不運さんが転生したら普通の人生を送りたいのに、精霊の力を借りても波瀾万丈な件

山本いちじく

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第1章

街歩きと魔道具屋ドワラゴン

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 休日の朝市がこんなに賑やかだなんて。人夫とその家族で3万人集まってるとは聞いていたけど。王都からアレイオスに避難してきた人も朝市に来ているんだろう。
 ガナードに転生してからずっと田舎暮らしだったから、あまりの人の多さに面食らう。
 さまざまな屋台が出て、食事だけでなく、服屋や雑貨、調味料や家畜まで提供している。スパイスや肉やパンの焼ける香ばしい香りが満ちている。音楽を演奏している人までいる。夜は、飲屋街に変わるというから、さらに盛り上がることだろう。
 今来ているジョイス朝市は、サッカーのコート2面分くらいの広さに屋台が所狭しとひしめいて、通りは人で溢れている。毎週の休日に朝市が3ヶ所で開かれて、ジョイス朝市が中位の規模だというから驚きだ。1番大きな魚市場のトトラム朝市が、今日は、お休みらしい。

「なんでガンダルもついてくるのよ!」

「カリン、逆だろ?暗殺者が街にいるのに、なんでエレムがアゴラスから外出できたと思う?
 俺が魔道具屋にエレムを連れていくってんでアゴラスからの外出許可が出たんだ。それにカリンがついてきたんだろ?
 感謝されてもいいくらいだ」

「あたしが言いたいのは、そういうことじゃないの!」

 カリンがローブの下にフリルのついたワンピースを着ている。草舟のブーツも女の子らしいデザインにしてもらったみたいだ。草舟の腕輪も。

「まぁまぁ、カリンもガンダルも落ち着いて。俺が朝ごはんをご馳走するからさ。
 2人のおすすめの屋台を教えてよ。右も左も分からないんだ」

「俺の1番のおすすめは、魚市場の海鮮丼だな。春の青魚がうまいぞ。だが、ドラゴンが海上に現れてから海に飛竜が集まって、怖くて漁に出れないらしい。
 漁船が朝から一隻も出てないってよ。仕方ないが、魚が食えないのは、どうにかしないとな」

「トトラム朝市もお休みだもんね。ついてないわ。それでいつもよりジョイス朝市に人もお店も集まっているのね。
 焼きたてクロワッサンにチーズとスモークフィッシュ、春野菜のマリネを挟んだサンドイッチが食べたかったな」

「ジョイス朝市ならコーヒーと一緒にクロックムッシュが食べれる店がおすすめだな。カリンは、知ってるか?」

「もちろんよ!パッキンスの店でしょ?エレム、クロックムッシュ好きだったわよね?
 それか、豚や鶏のスープに炊いたお米や麦を入れて食べるお粥のお店もおすすめよ。寒いから身体も温まるしいいかも」

「おう!朝粥がいいかもな!俺も好きだ。リーシェンの店がいいだろう」

「そうね。こってりならリーシェンの店、あっさりならヤンローの店がいいわ。どっちも人気店よ」

「そ、そうだね。じゃあ、今日は、あっさりにしようかな」

 なんだかんだでカリンとガンダルもいい関係だ。ガンダルがカリンに魔法を教えてもらったりしているらしい。
 扮装のために、フード付きのコートを着て、3人で朝市を歩いていく。
 あの宝石屋はぼったくりだとか、あのソーセージ店は他の朝市にも店を出して繁盛してるとか、カリンとガンダルが色々な情報を教えてくれて楽しい。
 人種も色々だ。ガルダ国、ソトム国からも労働者が流入している。髪の色が色々あるだけじゃなく、身体が大きい人や耳が尖った人、背の低い筋肉質の人もいる。肌の色も様々だ。
 どの人も人類に分類されているとのことだが、元の世界のりも幅広く多種多様な人がいる気がする。
 出身国や地方によって、かなり個性が分かれるらしい。

「あぁスープがしみるね。春の野草と煮豚も美味しい!結構しっかり味がついているんだね。麺も好きだけど、粥もすごい美味しいよ。カリン、ガンダル、ありがとう。アレイオスの朝がこんなに楽しいなんて」

「人夫達は、濃い味付けが好きだから、しっかり味がついてる。それに量も大盛りで、安いんだ。朝市は賑やかで楽しいよな」

「あたしは小盛りで充分よ。それに頼んだらその場ですぐに出てくるのがいいわよね。あとで甘いものも食べよう!」

 ヤンローの店前の路上には簡単なテーブルと椅子が30席ほど並べられて、満席だ。
 値段も300イエから400イエで安い。
 休日だけあって、家族連れも大勢いる。店の厨房は、大忙しだ。
 周りでは、ドラゴンの話ばかり飛び交っている。タイトスだけでなくて、海上のドラゴンまで出たにしては、みな落ち着いている。
 ドラゴンの進路からアレイオスが外れているのもある。
 アレイオスがドラゴン対策の避難用や都市として計画されているからというのもあるだろう。アレイオスは大丈夫、という雰囲気も感じられる。
 ドラゴンは敵じゃない。隕石からこの星を守ってくれるんだという、声も聞こえてくる。
 確かにそうだ。人類は、隕石からこの星を守るというドラゴンの使命の邪魔をせず、生き延びればいい。
 飛竜を目撃した人も大勢いるようだ。山の上に何頭も群れているという方が、遠くのドラゴンより恐怖になっているみたいだ。

 腹ごしらえが済んで人心地ついていると、少し離れたテーブル席で喧嘩が始まった。どっちかがぶつかってきたとか、貸した金返せとか、そんなことを言って騒いでいる。隣の席の赤ちゃんがギャン泣きしている。

「ちっ、仕方がねぇな。
 おい!お前たち、店の迷惑だ、表に出な。
 どっちがどうかしらねぇが、これ以上店で騒ぐなら、副騎士団長ガンダルが間に入ろう!」

 立ち上がったガンダルの地鳴りのような大きな声が店中に響くと、一瞬で静かになった。赤ちゃんさえも泣き止む。
 喧嘩していた2人は、ガンダルに睨まれて、おどおどしている。

「お、俺たち本当は、仲良しなんです!な、兄弟!
 ドシド、ガンダルは、やべぇって!」

「お、おう。ちょっと興奮してお騒がせしちまったみたいで。失礼しやした!行こうか、メンガ」

 2人は、すごすごと食器を片付けて、出ていく。
 店主がガンダルさんにお礼をしに出てきた。

「ガンダル様、いつもありがとうございます。みんな喧嘩っ早くて。ドシドとメンガは、店の常連なんです。夜も喧嘩しながら一緒に酒を飲んでますよ。
 何も家族連れもいる朝っぱらから喧嘩することもないでしょうに。
 騒ぎが大きくならなくて助かりました」

「おお、ヤンロー。なぁに、いいってことさ。店が繁盛していて、何よりだな。また、夜飲みにくるよ」

 ヤンローがガンダルに酒をご馳走する約束をして、足早に厨房に帰っていく。

「ちょっと怖かったかけど、ガンダルがいて助かったわ。あたし、喧嘩は嫌よ。たしかに、街を歩いていると、物騒で怖い時があるわ。暗くなったら出歩かないもの」

「こんなこと日常茶飯事だ。
 治安がいいとは言えないが、みんな他所者同士、ぶつかったり喧嘩しながら、ガチャガチャやってるのさ。
 夜は、もっと騒々しいぞ。夜出歩かないのは、賢明だな、カリン。若い女の子には、危ないぜ」

 そりゃそうだよな。ここは都市開発の真っ最中。気性の荒い肉体労働者も大勢いる。

「そろそろ魔道具屋ドワラゴンの店が開店するころだ。丘の上に行こう。ゾゾ長老からの注文も預かってるしな。ゾゾ長老から昼過ぎまでに帰れと言われてるんだ。遅く帰ったらめちゃくちゃ怒られるぜ」

 大男のガンダルが小柄な100歳のゾゾ長老を恐れているのが面白い。たしかに、気持ちは分かるけど。

 アレイオスの小高い丘の上には、東側の商業区画と西側の行政区画がある。総督府があるのは丘の真ん中だ。丘の後ろには山脈が連なり自然の城壁になっている。
 
 途中、焼きたてのエッグタルトとコーヒーの店に寄ったりしながら、丘を登っていく。ジョイス朝市から徒歩で40分ほど登った。

 丘の上から港や居住区、市場のあたりを見下ろす。3年でこれほどの規模の街が急造されたなんて圧倒されてしまう。まだまだ建設中とは言え、すでに充分大都市になっている。

 丘の上は、都市が計画される前からある旧イオス村の古い建物が多いらしい。500年以上前からある建物もザラにあるというから驚きだ。地下に古代遺跡があるのもわかる気がする。

 人通りのない静かな狭い路地を歩いて、石造りの階段をぐねぐねと登って、やっとドワラゴンの店に着く。
 一度では絶対に覚えられない道筋だ。

 カランコロン

 重たい扉を開けると、可愛らしい鈴がなった。奥からドワーフだと言われたら、まさに!と言ってしまいそうな小柄で筋肉質の長い白髭の男が出てきた。そして、ガンダルの顔を見ると、露骨に嫌な顔をした。

「おう。ガンダル。今日はなんだ?またゾゾ長老の無理難題か?」

「ガッハッハ!察しがいいな。流石、ドワラゴンだ。まずは、これを見ろ。驚くぞ」

 ガンダルが背中の大袋から炎犬の骨2匹分を大きなテーブルの上にゴロゴロと無造作に出した。
 ドワラゴンがそれを見て目を輝かせる。

「おお。これはなんてこった。炎犬の骨をこんなにも。ついに人類は、炎犬を狩れるようになったんだな。夢物語だと思っていたが、ゾゾ長老の言う通りになったか」

「俺も炎犬を1匹倒したぜ。あんたの鍛えた斧槍でな」

「それは本当か!?お前が!俺の斧槍が!うぉぉぉ!!!」

 ドワラゴンが感動して泣いている。なんか面白いおっさんだ。でも、気持ちは分かる。炎犬を倒すのは、人類の悲願だったんだ。

「おかげで見ろ、斧槍がボロボロになった。直せるか?」

 ドワラゴンが自信満々のドヤ顔で胸を叩く。

「俺の最高傑作の斧槍だから丈夫にできてる。これくらいなら3日くれたら直せるぞ。5万イエでどうだ」

「直るなら助かる。頼んだ」

 ガンダルが銀貨5枚と斧槍をドワラゴンに渡す。

「まいど。この斧槍が炎犬を。頑張ったな。大切に直してやるぜ。そのうち飛竜だって倒せる日がくるかもな。キッキッキ!」

「飛竜か、そりゃ夢があるな。
 それからゾゾ長老からの注文だ。炎犬の骨を使って、5連射可能な炎犬の杖を100本作れってよ。納期は1ヶ月だとさ」

「おいおい。ゾゾ長老は、俺を殺す気か?
 納期が1ヶ月!?炎犬の骨の加工には、洒落じゃねぇが骨が折れるんだ。硬いのなんのってな。連射式じゃない炎犬の杖1本仕上げるのに1人前の職人1人かかりっきりで1ヶ月かかる。
 俺の工房がアレイオスで1番弟子が多いっていっても、10ある支店合わせても50人の職人しかいないんだぞ。どうしろっていうんだ」

「ゾゾ長老は、炎犬の骨を1000体分集めて、1日5万個パンを作る工場のパン焼き窯を作る計画だ。その時できる炎犬の骨の切れっ端を使えってさ。
 それで、5日後、アレイオス中の魔道具職人100人を総督府に集めて、巨大パン窯製造の依頼をかける。ドワラゴン、お前にその親方をしてもらいたいってよ。
 経験年数、実力と人望からして、お前しかいないだろ」

「なんちゅうめちゃくちゃな計画だよ。
 まぁいい。どうせゾゾ長老の依頼は断れねぇ。激動の時代だ。俺も波に乗るしかないな」

「そういうことだ。あとは、このエレムの坊主に、剣を教えることになってな。ちょうどいい剣を見繕いたんだが」

「ガンダル、お前が弟子を取るとはな。しかも、あの不運のエレムか。お前も運の尽きだな、キッキッキ!
 まあいい。エレム、お前、手を見せてみろ。俺が剣を選んでやる」

 ドワラゴンが俺の手を見たり触ったりして、足腰の具合を見たりしてくる。

「エレム、お前、農夫か?こんなに若いのに、手が荒れ放題だ。手の平もタコだらけだな」

「農夫ではないけど、5年くらい毎日畑でクワを使って土を耕してきた。身体作りもかねて。醜いけど、俺は、この手に誇りを持ってる」

 ドワラゴンが俺の意志を確かめるように俺の目を覗き込む。

「ふむ。なるほど、いい眼だ。手の皮も分厚くできてるな。足腰も充分だ。ガンダルがお前を弟子にした理由が分かったよ。ふむふむ。ちょっと待っていろ。面白い物がある」

 ドワラゴンが店の奧でガチャガチャと剣を探している。

「おお、これだ。これにしろ。
 お前は、精霊と話せるらしいからな。精霊と話せたらこの剣の由来を聞いてみろ。数千年前の遺跡から発掘された不思議な剣だ。古代の遺物のはずなのに腐食や痛みもなければ、刃こぼれの一つもない。しかも、鋼のハンマーで力一杯思いっきりぶっ叩いてもキズ一つ、歪み一つつかない。俺でも素材すら分からん。
 王族、貴族の家に飾るのには、勿体無い業物だ。かと言って、実戦で使うには大きさが中途半端で大人には小振りすぎるし、子供の練習用には重たすぎる。そもそも得体が知れんもんを普通の客には売れん。
 おまけに3年前こいつを持ち込んだトレジャーハンターがすぐに死んでしまったいわく付き。呪いとかあったら大変だ。
 鞘を仕上げてから、やり場に困って奥にしまっていたんだ」

「いや、俺が呪われたらどうするんだよ!」

「多分、大丈夫だろ。店に置いておいてもなんともなかった。
 それに、お前は、もうすでに女神様もお手上げの不運に呪われている。これ以上呪われることもないだろ。キッキッキ!」

 ひどい。あんまりだ。

「アッハハ!うける!エレムにぴったりじゃない!」

「ガッハッハ!本当だな!たまたま大きさも重さもちょうどいい。持ってみろ。剣の正体は、精霊に聞いて確かめればいい」

 おい。みんな他人事だと思って。でも、こうして笑い飛ばしてくれるのは、ありがたい。
 剣を受け取ると、確かにずしりと重い。一流の職人が丁寧に仕上げたことが伝わる革製の鞘。派手さはないが、品がある。
 見事な鞘から刀剣を引き抜く。鞘は、軽い。持ち手の柄がゴムのような不思議なグリップ感だ。
 刀剣は、鉄ではない何か白銀のような不思議な見た目だ。キズ一つなく、両刃に俺の顔が鏡のように映る。新品と言われても不思議じゃない。
 手に持ってみると、まるで自分のために作られたかのようにしっくりくる。
 
「確かに、すごく持ちやすい。。。魔力は特に感じないし、呪いなんてかかってないのかも。不思議なくらい身体に馴染む剣だ。重さもクワに比べたら楽なもんだよ」

「そうだろ。長年剣を作ってきた俺の見立てでも、長さと重さ、重心がお前の身体に合っているぞ。身体にぴったりの剣一振りを見つけるのは、案外難しいもんだ。この店には、この剣以上にエレムに合った剣は、ないな」

「そんなこと言って、不気味な剣を厄介払いしたいだけじゃないの?」

「キッキッキ!それも半分以上ある。だが、嘘は言ってない。どうする?エレム、お前が決めろ」

 どうする?分からない。でも、これも何かの縁だ。

「わかった。これにするよ。いくらかな?」

「値段を聞かずに決めるとは豪気だな、キッキッキ!気に入った。鞘は別で2500万イエでどうだ。それなりに切れ味がいい剣が刃こぼれがしないってだけでも安いもんだ」

 に、2500万イエ?!元の世界でもそんな金額の買い物したことないぞ。どうする?手から汗が噴き出てびしょ濡れだ。
 ガンダルが驚いている。

「おいおい。高いな。1人前の人夫が働いて月30万イエだぞ。ドワラゴン、13才の子供に吹っかける金額かよ?!」

「ガンダル、邪魔をするな。
 俺は、エレムと話してるんだ。
 それにガンダル、もしこれがお前にぴったりの武器ならどうだ?
 お前は、必ず買うはずだ。いやむしろ、安いと思うはずだ。
 俺だって、持つ資格のない奴にこの剣を譲ろうとは思わんよ。エレムには、自分の宿命と戦う覚悟がある。眼と手を見れば分かる」

「ぐぬぬ。確かにそうだが、しかし、エレム、そんなにお金持ってないだろ?ザルムかクヒカに相談するにしても。。。」

 ここにゾゾ長老がいたら、買えという気がした。高いからと諦めたら、「お前が手にしたい結果は、そんなに安いのか。器の小さい軟弱者め!」と、怒られるに決まっている。決めた。これは、俺に必要な剣だ。

「買った。お金ならある。キキリを売りまくったお金をクヒカが管理してる。請求書を総督府に送っておいて」

「えっ?!あたし、知らないわよ?
 でも、確かにキキリ畑20に増やしたって手紙に書いていたものね。
 でもエレム、本当にいいの?!」

「いいんだ。決めた」

「男前ね。エレム、すごいわ。あ、あたし、大金すぎて怖い」

「キッキッキ!よし!値切りもしないとは気持ちがいい。鞘は、俺が仕上げた自信作だ。普通なら100万イエはするが、男気に免じてサービスでつけとくよ」

 手際よく鞘にベルトをつけると、手早く俺の腰に剣を装備させてくれた。

 頭から湯気がでるような感じだ。思いがけず、大きな買い物をしてしまった。ちょっと立ちくらみがする。
 みんなが興奮しているからか、店の室温まで上がって、暑い。身体中から変な汗がでる。

「エレム、お前、この3年でずいぶん男らしくなったな。俺まで手に汗握ったぜ。
 よし、この剣で修行を始めよう。刃こぼれしない剣か。凄いものを手に入れたな。
 ドワラゴン、エレムとの練習用にこの長剣をくれ」

「これなら鞘つきで150万イエだな。流石、ガンダル、いい見立てだ。こいつは、中古だが実戦に充分使えるし、エレムとの練習用にもぴったりだ。丈夫さは、鍛え直した俺が保証するぜ」

 150万イエだって、結構いい値段な気がする。金銭感覚が少しおかしくなりそうだ。

「よし、じゃあ金貨15枚だな。
 ん?エレム、心配するな。俺だって稼ぎはいい方だ。これくらいの必要経費を惜しんだりしない。2500万イエは、流石に慎重になる金額だけどな。ガッハッハ!」

 カランコロン

 はー。店の外の空気が冷たくて美味しい。
 買ってしまった。衝動買いもいいとこだ。まぁいい。なんとかなるさ。フワフワして、頭がボーっとする。
 剣が左腰にあるのが、まだ慣れない。まだ剣の抜き方さえおぼつかない。免許も持っていないのに、高級車を納車したみたいな気分だ。元の世界でクルマを買ったことさえないけど。これから、この剣に相応しい自分になろう。

 静かな小道をガンダルが戦術の基本を話しながら歩く。ガンダルの戦術の話は、面白い。冗談を交えながら、戦いの準備や陣形などを教えてくれる。

 人気のない細い路地の途中でガンダルが足をピタリと止める。そして、街中でも躊躇せず、さっき買ったばかりの長剣を素早く抜いて防御態勢に入る。

「エレム、しゃんとしろ。敵だ。
 囲まれてる。ちっ。ついてないな。待ち伏せだ。4、5人か、いやもう少しいるか。気配からして、暗殺者だな」
 
 こんな路地裏で戦闘なんて。それに俺の目にはまだ敵が見えない。でも、確かに殺気のようなものを感じる。炎犬の杖を握りしめて、構える。
 カリンも隣で身構える。

「魔力は、しっかり回復してる。あたしが返り討ちにしてやるわ」

 バサッ
 ドサッ

 忍者のような装束の暗殺者2人が、すぐ脇にある石造りの建物の屋上から落ちて、人形のように倒れる。

 もう死んでるのか?!

 ドサッ

 また1人、上から落ちてきた。何が起こっているんだ?
 ガンダルが厳しい表情をわずかに緩ませる。

  ドサッドサッ
 
 また2人落ちてきた。
 倒れた5人の暗殺者の頭を不思議な矢が貫いている。氷の矢だ。

「ふぅ。ありがてぇ。ヤードルが来てくれた。
 お前は、やっぱり敵だったんだな。キーラ!」
 
 ガンダルが刃を向けた先に低い声で呼びかける。
 スッとキーラが目の前に姿を現した。後ろに暗殺者を4人従えて。
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