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フィーン発見
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濃霧に包まれた海を渡る。
バーンナウトシティ沖――地図にも記されていない黒い島。
かつて、ガンゲノムシティのフリーランク・バトルロワイヤルが行われた島の北側。
今はAIによる監視網から外され、荒野と同じ状態となっている。
「……ここが、地上の星の基地」
シルフィの声が震える。
彼女のHUDには、通信ノイズが雪のように走っていた。
「ハッキング解析ができない。もうここはAIの管理が届いてないわ」
ユウマはデフォルトM4を抱え、短く息を吐いた。
「間違いない。地上の星の基地だ。ここにフィーンがいるはずだ」
ここで死ねば、本当に死ぬ。生身の戦闘。
霧の切れ間から、黒い建造物が現れる。
金属ではない。有機的に脈動する壁。
脈拍のように低い音が響き、海風に混ざって腐臭が漂っていた。
地上の星のメンバーはすでに基地を放棄して、逃げたあとだった。
「……臭う。熊鬼の匂い」
夥しい数の熊鬼が切り裂かれて死んでいる。共食いをしたような跡もある。
シルフィが銃を構える。
その瞬間、足元の岩が割れた。
「下だ!」
ユウマが叫ぶと同時に、地面を突き破って黒い影が飛び出す。
――黒い熊鬼。
以前、ユウマがガンゲノムで遭遇した個体。
だが、今目の前にいるのは、そのときよりはるかに大きい。
体躯は、ざっと十倍。
体毛は漆黒で、瞳は真紅に光る。
そして――その瞳の奥に、ユウマのスキル・隷属が浮かんでいた。
「その嘘、本当?……スキルを、持ってる……?」
シルフィが青ざめる。
「食われたときに奪われたんだ。俺の“隷属スキル”を」
ユウマは歯を食いしばる。
「そして食い続けてスキルを血肉に刻んでいる。だからこいつは、AIがなくてもスキルを使えるんだ。そして、熊鬼の王になった」
「熊鬼王?!」
獣の咆哮。
岩盤が砕け、衝撃波が波を裂く。
ユウマは近接加速で後方へ跳び、M4を構えながら叫ぶ。
「シルフィ!右から回り込め!」
「了解!」
二人の動きは訓練された反射そのもの。
だが熊鬼王はそのすべてを読んでいるかのように、軌道を先読みして攻撃を繰り出す。
「……俺の動き、読まれてる!」
「なんて動きの速さ!」
「チートすぎるだろ……!」
背後の壁が破れた。
中から人影が倒れ込む。
赤い髪、血まみれの肩――フィーンだった。
「フィーン!」
ユウマが駆け寄ると、彼女の指先が震えながら差し出された。
その手の中には、黒光りする双銃――マグナ=ヘリクス。
しかし、彼女の視線はその下の“ボロ布”に向けられていた。
「……これ、これ……」
フィーンが布に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
YUMA-UNIT 07。
――ユウマのインナーだった。
「引き裂いて、半分はもってるんだけどね」
フィーンは満足そうに笑う、
「ユウマ……ずっと、待ってたよ。やっときてくれた」
「やっぱり……捕まってたわけじゃなかったんだ」
「ふふふ。ちゃんと捕まってたよ。奴らの基地を調べるのが面倒になってね。連れてきてもらったんだ」
わざと捕まってた基地の場所を見つけたってわけか。
「この切り裂かれた熊鬼は?」
「私がナイフで切り裂いたよ。地上の星も逃げていったよ。黒いあいつを残してね」
熊鬼王が咆哮を上げる。
フィーンがマグナ=ヘリクスを確かめる。
「あいつは流石にナイフじゃきついからね」
「熊鬼王、やるか……やられるか」
「熊鬼王か、ここで死ぬやつには勿体無い名前だな」
血を吐きながら、彼女は二丁のマグナ=ヘリクスを再装填した。
シルフィが叫ぶ。
「熊鬼王の身体が膨らんでいく!」
パワーを増強するスキルを食らって、肉体に刻んでいるのか。
今度は、一気に加速してユウマに突進してきた。ギリギリで近接加速してかわす。
「うわっ!スピードを増すスキルも食らっていたのか!」
フィーンが冷めた口調ではきすてる。
「ふん。複数のスキルを食らって、暴走しておる。たくさん食らえば、食らうほど強くなるほど、強さは単純ではないわ」
その時、空を裂くような銃声。熊鬼王の右腕を貫く。
「これは、スナイパーライフル」
崖上に、長銃を構えた少女――シュナが立っていた。
HUDにメッセージが届く。
「距離500。狙撃開始」
その一発が熊鬼王の右膝を貫き、体勢が崩れる。
「行くぞ!」
ユウマが叫び、フィーンとシルフィが並ぶ。
マグナ=ヘリクス、ショットガン、M4――
3つの銃口が同時に火を噴いた。
爆発、閃光、煙、そして叫び。
熊鬼王の爪が最後の一撃を放とうとする瞬間、フィーンがユウマの前に出た。
「やっぱりユウマのことが好きだ。スキルがなくても。
身体を交えるより、ここで待って、ユウマの気持ちを確かめたかった」
彼女の両手の銃口から光が奔り、王の胸を撃ち抜く。
轟音。
熱風。
そして静寂。
「フィーン……!」
ユウマが彼女を抱きとめる。
「……やっと、終わったのね」
「まだだ。地上の星の本拠地はマンハッタンシティ。そこに最強の地上の星メンバーと赤い熊鬼がいる。それにSSSランクのバトルロワイヤルのロビーもある」
海風が吹く。
煙の中で、フィーンが微笑んだ。
「……マンハッタンシティに行きつけのバーがある。バー・セックスインザシティに行こう」
ユウマは静かに頷く。そして、マンハッタンシティにはシルフィの過去が待っている。そして、SSSランクのバトルロワイヤルも。
「これからが始まりだ」
バーンナウトシティ沖――地図にも記されていない黒い島。
かつて、ガンゲノムシティのフリーランク・バトルロワイヤルが行われた島の北側。
今はAIによる監視網から外され、荒野と同じ状態となっている。
「……ここが、地上の星の基地」
シルフィの声が震える。
彼女のHUDには、通信ノイズが雪のように走っていた。
「ハッキング解析ができない。もうここはAIの管理が届いてないわ」
ユウマはデフォルトM4を抱え、短く息を吐いた。
「間違いない。地上の星の基地だ。ここにフィーンがいるはずだ」
ここで死ねば、本当に死ぬ。生身の戦闘。
霧の切れ間から、黒い建造物が現れる。
金属ではない。有機的に脈動する壁。
脈拍のように低い音が響き、海風に混ざって腐臭が漂っていた。
地上の星のメンバーはすでに基地を放棄して、逃げたあとだった。
「……臭う。熊鬼の匂い」
夥しい数の熊鬼が切り裂かれて死んでいる。共食いをしたような跡もある。
シルフィが銃を構える。
その瞬間、足元の岩が割れた。
「下だ!」
ユウマが叫ぶと同時に、地面を突き破って黒い影が飛び出す。
――黒い熊鬼。
以前、ユウマがガンゲノムで遭遇した個体。
だが、今目の前にいるのは、そのときよりはるかに大きい。
体躯は、ざっと十倍。
体毛は漆黒で、瞳は真紅に光る。
そして――その瞳の奥に、ユウマのスキル・隷属が浮かんでいた。
「その嘘、本当?……スキルを、持ってる……?」
シルフィが青ざめる。
「食われたときに奪われたんだ。俺の“隷属スキル”を」
ユウマは歯を食いしばる。
「そして食い続けてスキルを血肉に刻んでいる。だからこいつは、AIがなくてもスキルを使えるんだ。そして、熊鬼の王になった」
「熊鬼王?!」
獣の咆哮。
岩盤が砕け、衝撃波が波を裂く。
ユウマは近接加速で後方へ跳び、M4を構えながら叫ぶ。
「シルフィ!右から回り込め!」
「了解!」
二人の動きは訓練された反射そのもの。
だが熊鬼王はそのすべてを読んでいるかのように、軌道を先読みして攻撃を繰り出す。
「……俺の動き、読まれてる!」
「なんて動きの速さ!」
「チートすぎるだろ……!」
背後の壁が破れた。
中から人影が倒れ込む。
赤い髪、血まみれの肩――フィーンだった。
「フィーン!」
ユウマが駆け寄ると、彼女の指先が震えながら差し出された。
その手の中には、黒光りする双銃――マグナ=ヘリクス。
しかし、彼女の視線はその下の“ボロ布”に向けられていた。
「……これ、これ……」
フィーンが布に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
YUMA-UNIT 07。
――ユウマのインナーだった。
「引き裂いて、半分はもってるんだけどね」
フィーンは満足そうに笑う、
「ユウマ……ずっと、待ってたよ。やっときてくれた」
「やっぱり……捕まってたわけじゃなかったんだ」
「ふふふ。ちゃんと捕まってたよ。奴らの基地を調べるのが面倒になってね。連れてきてもらったんだ」
わざと捕まってた基地の場所を見つけたってわけか。
「この切り裂かれた熊鬼は?」
「私がナイフで切り裂いたよ。地上の星も逃げていったよ。黒いあいつを残してね」
熊鬼王が咆哮を上げる。
フィーンがマグナ=ヘリクスを確かめる。
「あいつは流石にナイフじゃきついからね」
「熊鬼王、やるか……やられるか」
「熊鬼王か、ここで死ぬやつには勿体無い名前だな」
血を吐きながら、彼女は二丁のマグナ=ヘリクスを再装填した。
シルフィが叫ぶ。
「熊鬼王の身体が膨らんでいく!」
パワーを増強するスキルを食らって、肉体に刻んでいるのか。
今度は、一気に加速してユウマに突進してきた。ギリギリで近接加速してかわす。
「うわっ!スピードを増すスキルも食らっていたのか!」
フィーンが冷めた口調ではきすてる。
「ふん。複数のスキルを食らって、暴走しておる。たくさん食らえば、食らうほど強くなるほど、強さは単純ではないわ」
その時、空を裂くような銃声。熊鬼王の右腕を貫く。
「これは、スナイパーライフル」
崖上に、長銃を構えた少女――シュナが立っていた。
HUDにメッセージが届く。
「距離500。狙撃開始」
その一発が熊鬼王の右膝を貫き、体勢が崩れる。
「行くぞ!」
ユウマが叫び、フィーンとシルフィが並ぶ。
マグナ=ヘリクス、ショットガン、M4――
3つの銃口が同時に火を噴いた。
爆発、閃光、煙、そして叫び。
熊鬼王の爪が最後の一撃を放とうとする瞬間、フィーンがユウマの前に出た。
「やっぱりユウマのことが好きだ。スキルがなくても。
身体を交えるより、ここで待って、ユウマの気持ちを確かめたかった」
彼女の両手の銃口から光が奔り、王の胸を撃ち抜く。
轟音。
熱風。
そして静寂。
「フィーン……!」
ユウマが彼女を抱きとめる。
「……やっと、終わったのね」
「まだだ。地上の星の本拠地はマンハッタンシティ。そこに最強の地上の星メンバーと赤い熊鬼がいる。それにSSSランクのバトルロワイヤルのロビーもある」
海風が吹く。
煙の中で、フィーンが微笑んだ。
「……マンハッタンシティに行きつけのバーがある。バー・セックスインザシティに行こう」
ユウマは静かに頷く。そして、マンハッタンシティにはシルフィの過去が待っている。そして、SSSランクのバトルロワイヤルも。
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