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第1章
女神さまからの引き継ぎ
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目を開けた瞬間、
上も下も真っ白い、あの場所にいた。13年前、元の世界にいた時に交通事故で死んだ後で来た場所だ。
でも、どうして?
おかしいな。なんでだろう?
そうだ。
さっきまで海辺の砂浜にいたのに。カリンの温かくて柔らかい胸に顔を埋めていたのに。
もしかしたら、あのあとカリンといい感じになれたかもしれないのに。いや、俺にそんな甲斐性があるだろうか。
なかったな。
不運な俺がカリンを幸せになど、できるはずもない。
1人で立ち尽くしている。
それにしても石のように身体が重い。
あれ?
ふと自分の身体を見ると、石の塊になっている。
なんと、石のゴーレムの姿になっていた。
え!?
なんてこった!本当に重たくなっている!
そうか、俺は今、ゴーレムなんだなと、意外にもすんなり納得できた。
でも、どういうことだ?
死んだのかな。魔力を使い過ぎたせいで?まさかファイポで死んだのか?そんなはずはない。。。
いや、きっと死んでるな。これは。
青信号だからと言って、安全な訳じゃない、と肝に命じていたのに。また油断してしまった。
そうは言っても急すぎる。
終わりがあまりに唐突すぎる。
でも、幸せな人生だった。そう思えるのが、前死んだ時と違うな。
温かい家庭に生まれ、素晴らしい人に囲まれ、希望に満ちた13年だった。
まだまだ希望を追い求めたかったけど。
そうか。
終わりか。
未達のことばかり残っているから、未練はある。
でも、日々最大限やりきって生きた。晴れ晴れとした気持ちもある。
エレムとしても、俺は、よく頑張ったな。
元の世界のユウマより、少しは成長できた。それが微々たるものでも。
ふと気づくと、目の前にあの女神様がいた。
「ユウマ、久しぶりです」
ぼうっと女神様を見上げる。なんと言うか、返事するほど気持ちを整理できない。
「聞こえていますよね?」
はっきりと聞こえている。
ああ、そうだ、返事をしないと。
あれ?
ダメだ心と身体が連動しない。どうやって声を出していたのか思い出せない。
「はい、こんにちは。大丈夫ですよ。あなたの心の声がはっきり聞こえます。いきなりここに来たから、びっくりしているでしょう?」
はい。戸惑いしかありません。
やっぱり心の中が読めるんだな、女神様は。
「ゴーレムには、話す機能がないですからね。でも、言葉を認識することはできるはずです。できるだけ力を温存するために節約して、ここでのあなたの姿をゴーレムにしました」
そうか、俺は、今ゴーレムだった。
「そうそう。その通りです」
それで、やっぱり俺は、死んだのかな。
「死にました。
魂の魔法は、エレムの身体には負荷が大き過ぎました。1体にしておけば、精霊の助けでなんとかなっていたのですが。
無理に3体目まで出した時点で、あなたの魂は燃え尽きてしまった。実験失敗ですね。まぁ、不運な事故とも言えます」
事故。またか、俺は事故で死んだんだな。
今回は、自業自得の事故だけど。
ゴレゴレムが死ぬほどの危険がある魔法だなんて、思いもしなかった。いや、フラザードさんが気をつけろと言ってくれていたか。
あぁ。
ちゃんとフラザードさんの助言を聞けばよかった。
なんで、こうなったんだろう?
そうだ、自分にしかゴレゴレムが使えないことが嬉しくて
、舞い上がって、得意になりすぎたんだ。それで慎重さを欠いた。
あぁ、なんて馬鹿なことを。愚かな自分が恥ずかしい。
でも、ゴレゴレムの後、しばらく意識があったよな。なんでだろう。
「魂があまりに急になくなったので、身体が少しだけ生きていたんでしょう。ほんの少しのことですが」
あぁ。そうなのか。
でも、最期にカリンと話せて、よかった。
それにしても、無謀な実験に迂闊に手を出してしまったな。
「今度から新しい魔法を試すときは、もっと慎重にね。
魂を3つも出すのは、人類の身体に耐えられるわけがありません。1つだって人類には無理でしょう。ゴレゴレムは、自分の命を分け与える魔法なのですから」
油断していたな。自分の魂を分け与える?よくわからないけど、確かに危険そうだ。魔力のさじ加減で命を失うほど危険な魔法だったなんて。
「ま、仕方ないことです。知らないことに挑戦すれば、失敗することを避けることはできません。
失敗して、次に活かすしかないのです」
次や今度が俺にあれば、ね。
その次というやつが、俺にないのが問題だ。もう死んでしまったのだから。
「そう、次があれば。
ユウマ、聞きなさい。これから大切なことを伝えます。
あなたには、まだ次があるからここにいるのです」
次が、ある!そうなのか!
もう一度、希望が与えられるということか。なんてありがたいことなんだ。
「そう。あなたには、次がある。
今回も私が想定していなかったことがたくさん起きました」
でも、そもそも多分死ぬことはないとか、言われてたのにな。多分と言う言葉、ハズレの方を引いちゃったのかな。やっぱり不運だ。
「そう。私も多分、あなたが死ぬことはない、大丈夫と思っていました。
しかし、あなたの不運が私の予想をはるかに超えていたのです」
また女神様の想定を超えてしまったのか。一体なぜ?そんな不運が俺に?
「一つ分かったことがあります」
お!それ!それを聞きたい!なにか希望に繋がるヒントを!
「いやいや、あまり期待しないで。
いいお知らせじゃないのです。
それは、どうやら私は、世界の管理者でなくなったということです。
だから、予想できないことが起こり始めた」
え?どういうこと?充分、神様のように見えるけど?
「そう。普通の生き物とは違います。
しかし、一つの宇宙に管理者は、一人だけ。新たに管理者が生まれると、管理権限と全知全能が新しい管理者に移ります。
存在としては、ほぼ全知全能ですが、新たな管理者次第で、上書きされたり、変更されたりすることを認識さえできない」
ほぼ全知全能。なんだそりゃ。新たな管理者はどこの誰なんだ?そいつが俺に不運を与えたってことなのか?
「おそらく、そう。新たな管理者があなたに不運を与えたのでしょう。目的も理由もわかりませんが」
それでは、結局、何にもわかっていないのとほとんど同じだ。
「手厳しいですね。しかし正しい認識です。それに、もう私には、分かることがない。
こうしてあなたに話しかけることも最後です。
今もいつ途切れてもおかしくないくらい、私は、不安定な状態なのです」
じゃあ、アスチを訪ねたり、前の女神様の館を訪ねることももう無意味なのか。どうしたらいいんだろう。なんの手がかりもない。
「それそれ。それです。それについて伝えたかったのです。
むしろ、ガナードにいる異次元のAIトトに現状を聞いてほしいのです。
もう私には、直接それをする力も時間もないのです」
そんなに弱っているってこと?
「残念ながら、そうです。この後というか、今にも私は、消滅しそうです。
先程、カンカラカンを人類として、転生させてあなたの元に送りました」
カンカラカンを俺のもとに?!
あぁ、あの空から落ちてきた光のことかな。
「その通りです。
ガナードに戻り、もう一度エレムとしてカンカラカンと旅をしなさい。
異次元のAIトトが何かを教えてくれるはずです。今となっては、他の宇宙との交流を束ねているトトのほうが状況をよく知っているでしょう」
カンカラカンを転生!?ドラゴンを人類に?!とんでもない力を秘めていそうだ。
「いえ、ほぼ無力な人類です。もう特別な力をカンカラカンに与えることが、私にはできなかった」
無力で転生なんて、過酷すぎる。
魔獣が支配するガナードで、魔法を使っても、まだまだ最弱の底辺の生き物、それが人類だ。
「そうですよね。だから守って、助けてやってほしいのです。今できる限りの助言をするので」
え?俺が助ける?この不運な俺が?俺が殺してしまったカンカラカンを?
カンカラカンを助けるも何も、そう言えば、隕石は?どうなるの?
「隕石は、今の軌道だとこの星に来ます。
11体のドラゴンでは、隕石の危機を回避できません。
何より幸運を失ったのが大きいです。このままだとこの星は、粉砕されます。
でもそれは、少し先、50年後のこと。実際には、もうそんな先のことまで私には、見えません」
もう隕石の衝突は、避けられないのね。
「今のところ避けられません。
そうは言っても、今死んでしまったあなたにとって、数十年後なんて遠すぎる未来です。
今消えてなくなる私にとっても、あまりに遠い。
助言は、もっと目先のことです」
確かにそうだ。
そうはいっても、今にも消えそうで全知全能を失った女神様の助言、あてになるのかな。
「あてになるのは、半分くらいかもしれませんね。。。もう私には、力も時間もないのです」
もはやこれは、女神様からの遺言じゃないか。
聞かないよりは聞いた方がいいに決まっている。
「そうですね。無いよりマシ、それくらいの気持ちでいてください」
女神様とは思えないほど、自信なさげだ。
実際、女神様の身体が透けてきている気がする。
「ごめんなさい。何も言えずに消えるより、何か一つ伝えておきたい気持ちだけなのです」
そんな最期の瞬間に俺を助けてくれるなんて。なんてありがたい。
「ありがとうございます。
では、お伝えします」
こちらこそ、ありがとうございます。
「まず、あなたをエレムとしてガナードに復活させます。
3体のゴーレムは本来あなたには過剰ですが、そのまま使えるようにしておきます。
危険なので、くれぐれも3体以上に増やそうとしないこと。
1体が崩れたら、余剰の魂があなたに戻ります。また、新しくゴーレムを出せるでしょう。
でも、3体ゴーレムを出しているときは、自分の魂を3倍使って消耗していることを忘れないで」
そんなに危険な魔法だったのか、ゴレゴレム。
でも、魂を3倍消耗するっていうのは、どういうことなんだろう。
寿命が3分の1になるってこと?それとも3倍経験が積める?もしくはダメージが3倍とか?
「魂は、そんなに単純なことではありません。人類には理解できない領域でしたね」
そうか、やっぱり本当に難しい魔法なんだな。
でも、エレムとして復活できるなんて、そんなありがたいことが。
「そう思ってもらえるなら、私の助言を聞き、守ってくださいね」
は、はい。
「よろしい。
次にカンカラカンを守り、彼女の希望を叶えてください。彼女と約束してしまったので」
なんだろう。カンカラカンの希望って。どんな約束を?女神様がカンカラカンにした約束を果たす責任を、俺が引き受けるってこと?きっと大変な約束なんでしょう?そんな無責任な!ご無体な!
「最後に、あなたのゴーレムを1体、ゾゾに預けるといいでしょう。そして、トトを訪ねるのです」
カンカラカンの希望についての疑問は、スルーなのね。
怪しい。
俺には、わかる。
元の世界で会社に勤めていた時のことを思い出す。退職する同僚からの引き継ぎを受けるとき、細かい説明がある部分は、意外と大丈夫だ。
危険なのは、妙に説明が大雑把なところや、質問をはぐらかされるところだ。そういうところが後で炎上するんだ。
「ごめんなさい。もう時間切れなのです。
あなたも次に魂が尽きたら、もう生き返ることはできないでしょう。引き続き精霊たちがあなたを守り助けてくれますが。
とにかく自分の命を大切に、気をつけて」
おお。否定されなかったぞ。いや、謝られた!?また、尻拭いかよ!そんなことばっかりだ。
いや、そんな恩知らずで、不義理な不満を持つのは間違っている。俺は、なんて馬鹿なんだ。こんなだから不運を引き寄せるんだ。
1度ならず2度までも、女神様に命を救ってもらったんだ。
義理を果たすには、充分すぎるほどだ。
それにこの命の恩人である女神様こそ、誰にも救われずに消えようとしている。
しっかりと女神様の目を見る。女神様もまっすぐに俺を見つめる。
できる限りやる。いや、必ず、希望を叶える。
女神様、ありがとうございます。何度も助けてくれて!本当に!
「こちらこそ、ありがとうございます。あなたに幸運があることを祈ります」
スーッと女神様が微笑みながら消えてしまった。
本当に消滅してしまった、ということなのだろうか。
どうしたらいいんだ。このまま目覚めても、何も、何も進展していないぞ。
ただ、夢から覚めたように、目を開けるだけ。
いや、それでもこのまま死ぬよりいい。
そうだ。
もう一度、希望に向かって進んでいこう。
上も下も真っ白い、あの場所にいた。13年前、元の世界にいた時に交通事故で死んだ後で来た場所だ。
でも、どうして?
おかしいな。なんでだろう?
そうだ。
さっきまで海辺の砂浜にいたのに。カリンの温かくて柔らかい胸に顔を埋めていたのに。
もしかしたら、あのあとカリンといい感じになれたかもしれないのに。いや、俺にそんな甲斐性があるだろうか。
なかったな。
不運な俺がカリンを幸せになど、できるはずもない。
1人で立ち尽くしている。
それにしても石のように身体が重い。
あれ?
ふと自分の身体を見ると、石の塊になっている。
なんと、石のゴーレムの姿になっていた。
え!?
なんてこった!本当に重たくなっている!
そうか、俺は今、ゴーレムなんだなと、意外にもすんなり納得できた。
でも、どういうことだ?
死んだのかな。魔力を使い過ぎたせいで?まさかファイポで死んだのか?そんなはずはない。。。
いや、きっと死んでるな。これは。
青信号だからと言って、安全な訳じゃない、と肝に命じていたのに。また油断してしまった。
そうは言っても急すぎる。
終わりがあまりに唐突すぎる。
でも、幸せな人生だった。そう思えるのが、前死んだ時と違うな。
温かい家庭に生まれ、素晴らしい人に囲まれ、希望に満ちた13年だった。
まだまだ希望を追い求めたかったけど。
そうか。
終わりか。
未達のことばかり残っているから、未練はある。
でも、日々最大限やりきって生きた。晴れ晴れとした気持ちもある。
エレムとしても、俺は、よく頑張ったな。
元の世界のユウマより、少しは成長できた。それが微々たるものでも。
ふと気づくと、目の前にあの女神様がいた。
「ユウマ、久しぶりです」
ぼうっと女神様を見上げる。なんと言うか、返事するほど気持ちを整理できない。
「聞こえていますよね?」
はっきりと聞こえている。
ああ、そうだ、返事をしないと。
あれ?
ダメだ心と身体が連動しない。どうやって声を出していたのか思い出せない。
「はい、こんにちは。大丈夫ですよ。あなたの心の声がはっきり聞こえます。いきなりここに来たから、びっくりしているでしょう?」
はい。戸惑いしかありません。
やっぱり心の中が読めるんだな、女神様は。
「ゴーレムには、話す機能がないですからね。でも、言葉を認識することはできるはずです。できるだけ力を温存するために節約して、ここでのあなたの姿をゴーレムにしました」
そうか、俺は、今ゴーレムだった。
「そうそう。その通りです」
それで、やっぱり俺は、死んだのかな。
「死にました。
魂の魔法は、エレムの身体には負荷が大き過ぎました。1体にしておけば、精霊の助けでなんとかなっていたのですが。
無理に3体目まで出した時点で、あなたの魂は燃え尽きてしまった。実験失敗ですね。まぁ、不運な事故とも言えます」
事故。またか、俺は事故で死んだんだな。
今回は、自業自得の事故だけど。
ゴレゴレムが死ぬほどの危険がある魔法だなんて、思いもしなかった。いや、フラザードさんが気をつけろと言ってくれていたか。
あぁ。
ちゃんとフラザードさんの助言を聞けばよかった。
なんで、こうなったんだろう?
そうだ、自分にしかゴレゴレムが使えないことが嬉しくて
、舞い上がって、得意になりすぎたんだ。それで慎重さを欠いた。
あぁ、なんて馬鹿なことを。愚かな自分が恥ずかしい。
でも、ゴレゴレムの後、しばらく意識があったよな。なんでだろう。
「魂があまりに急になくなったので、身体が少しだけ生きていたんでしょう。ほんの少しのことですが」
あぁ。そうなのか。
でも、最期にカリンと話せて、よかった。
それにしても、無謀な実験に迂闊に手を出してしまったな。
「今度から新しい魔法を試すときは、もっと慎重にね。
魂を3つも出すのは、人類の身体に耐えられるわけがありません。1つだって人類には無理でしょう。ゴレゴレムは、自分の命を分け与える魔法なのですから」
油断していたな。自分の魂を分け与える?よくわからないけど、確かに危険そうだ。魔力のさじ加減で命を失うほど危険な魔法だったなんて。
「ま、仕方ないことです。知らないことに挑戦すれば、失敗することを避けることはできません。
失敗して、次に活かすしかないのです」
次や今度が俺にあれば、ね。
その次というやつが、俺にないのが問題だ。もう死んでしまったのだから。
「そう、次があれば。
ユウマ、聞きなさい。これから大切なことを伝えます。
あなたには、まだ次があるからここにいるのです」
次が、ある!そうなのか!
もう一度、希望が与えられるということか。なんてありがたいことなんだ。
「そう。あなたには、次がある。
今回も私が想定していなかったことがたくさん起きました」
でも、そもそも多分死ぬことはないとか、言われてたのにな。多分と言う言葉、ハズレの方を引いちゃったのかな。やっぱり不運だ。
「そう。私も多分、あなたが死ぬことはない、大丈夫と思っていました。
しかし、あなたの不運が私の予想をはるかに超えていたのです」
また女神様の想定を超えてしまったのか。一体なぜ?そんな不運が俺に?
「一つ分かったことがあります」
お!それ!それを聞きたい!なにか希望に繋がるヒントを!
「いやいや、あまり期待しないで。
いいお知らせじゃないのです。
それは、どうやら私は、世界の管理者でなくなったということです。
だから、予想できないことが起こり始めた」
え?どういうこと?充分、神様のように見えるけど?
「そう。普通の生き物とは違います。
しかし、一つの宇宙に管理者は、一人だけ。新たに管理者が生まれると、管理権限と全知全能が新しい管理者に移ります。
存在としては、ほぼ全知全能ですが、新たな管理者次第で、上書きされたり、変更されたりすることを認識さえできない」
ほぼ全知全能。なんだそりゃ。新たな管理者はどこの誰なんだ?そいつが俺に不運を与えたってことなのか?
「おそらく、そう。新たな管理者があなたに不運を与えたのでしょう。目的も理由もわかりませんが」
それでは、結局、何にもわかっていないのとほとんど同じだ。
「手厳しいですね。しかし正しい認識です。それに、もう私には、分かることがない。
こうしてあなたに話しかけることも最後です。
今もいつ途切れてもおかしくないくらい、私は、不安定な状態なのです」
じゃあ、アスチを訪ねたり、前の女神様の館を訪ねることももう無意味なのか。どうしたらいいんだろう。なんの手がかりもない。
「それそれ。それです。それについて伝えたかったのです。
むしろ、ガナードにいる異次元のAIトトに現状を聞いてほしいのです。
もう私には、直接それをする力も時間もないのです」
そんなに弱っているってこと?
「残念ながら、そうです。この後というか、今にも私は、消滅しそうです。
先程、カンカラカンを人類として、転生させてあなたの元に送りました」
カンカラカンを俺のもとに?!
あぁ、あの空から落ちてきた光のことかな。
「その通りです。
ガナードに戻り、もう一度エレムとしてカンカラカンと旅をしなさい。
異次元のAIトトが何かを教えてくれるはずです。今となっては、他の宇宙との交流を束ねているトトのほうが状況をよく知っているでしょう」
カンカラカンを転生!?ドラゴンを人類に?!とんでもない力を秘めていそうだ。
「いえ、ほぼ無力な人類です。もう特別な力をカンカラカンに与えることが、私にはできなかった」
無力で転生なんて、過酷すぎる。
魔獣が支配するガナードで、魔法を使っても、まだまだ最弱の底辺の生き物、それが人類だ。
「そうですよね。だから守って、助けてやってほしいのです。今できる限りの助言をするので」
え?俺が助ける?この不運な俺が?俺が殺してしまったカンカラカンを?
カンカラカンを助けるも何も、そう言えば、隕石は?どうなるの?
「隕石は、今の軌道だとこの星に来ます。
11体のドラゴンでは、隕石の危機を回避できません。
何より幸運を失ったのが大きいです。このままだとこの星は、粉砕されます。
でもそれは、少し先、50年後のこと。実際には、もうそんな先のことまで私には、見えません」
もう隕石の衝突は、避けられないのね。
「今のところ避けられません。
そうは言っても、今死んでしまったあなたにとって、数十年後なんて遠すぎる未来です。
今消えてなくなる私にとっても、あまりに遠い。
助言は、もっと目先のことです」
確かにそうだ。
そうはいっても、今にも消えそうで全知全能を失った女神様の助言、あてになるのかな。
「あてになるのは、半分くらいかもしれませんね。。。もう私には、力も時間もないのです」
もはやこれは、女神様からの遺言じゃないか。
聞かないよりは聞いた方がいいに決まっている。
「そうですね。無いよりマシ、それくらいの気持ちでいてください」
女神様とは思えないほど、自信なさげだ。
実際、女神様の身体が透けてきている気がする。
「ごめんなさい。何も言えずに消えるより、何か一つ伝えておきたい気持ちだけなのです」
そんな最期の瞬間に俺を助けてくれるなんて。なんてありがたい。
「ありがとうございます。
では、お伝えします」
こちらこそ、ありがとうございます。
「まず、あなたをエレムとしてガナードに復活させます。
3体のゴーレムは本来あなたには過剰ですが、そのまま使えるようにしておきます。
危険なので、くれぐれも3体以上に増やそうとしないこと。
1体が崩れたら、余剰の魂があなたに戻ります。また、新しくゴーレムを出せるでしょう。
でも、3体ゴーレムを出しているときは、自分の魂を3倍使って消耗していることを忘れないで」
そんなに危険な魔法だったのか、ゴレゴレム。
でも、魂を3倍消耗するっていうのは、どういうことなんだろう。
寿命が3分の1になるってこと?それとも3倍経験が積める?もしくはダメージが3倍とか?
「魂は、そんなに単純なことではありません。人類には理解できない領域でしたね」
そうか、やっぱり本当に難しい魔法なんだな。
でも、エレムとして復活できるなんて、そんなありがたいことが。
「そう思ってもらえるなら、私の助言を聞き、守ってくださいね」
は、はい。
「よろしい。
次にカンカラカンを守り、彼女の希望を叶えてください。彼女と約束してしまったので」
なんだろう。カンカラカンの希望って。どんな約束を?女神様がカンカラカンにした約束を果たす責任を、俺が引き受けるってこと?きっと大変な約束なんでしょう?そんな無責任な!ご無体な!
「最後に、あなたのゴーレムを1体、ゾゾに預けるといいでしょう。そして、トトを訪ねるのです」
カンカラカンの希望についての疑問は、スルーなのね。
怪しい。
俺には、わかる。
元の世界で会社に勤めていた時のことを思い出す。退職する同僚からの引き継ぎを受けるとき、細かい説明がある部分は、意外と大丈夫だ。
危険なのは、妙に説明が大雑把なところや、質問をはぐらかされるところだ。そういうところが後で炎上するんだ。
「ごめんなさい。もう時間切れなのです。
あなたも次に魂が尽きたら、もう生き返ることはできないでしょう。引き続き精霊たちがあなたを守り助けてくれますが。
とにかく自分の命を大切に、気をつけて」
おお。否定されなかったぞ。いや、謝られた!?また、尻拭いかよ!そんなことばっかりだ。
いや、そんな恩知らずで、不義理な不満を持つのは間違っている。俺は、なんて馬鹿なんだ。こんなだから不運を引き寄せるんだ。
1度ならず2度までも、女神様に命を救ってもらったんだ。
義理を果たすには、充分すぎるほどだ。
それにこの命の恩人である女神様こそ、誰にも救われずに消えようとしている。
しっかりと女神様の目を見る。女神様もまっすぐに俺を見つめる。
できる限りやる。いや、必ず、希望を叶える。
女神様、ありがとうございます。何度も助けてくれて!本当に!
「こちらこそ、ありがとうございます。あなたに幸運があることを祈ります」
スーッと女神様が微笑みながら消えてしまった。
本当に消滅してしまった、ということなのだろうか。
どうしたらいいんだ。このまま目覚めても、何も、何も進展していないぞ。
ただ、夢から覚めたように、目を開けるだけ。
いや、それでもこのまま死ぬよりいい。
そうだ。
もう一度、希望に向かって進んでいこう。
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