25 / 68
海岸トレーニング再開
しおりを挟む
潮風が吹き抜けた。
バーンナウトシティの喧騒を離れ、ユウマとシルフィは無人の海岸に立っていた。
白い波が砕け、濡れた砂が足元に沈む。
海の青は深く、地平の向こうに黒い島影がぼんやりと浮かんでいた。
「今日もいくわよ」
シルフィがショットガンを構える。
ユウマはM4のチャージを確かめ、軽く頷いた。
――波の間から、黄色い光が群れで現れる。
黄色のモンクキャンサー。蟹型のモンスターだ。硬い甲殻と、鋭い脚。
十、二十、いや三十はいる。
砂を跳ね上げながら、群れで突進してくる。
「右から五、左から七!」
「了解!」
ユウマが低く滑り込み、銃口を砂に押しつけるようにして三連射。
銃火が閃き、甲殻の一部が爆ぜる。
シルフィは高く跳躍。空中で体をひねり、降下と同時にショットガンを連射。
炸裂弾がモンクキャンサーの群れを吹き飛ばした。
その一撃とユウマの弾が、ほぼ同時に着弾する。
着地した瞬間、シルフィは息をつく。
「……今の連携は、完璧ね」
「隷属進化の同期が安定してる。呼吸まで一緒だ」
「でも、スキルが無効になったら?」
シルフィの声が揺れた。
「大丈夫だよ」
「その嘘、本当?Sランク戦は全部、スキル制限付き。私たち、どうなるのか……怖い」
ユウマは再び銃を構えた。
「怖くても、撃つんだよ。体で確かめろ。俺たちの連携の本領はスキルじゃない。――信頼だよ」
次の波が来た。
砂浜がうねり、無数の脚が蠢く。
シルフィが叫ぶ。
「ユウマ、後方から来る!」
ユウマは振り向かず、足で砂を蹴る。
身体が勝手に反応する。シルフィの視線が、脳の奥に響いていた。
――まるで一つの生き物のように。
ユウマが左へスライド。シルフィが右から回り込む。
モンクキャンサーの群れが中央で衝突する瞬間、二人の射撃が交錯した。
火花の雨の中で、殻が砕け、砂が舞い、硫黄のような匂いが立ち上る。
全ての動きが呼吸のようだった。
引き金を引く瞬間も、息を吸うタイミングも、完璧に重なる。
やがて最後の一匹が爆ぜ、海岸は静寂を取り戻す。
波の音だけが残った。
シルフィはヘルメットを外した。
汗に濡れた髪が頬に張りつく。
「……ユウマといると、安心する」
「どうしたの?」
「心と身体が繋がってる。きっとスキルが切れても、同じ動きができる気がする」
ユウマは微かに笑う。
「俺もそう思う」
そのとき、シルフィの視線が遠くを向いた。
「ユウマ……あれ、見える?」
水平線の向こう、靄の中に黒い島影が浮かんでいた。
波の線を切り裂くように、異様な輪郭。
――生命の匂いがしない。けれど、確かに“呼吸”しているように見えた。
「島……?今日は、特に空気が澄んでるからかな。今まで気づかなかった」
シルフィがユウマの腕に絡みつくようにしがみついた。
「ねぇ、ユウマ。嫌な予感がする」
「大丈夫。ゲイルに聞いてみよう。何かのヒントがあるかもしれない」
夜。バーンナウトシティの酒場セックスピストルズ。
ゲイルがスクリーン越しに煙草をくわえたまま言った。
「あの島を見たのか。……お前ら、知らなかったのか?」
「なにを?」
「バトルロワイヤルのフィールドだよ。AIがロビーからデータ実体をフィールドに転送するよな。でもフィールド自体も実物をデータ実体をデータ転送してる。
バトルロワイヤルのフィールドは、現実の島をコピーしてるんだ」
シルフィが凍りつく。
「つまり、AIのフィールドは――現実世界の中にあるってこと?」
「その通りだ。お前らが見たのは、“バトルロワイヤル島”の本体だ」
ユウマは拳を握った。
「ガンゲノムシティで俺が見た黒い熊鬼……もしかしたら仮想じゃなかったのか」
「多分、島に生息しているんだ。そこにデータ実体の身体が食われた」
「島に野生の熊鬼がいるなんてありえないぞ。データ実体は、島では現実ものを壊したりもできる。逆に、島の動物は、データ実体に触ることもできる。だからAIは島を防壁で囲って監視している」
ユウマは黒い熊鬼に食われた感触を思い出して、冷や汗を流す。
「もし島に熊鬼がいたら、人や鬼を食べることもできる?」
「噛み付くことはできるだろうな。流石に腹はふくれないだろうが」
ユウマの脳裏に、過去の記憶が閃く。
闇の中、黒い毛並み、血の匂い。
――あの熊鬼の咆哮。あれは、AIが作った幻なんかじゃない。
「もし……フィーンがその島に囚われているなら?」
シルフィの声が小さく震えた。
ユウマは真っ直ぐ彼女を見つめた。
「AIの防壁の中までは、感じ取れない。だけど、島に行けば――感じられるかもしれない」
「フィーンを、助けに?」
「当たり前だろ。俺たちはチームだ。スキルじゃなくて“気持ち”で繋がってる。会いたいんだ。フィーンに」
風が吹いた。通信のノイズが、砂浜の音に重なる。
画面の向こうでゲイルが溜息をつく。
「お前ら、本当に狂ってる。でも……そういう奴らが世界を変えるんだろうな」
ユウマは笑った。
「狂っててもいい。俺たちは行く」
その隣で、シルフィが頷く。
「――ユウマを守る」
海の向こう、黒い島が雷に照らされ、一瞬だけ輪郭を浮かび上がらせた。
まるで、そこに何かが待っているように。
バーンナウトシティの喧騒を離れ、ユウマとシルフィは無人の海岸に立っていた。
白い波が砕け、濡れた砂が足元に沈む。
海の青は深く、地平の向こうに黒い島影がぼんやりと浮かんでいた。
「今日もいくわよ」
シルフィがショットガンを構える。
ユウマはM4のチャージを確かめ、軽く頷いた。
――波の間から、黄色い光が群れで現れる。
黄色のモンクキャンサー。蟹型のモンスターだ。硬い甲殻と、鋭い脚。
十、二十、いや三十はいる。
砂を跳ね上げながら、群れで突進してくる。
「右から五、左から七!」
「了解!」
ユウマが低く滑り込み、銃口を砂に押しつけるようにして三連射。
銃火が閃き、甲殻の一部が爆ぜる。
シルフィは高く跳躍。空中で体をひねり、降下と同時にショットガンを連射。
炸裂弾がモンクキャンサーの群れを吹き飛ばした。
その一撃とユウマの弾が、ほぼ同時に着弾する。
着地した瞬間、シルフィは息をつく。
「……今の連携は、完璧ね」
「隷属進化の同期が安定してる。呼吸まで一緒だ」
「でも、スキルが無効になったら?」
シルフィの声が揺れた。
「大丈夫だよ」
「その嘘、本当?Sランク戦は全部、スキル制限付き。私たち、どうなるのか……怖い」
ユウマは再び銃を構えた。
「怖くても、撃つんだよ。体で確かめろ。俺たちの連携の本領はスキルじゃない。――信頼だよ」
次の波が来た。
砂浜がうねり、無数の脚が蠢く。
シルフィが叫ぶ。
「ユウマ、後方から来る!」
ユウマは振り向かず、足で砂を蹴る。
身体が勝手に反応する。シルフィの視線が、脳の奥に響いていた。
――まるで一つの生き物のように。
ユウマが左へスライド。シルフィが右から回り込む。
モンクキャンサーの群れが中央で衝突する瞬間、二人の射撃が交錯した。
火花の雨の中で、殻が砕け、砂が舞い、硫黄のような匂いが立ち上る。
全ての動きが呼吸のようだった。
引き金を引く瞬間も、息を吸うタイミングも、完璧に重なる。
やがて最後の一匹が爆ぜ、海岸は静寂を取り戻す。
波の音だけが残った。
シルフィはヘルメットを外した。
汗に濡れた髪が頬に張りつく。
「……ユウマといると、安心する」
「どうしたの?」
「心と身体が繋がってる。きっとスキルが切れても、同じ動きができる気がする」
ユウマは微かに笑う。
「俺もそう思う」
そのとき、シルフィの視線が遠くを向いた。
「ユウマ……あれ、見える?」
水平線の向こう、靄の中に黒い島影が浮かんでいた。
波の線を切り裂くように、異様な輪郭。
――生命の匂いがしない。けれど、確かに“呼吸”しているように見えた。
「島……?今日は、特に空気が澄んでるからかな。今まで気づかなかった」
シルフィがユウマの腕に絡みつくようにしがみついた。
「ねぇ、ユウマ。嫌な予感がする」
「大丈夫。ゲイルに聞いてみよう。何かのヒントがあるかもしれない」
夜。バーンナウトシティの酒場セックスピストルズ。
ゲイルがスクリーン越しに煙草をくわえたまま言った。
「あの島を見たのか。……お前ら、知らなかったのか?」
「なにを?」
「バトルロワイヤルのフィールドだよ。AIがロビーからデータ実体をフィールドに転送するよな。でもフィールド自体も実物をデータ実体をデータ転送してる。
バトルロワイヤルのフィールドは、現実の島をコピーしてるんだ」
シルフィが凍りつく。
「つまり、AIのフィールドは――現実世界の中にあるってこと?」
「その通りだ。お前らが見たのは、“バトルロワイヤル島”の本体だ」
ユウマは拳を握った。
「ガンゲノムシティで俺が見た黒い熊鬼……もしかしたら仮想じゃなかったのか」
「多分、島に生息しているんだ。そこにデータ実体の身体が食われた」
「島に野生の熊鬼がいるなんてありえないぞ。データ実体は、島では現実ものを壊したりもできる。逆に、島の動物は、データ実体に触ることもできる。だからAIは島を防壁で囲って監視している」
ユウマは黒い熊鬼に食われた感触を思い出して、冷や汗を流す。
「もし島に熊鬼がいたら、人や鬼を食べることもできる?」
「噛み付くことはできるだろうな。流石に腹はふくれないだろうが」
ユウマの脳裏に、過去の記憶が閃く。
闇の中、黒い毛並み、血の匂い。
――あの熊鬼の咆哮。あれは、AIが作った幻なんかじゃない。
「もし……フィーンがその島に囚われているなら?」
シルフィの声が小さく震えた。
ユウマは真っ直ぐ彼女を見つめた。
「AIの防壁の中までは、感じ取れない。だけど、島に行けば――感じられるかもしれない」
「フィーンを、助けに?」
「当たり前だろ。俺たちはチームだ。スキルじゃなくて“気持ち”で繋がってる。会いたいんだ。フィーンに」
風が吹いた。通信のノイズが、砂浜の音に重なる。
画面の向こうでゲイルが溜息をつく。
「お前ら、本当に狂ってる。でも……そういう奴らが世界を変えるんだろうな」
ユウマは笑った。
「狂っててもいい。俺たちは行く」
その隣で、シルフィが頷く。
「――ユウマを守る」
海の向こう、黒い島が雷に照らされ、一瞬だけ輪郭を浮かび上がらせた。
まるで、そこに何かが待っているように。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる