キスで隷属化するFPSの異世界転生化〜生身がほしいAI美女からモテまくる!?〜

山本いちじく

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ゴムボート

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 夜の船は、静かすぎた。
 波の音が船腹を叩くたび、鉄板が不気味に震える。

 ユウマが眠りかけていたその時、
 “コツ、コツ” と靴先で床を叩く控えめな音がした。

 扉が、最小限の隙間だけ開く。

 ユーノスだった。
 指を口元に当て、ヒソヒソ声で告げる。

「――来て。全員。急いで。」

 呼ばれたのは、ユウマ、フィーン、シュナ、シルフィの四人。
 皆、毛布を羽織ったまま、こっそり廊下に出る。

 薄暗い船室の一角で、ユーノスは声を潜めた。

「ゴッドイーターの……スパイが船にいるわ。」

 フィーンの目が鋭く細まる。
「確証が?」

 ユーノスは頷く。
「親衛隊の暗号が微弱に拾えた。
 この船の誰かが、ずっとゴッドイーターに“位置情報”を送ってる。」

 胸がざわめく。
 シュナが不安げにユウマの袖をつかんだ。

「……じゃあ、マンハッタンについたら……」

「親衛隊の待ち伏せよ。」
 ユーノスはきっぱりと言った。

 その声の静かさが、逆に恐ろしく聞こえる。

「夜のうちにボートで離脱する。
 ゴッドイーターの網にかからない唯一の方法よ。」

 ユウマは決断した。

「行こう。」

 五人は荷物を最小限にまとめ、
 暗い甲板の影を辿りながら、船尾の救命ボートへ向かう。

 夜風が冷たい。
 海の闇は底を知らず、どこまでも黒い。

 フィーンが周囲に目を配り、
 シルフィが端末で短波ノイズを撒き散らし、
 ユーノスが暗号通信の痕跡を探り続ける。

 ――その時。

「……止まって。」

 静かな声が響いた。

 ボートの脇に、一人の影が立っていた。

 銀色の救命ランプが、彼女の顔を照らす。

 ――ローザ。

 医療班の救命医。
 ユウマが負傷した時、真っ先に駆け寄り包帯を巻いてくれた女性。

 優しく、穏やかで、誰にでも笑顔を向けていたはずの彼女が。

 いま、銃を構えていた。

「……行かせるわけにはいかない。」

 ローザの声は震えていた。
 だが、その瞳は必死で、どこか決意に似た色を宿していた。

 シュナの肩が震える。

「ローザ……どうして……!?」

「その嘘、本当?」

 ローザは言った。

「あなたたちがマンハッタンに入れば……
 ゴッドイーターの計画が狂う。
 だから、ここで止めるしかないの。親衛隊の私がね」

 ユーノスが静かに息を吐く。

「……スパイは、あなただったのね。」

 フィーンは拳を握りしめ、唇を噛んだ。

「怪我を治してくれた時……あれも演技だったの……?」

「……そうよ」
 ローザの声は、悲鳴に近い。
「殺す予定の相手の治療するのは……殺す感覚をより鮮明にしてくれるわ」

 ユウマは前に出る。

「ローザ、そんなの狂ってる。
 俺たちに戦う気はない。どいてくれ。」

 ローザは首を振る。
 涙がこぼれた。

「……ユウマ。あなたは優しい。
 だから……余計に、殺したいの!
 それに、私には、生身も与えてくれなかったしね!」

 銃口が上がる。

 その瞬間。

「ローザ!」

 シルフィが叫び、
 フィーンが低く跳躍し、
 ユウマが体を横から投げ出すように飛び込んだ。

 三つの動きが、音もなく重なった。

 銃声は――鳴らなかった。

 ローザの手首をフィーンが掴み、銃を跳ね上げ、
 シルフィが足元を払う。

「きゃっ……!」

 ローザは体勢を崩し、
 甲板の端のロープへ後ずさった。

 ユウマが短く呟く。

「――落ちろ!近接加速!」

 ユウマがタックルをローザにぶつける。

 波が大きく揺れ、
 ローザの足元の踏板が跳ねた。

 ローザの姿が、闇夜の海へ――

 ザザーン
 
 ローザが波間に落ちた。
 ローザは浮上し、必死に漂う救命ブイにしがみついた。

「うう!!覚えてなさい!」

 フィーンがローザを船上から見ろ下ろして小さく言った。

「……死なないわ。船が拾うはずよ」

 ユウマの胸が痛める。

「ローザ……」

 五人は、救命ボートに飛び乗る。

「行くわよ!!」

 ユーノスが点火装置を叩き、
 ボートのエンジンが静かに唸りを上げた。

 暗い海を、一直線にマンハッタンへ向かって滑り出す。港の灯りが近い。

 背後では、船の灯りが
 遠く、遠く離れていった。

 ユウマは小さく呟く。

「……戦いは、もう始まってるんだな。」

 夜風が吹く。

 五人の乗るボートは、
 黒い海を切り裂きながら、
 静かにマンハッタンの光へ向かっていった。
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