それがいいわ。その方がカリンの励みになるし。それには、土の魔法を覚える必要があるわね。

土に手をつけて、畑の広さをイメージして。
それから詠唱。

偉大なる大地よ、魔力を蓄えよ!アスパワド」

 マスタークヒカの手が触れた土から魔草畑全体にわずかな光が広がっていく。
 すごい。

「キキリ100株を育てるのには、土に魔力1000を与える必要があります。マガポケ魔法院では、キキリ100株の畑に100日で魔力1を与えるスピードをDクラスと換算しています。
 スピードが増えるのはすごく時間がかかるので、畑を耕しながら、いい修行になるでしょう。
 スピードAの私でもキキリを育てる土を作るのに3ヶ月かかります。
 エレムは3年で畑の完成を目指しましょう。それでスピードCクラスです。カリンとどっちが早く畑を完成できるかしらね。サボらずに、毎日畑作りに励むように。ふふふ。土ができたら、キキリを育てる草木の魔法を教えましょう」

スピードは、1日5時間アスパワドをするとして、
Dクラス100日で魔力1
Cクラス1日で魔力1
Bクラス1日で魔力5
Aクラス1日で魔力10
Sクラス1日で魔力100
SSクラス1日で魔力1000

 マスタークヒカの真似をしてやってみるけど。。。
 ほとんど何も感じない。そう、魔力がない。
 でも、ぐっと集中すると、深い場所に微かな魔力を感じる。これを地表にまで吸い上げるのか。気が遠くなるような作業だ。
 土には、微量の魔力が含まれているが、より深いところにある土や岩石にはより魔力があるとされている。
 地面に手を触れて、より深い地中から魔力を吸い上げるイメージで畑の土に魔力を与えていく。
 地面は、全く光らない。なのに、汗がじっとり流れる。

「はぁ、はぁ。もう無理です」

「ふふふ。しんどいわよね。ファラム国でも、土を作る魔法使いは少ないわ。みんなめんどくさくなってしまうのね。
 ほとんどの魔法使いは、誰かが育てた魔草を使って魔法使いを名乗っているの。
 カリンは、最近ちゃんとやってるかしら?
 でも、土の魔法ができるとキキリやファイを自分で育てることができるようになるわ。土と草木の魔法を極めているのは、ファラム国にも数人しかいない。
 ファイ1株を育てるには、10000の魔力を土に与える必要があるのよ。私でも3年かかる。
 どう?気が遠くなるでしょう。それだけ、価値も高いわ。
 それに毎日限界まで魔法を使って、魔力の耐久値を伸ばせる。
 ふふ。私が魔草作りの全てを伝授しましょう」

 カリンが悔しそうに、マスタークヒカに対して深く頭を下げた。

「マスタークヒカ、ごめんなさい。あの、少し、少しだけサボってしまいました。あ、あたしの方が先に畑を完成させます!」

 クヒカは、土と草木の魔法の達人だったのか。地味だ。地味だけど、有用なのは間違いない。よし、いい土を作ろう。

 俺とカリンは、それから毎日アスパワドで土に魔力を与え続けた。
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