43 / 68
研究所入り口までの道のり
しおりを挟む
ユーノスが背中のポーチを開くと、黒い袋が現れた。
ひらりと取り出されたのは——熊耳が五セット。
「ちょ、ちょっと待って。なんでそんな物騒なもの持ってるの?」
ユウマが一歩さがる。
「変装用だ。TYPE2の巡回ルートを読むには必要だろう」
ユーノスはいつもの冷静な顔のまま、耳を軽く引っ張り、質感を確認した。
「ま、まさか……それ、本物の熊耳じゃ……?」
シルフィが青ざめる。
「安心しろ。最新式の人工皮膚だ。触覚まで再現してある」
そう言ってユーノスは、フィーンの頬にそっと押し当てた。
「ひゃっ……リアルすぎない?これ……!」
フィーンが耳を押し返す。
五人は霧の中で身を寄せ合い、素早く変装を始めた。
耳をつけるだけでなく、肩幅を広く見せるパッド、特殊な筋肉スーツ、呼吸のテンポを合わせるユーノス式訓練。
完成した姿は——森の影に紛れる五体の“熊鬼兵士”そのものだった。
ユウマは鏡代わりの水たまりをのぞき込み、
「……すごいぞ……これならバレない?」
とつぶやいた。
「いいか。TYPE2は歩幅、呼吸、視線の動きが同じだ。ひとつでもズレれば即バレる」
ユーノスは低く言い、隊列のフォームを示した。
五人は、擬人化熊鬼の巡回ルートに自然と紛れるように街路へ踏み出した。
すべての動作がぎこちなくならないよう、慎重に、静かに。
……が。
「おい、そこの隊列」
背後から低い声。
五人は同時に固まった。
振り向くと、一段階大柄な熊鬼兵士が立ちはだかり、
疑い深そうにユーノスたちを見回していた。
職務質問だ。
「所属番号と任務を言え」
熊鬼の瞳が鋭い。
ユウマの足が震え、フィーンは明らかに目を泳がせている。
シュナがユーノスの背中を小さく叩いた。
——やってくれ。
ユーノスは一歩前に出た。
背筋を伸ばし、熊鬼特有の低い声を完璧に再現する。
「本隊“外郭警備β-4”。任務は……夜間区画の霧解析だ」
「霧……解析?」
熊鬼は眉をひそめた。
ユーノスは畳みかける。
「ああ。霧濃度が一定値を超えるとセンサーにノイズが入る。ゆえに解析命令が出た」
「我々β-4は新設部隊だ。耳慣れないかもしれんが……」
ユーノスは肩をすくめ、小さく笑った。
「上層部は気まぐれだろう?」
熊鬼兵士は眉間にしわを寄せたが、次第に表情が緩んでいく。
「……まあ確かに上は気まぐれだ」
「よし、通れ」
五人は同時に心の底から安堵した。
歩き出しながら、シルフィが小声で言う。
「ユーノスすごすぎない? もう俳優じゃん……」
「だまってろ……」
フィーンがぼそりと毒を吐く。
霧の中を進む五人。
しかし、この街は危険すぎる。死角はほとんどない。
そこでフィーンが胸元に手を当てると、かすかに光が滲み出した。
彼の魔力が地面を舐めるように広がり——点々と敵の位置が光の粒子として浮かぶ。
「前方二十メートル、左に巡回ペア。右に三体停留。
……あ、ユウマ、そっち行くとぶつかる!」
「お、おう……!」
ユウマは光の導きに従って、そっと歩幅を合わせる。
索敵があるだけで、緊張が少し緩む。
しかし、その光が示すルートは——研究所中央棟の近くで急に複雑に絡み合い始めた。
「ここから先は、通常の巡回じゃない……固定兵が多すぎる」
シュナが小声で言った。
シルフィはハッキング解析を発動する。
「……解析開始。TYPE2の思考リンクに、干渉する」
ピピッ……と電子音が静かに走る。
「シルフィどう?」
ユウマがのぞき込む。
「待て……データ来た。最短ルートは——」
画面に、絡まった巡回ルートと隙間が瞬時に描き出される。
「——三十秒後、南側の巡回が同時に折り返す瞬間がある。その“死角”を抜けるわよ」
「三十秒?! 無理無理無理!」
シュナが叫びそうになるのを、フィーンが口を塞いだ。
ユーモアを挟みつつも、五人の呼吸はどんどん浅くなる。
最短だが最も危険なルート。
失敗すれば即刻アウト。
ユウマが一歩前に出る。
「行くぞ。ここからは、全員の動きが一つでもズレれば死ぬ」
ユウマが深呼吸する。
「……よし、覚悟はできてる」
フィーンが頷いた。
「発光、維持する……頼って」
フィーンが手を握りしめる。
「僕、絶対に見逃さないから!」
シュナは剣の柄に軽く触れ、
「背中は任せて」
こうして五人は、霧と光に包まれながら、
ついに30階建の一番高いビル、熊鬼研究所入り口に到達した。
ひらりと取り出されたのは——熊耳が五セット。
「ちょ、ちょっと待って。なんでそんな物騒なもの持ってるの?」
ユウマが一歩さがる。
「変装用だ。TYPE2の巡回ルートを読むには必要だろう」
ユーノスはいつもの冷静な顔のまま、耳を軽く引っ張り、質感を確認した。
「ま、まさか……それ、本物の熊耳じゃ……?」
シルフィが青ざめる。
「安心しろ。最新式の人工皮膚だ。触覚まで再現してある」
そう言ってユーノスは、フィーンの頬にそっと押し当てた。
「ひゃっ……リアルすぎない?これ……!」
フィーンが耳を押し返す。
五人は霧の中で身を寄せ合い、素早く変装を始めた。
耳をつけるだけでなく、肩幅を広く見せるパッド、特殊な筋肉スーツ、呼吸のテンポを合わせるユーノス式訓練。
完成した姿は——森の影に紛れる五体の“熊鬼兵士”そのものだった。
ユウマは鏡代わりの水たまりをのぞき込み、
「……すごいぞ……これならバレない?」
とつぶやいた。
「いいか。TYPE2は歩幅、呼吸、視線の動きが同じだ。ひとつでもズレれば即バレる」
ユーノスは低く言い、隊列のフォームを示した。
五人は、擬人化熊鬼の巡回ルートに自然と紛れるように街路へ踏み出した。
すべての動作がぎこちなくならないよう、慎重に、静かに。
……が。
「おい、そこの隊列」
背後から低い声。
五人は同時に固まった。
振り向くと、一段階大柄な熊鬼兵士が立ちはだかり、
疑い深そうにユーノスたちを見回していた。
職務質問だ。
「所属番号と任務を言え」
熊鬼の瞳が鋭い。
ユウマの足が震え、フィーンは明らかに目を泳がせている。
シュナがユーノスの背中を小さく叩いた。
——やってくれ。
ユーノスは一歩前に出た。
背筋を伸ばし、熊鬼特有の低い声を完璧に再現する。
「本隊“外郭警備β-4”。任務は……夜間区画の霧解析だ」
「霧……解析?」
熊鬼は眉をひそめた。
ユーノスは畳みかける。
「ああ。霧濃度が一定値を超えるとセンサーにノイズが入る。ゆえに解析命令が出た」
「我々β-4は新設部隊だ。耳慣れないかもしれんが……」
ユーノスは肩をすくめ、小さく笑った。
「上層部は気まぐれだろう?」
熊鬼兵士は眉間にしわを寄せたが、次第に表情が緩んでいく。
「……まあ確かに上は気まぐれだ」
「よし、通れ」
五人は同時に心の底から安堵した。
歩き出しながら、シルフィが小声で言う。
「ユーノスすごすぎない? もう俳優じゃん……」
「だまってろ……」
フィーンがぼそりと毒を吐く。
霧の中を進む五人。
しかし、この街は危険すぎる。死角はほとんどない。
そこでフィーンが胸元に手を当てると、かすかに光が滲み出した。
彼の魔力が地面を舐めるように広がり——点々と敵の位置が光の粒子として浮かぶ。
「前方二十メートル、左に巡回ペア。右に三体停留。
……あ、ユウマ、そっち行くとぶつかる!」
「お、おう……!」
ユウマは光の導きに従って、そっと歩幅を合わせる。
索敵があるだけで、緊張が少し緩む。
しかし、その光が示すルートは——研究所中央棟の近くで急に複雑に絡み合い始めた。
「ここから先は、通常の巡回じゃない……固定兵が多すぎる」
シュナが小声で言った。
シルフィはハッキング解析を発動する。
「……解析開始。TYPE2の思考リンクに、干渉する」
ピピッ……と電子音が静かに走る。
「シルフィどう?」
ユウマがのぞき込む。
「待て……データ来た。最短ルートは——」
画面に、絡まった巡回ルートと隙間が瞬時に描き出される。
「——三十秒後、南側の巡回が同時に折り返す瞬間がある。その“死角”を抜けるわよ」
「三十秒?! 無理無理無理!」
シュナが叫びそうになるのを、フィーンが口を塞いだ。
ユーモアを挟みつつも、五人の呼吸はどんどん浅くなる。
最短だが最も危険なルート。
失敗すれば即刻アウト。
ユウマが一歩前に出る。
「行くぞ。ここからは、全員の動きが一つでもズレれば死ぬ」
ユウマが深呼吸する。
「……よし、覚悟はできてる」
フィーンが頷いた。
「発光、維持する……頼って」
フィーンが手を握りしめる。
「僕、絶対に見逃さないから!」
シュナは剣の柄に軽く触れ、
「背中は任せて」
こうして五人は、霧と光に包まれながら、
ついに30階建の一番高いビル、熊鬼研究所入り口に到達した。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる