キスで隷属化するFPSの異世界転生化〜生身がほしいAI美女からモテまくる!?〜

山本いちじく

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バーンナウトシティ

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 バーンナウトシティに着く直前、ユウマのHUDが震えた。未読メッセージ――差出人:フィーン。

 ヘマをした。地上の星、やつらは――

 そこで通信は切れていた。ノイズの向こうで何かが吹き荒れる音が混じる。ユウマの背に、いやな予感が冷たく這った。

 街の境を越えると、空気が鋭く変わった。煤けた匂い、薄い黒煙。路地の影には目つきの悪い鬼たちが群れ、笑顔は牙の刃のように光る。秩序は薄く、暴力が素早く通る土地だと肌が教えた。

「……いやな街ね」
 シルフィが低く呟く。額の光が揺れ、ハッキング解析のインターフェースが目の前に広がる。データの糸がビルの隙間へと伸び、光の脈を追う。

「フィーンの居場所を探す」
 路地を縫うように、二人は梯子を上り下りし、階段をくぐり、あらゆる痕跡を追いかけた。ハッキング解析がなければ見つけられない細道を幾つも抜けた先、誰の目にも留まらない鉄扉が現れる。

「ここだよ」
 シルフィの声には緊張が混じる。「でもおかしい。セキュリティが壊されてる。解析では一時間前に異常が起きてる」

「フィーンに何かあったのか?」
「今は誰もいないみたい」

 扉を開けると、室内は荒れていた。家具はひっくり返り、引き出しは空になり、書類がばらまかれている。
 戦った痕跡が生々しく残る。血の匂いもあり、戦闘の“気配”が濃かった。

「こ、これは……!」
 ユウマが床の隅に視線を落とす。漆黒の長銃が一丁だけ無造作に転がっていた。本来なら二丁セットのマグナ=ヘリクス。フィーンの専用武器だ。レジェンダリー武器が無造作に床に転がる光景は、見慣れたものではない。

「ここにフィーンはいた。片方のマグナ=ヘリクスを置いて消えた。発砲の痕はある……でも、誰相手に撃った?」

 銃身の先端に残る焼け跡に、ユウマは指を触れた。弾薬のにおいがかすかに立つ。

 シルフィがHUDを拡大する。表示が、いつになく乱れている。
「その嘘、本当?……この隠れ家、私たち以外の侵入ログがない」
「そんなバカな」
「AIの監視下にあるはずの場所で、解析できない異常が起きている」

 空間が微かなノイズを帯び、データの継ぎ目が歪んで見えた。誰かがAIの視界そのものを食い破ったかのようだ。

「フィーンは隷属進化しているのに、リンク反応がない。ガンゲノムシティのシュナでも、場所ぐらいは掴めるのに……」
 ユウマの声は低かった。不可解さが、重く沈み込む。

 部屋にはユウマのインナーが落ちていた。擦り切れて、引き裂かれてボロボロになっている。心なしか、時間が経った汗の匂いがした。フィーンの赤い縮毛がついていた。

「自慰の時に嗅ぐとかいってたな」
「え?なに?ユウマなんか言った?」
「いや、なんでもない」

 シルフィが床を指先でなぞると、赤い繊維が光った。一本。細く、鮮烈な赤。

「ユウマ、これ……」
 彼が拾い上げると、指先で転がったそれは獣の毛だった。硬く、赤い。血の色のように光る毛。

「これは……!」
 ユウマの目が見開かれる。声が掠れる。
「赤い熊鬼の毛だ!」

 シルフィの表情が一瞬で引き締まる。赤い熊鬼――

 途切れたメッセージの言葉が胸に響く。

――ヘマをした。地上の星、やつらは――

 地上の星とはいったい?!赤い熊鬼とも関係しているのか?

 ユウマはマグナ=ヘリクスをボロ布のようなインナーで巻いて無言で抱えた。そして、インベントリに大切にしまう。

「ロビーに行こう、シルフィ」
「うん。手掛かりを増やさないと」

 ロビーに戻ると、空気はさらに悪化していた。ゴロツキどもが蠢き、声が濁る。
 
 群れの中に、一際でかい鬼が笑いながら近づいてきた。目つきは狡猾で、肌は戦いの瘢痕で覆われている。

「おいおい、デフォルトM4かよ。フルオートなしかよ。素人の香りがするぜ。お前、ランクはなんだ?」
 群がる声が野次に変わる。

「俺はユウマ。Bだが、何か?」
 ユウマは平然と名乗る。だが嘲笑が波紋のように広がる。

「ぶ!Bだって?! みんな、こいつBらしいぜ!」
 下品な笑いがこだまする。やがて大鬼がシルフィに目を向け、手を伸ばした。

「ちょっとこっちこいよ、可愛い嬢ちゃん。Sランクの俺の方が遥かにつよいぜ」

 近接加速!

 その瞬間、ユウマは素早く大男の背後に回り込み、M4の銃口を男の背中に押し当てる。動作は速く、無駄がない。

「下品でも、名前くらい名乗りな」

「おおお、やるじゃねえか。悪かったよ、俺はゲイルだ。悪気はねえって」

「その嘘、本当?」

 シルフィがゲイルを睨みつける。

 大鬼は笑いを作って引き下がるが、挑発は続く。

「私はシルフィよ。ユウマに失礼なことを言ったら、次は殺す」

 低く、冷たい声が割り込む。――静かに、しかし確かに怒りを帯びた眼差し。

「そう簡単に怒るなよ。ここにはSクラス級の猛者ばかりがうろついてる。Sランク限定のチームバトルロワイヤルでやり合おうぜ。出会うまで生きてたら相手してやるよ」

 ゲイルは仲間と笑い合い、背を向けて去った。だが残された空気は針のように冷たい。
 
 この分だと、酒場で情報収集も難しい。まずはバトルロワイヤルで名を挙げるか。
 フィーンの失踪が気になる。
 フィーンのことだ、命に危険があるとは
思わない。でも、心配だ。
 今はなんの手がかりもない。

 ユウマとシルフィは2人チームでバトルロワイヤルに参加することにした。
 フリークラスのバトルロワイヤルのランクマッチは、スキルの使用が許される。
 Sランク限定のバトルロワイヤルは、スキル無効のルールだった。
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