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索敵発光
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薄闇の台地に、風が遠吠えのように吹き抜ける。
ユウマは、ひとり岩壁に背を預け、荒い息を吐き出した。
敵の位置は三方向。足音が、砂を踏むわずかな震えが、この静寂の中でやけに鮮明だ。
……想定外にも程があるだろ、これは。
どうして、こうなった?
喉が乾く。
握ったM4のグリップが汗で滑りそうになる。
ほんの数分前――すべては順調だった。
そう。ほんの数分前までは。
ユウマは回想した。
台地に罠を仕掛けて、
風上で爆薬を爆破して人工砂嵐を起こし、
視界をゼロにして敵三人をバラバラに誘導する。
その戦略は、ナターシャが誇るべき“完璧な戦場設計”だった。
フィーン・ユーノス・シルフィの三人を「台地に誘い込む」という大前提まで、すべて想定通りに進んでいた。
いや、想定以上だったな。あそこでフィーンたちが本気で混乱した時、俺は勝ちを確信したんだ。
だが。
本当に地獄だったのは――
そこから先だった。
砂嵐の中。
突然、視界の全てが“光った”。
ピコン、と電子音。
そして──
《索敵発光、展開》
渓谷全域に、青白い光が走った。
そうだ。これだ。
索敵発光が全ての戦略を破壊した。
「…………は?」
敵の位置が光る。
これは分かる。
問題は――
爆薬まで全部光ることだ。
岩陰。足元。風下。
すべての罠が、青い光でくっきり浮かび上がっていた。
《……ユウマ様……申し訳ありません……
索敵発光は……爆薬も……対象です……》
「フィーンがスキルを使った!!?」
ユウマは叫ばずにはいられなかった。
これまで一度もスキルを使わなかったフィーンにスキルを使わせた。
それは確かに戦果だった。
しかし、その結果――
フィーンたちは砂嵐の中でも完璧に罠を回避。
一度も爆破トラップに触れることなく、
シュナの元へ一直線で到達した。
台地にフィーンたちが来てから、ものの数分の出来事だった。
まずユーノスが風を切る音で場所を察知し、
次にシルフィが爆薬ルートを逆算して最適ルートを確定し、
そして最後に――
「あたしに本気を出させるなんて、なかなかいい戦略だったよ、ナターシャ」
砂煙から現れたフィーンが、
ナターシャの喉元に銃を突きつけていた。ナターシャは、そのままダウン。
その5秒後。
シュナもダウン。
二人とも、想定よりずっと早く落とされた。
──そして今。
高台の岩石エリアの中心に一人。
ユウマは、三人に包囲されている。
「……だからなんで、俺が三人まとめて相手にすんだよ……」
味方ながら末恐ろしい戦力だ。
この三人が揃って敵に回ることなど、
普通は「負け確の反則ゲーム」だ。
かと言って、ここで諦めて帰るなんてできないんだよね。
喉の奥で、何かが燃える。
フィーンの声が薄闇を裂いた。
「ユウマ……残りは、お前一人だ」
「さぁ。どうするの?」
ユーノスが妖艶に笑う。
「逃げ道はゼロ。戦うしかないわね」
シルフィが銃を構える。
ユウマは深呼吸した。
ナターシャの戦場は失敗した……
でも、あいつの“意思”はここに残ってる。
爆薬は無力化されてあるが、そこには確かに存在している。
風は強い。
薄闇は視界を奪う。
戦略が崩れたなら、ここからは……俺の力でなんとかするしかない。
ユウマはデフォルトM4を構えた。三点バースト。フルオート機能は付いていない。
「三人まとめて来いよ。
――俺が全部ひっくり返す」
終盤戦が、幕を開ける。
ユウマは、ひとり岩壁に背を預け、荒い息を吐き出した。
敵の位置は三方向。足音が、砂を踏むわずかな震えが、この静寂の中でやけに鮮明だ。
……想定外にも程があるだろ、これは。
どうして、こうなった?
喉が乾く。
握ったM4のグリップが汗で滑りそうになる。
ほんの数分前――すべては順調だった。
そう。ほんの数分前までは。
ユウマは回想した。
台地に罠を仕掛けて、
風上で爆薬を爆破して人工砂嵐を起こし、
視界をゼロにして敵三人をバラバラに誘導する。
その戦略は、ナターシャが誇るべき“完璧な戦場設計”だった。
フィーン・ユーノス・シルフィの三人を「台地に誘い込む」という大前提まで、すべて想定通りに進んでいた。
いや、想定以上だったな。あそこでフィーンたちが本気で混乱した時、俺は勝ちを確信したんだ。
だが。
本当に地獄だったのは――
そこから先だった。
砂嵐の中。
突然、視界の全てが“光った”。
ピコン、と電子音。
そして──
《索敵発光、展開》
渓谷全域に、青白い光が走った。
そうだ。これだ。
索敵発光が全ての戦略を破壊した。
「…………は?」
敵の位置が光る。
これは分かる。
問題は――
爆薬まで全部光ることだ。
岩陰。足元。風下。
すべての罠が、青い光でくっきり浮かび上がっていた。
《……ユウマ様……申し訳ありません……
索敵発光は……爆薬も……対象です……》
「フィーンがスキルを使った!!?」
ユウマは叫ばずにはいられなかった。
これまで一度もスキルを使わなかったフィーンにスキルを使わせた。
それは確かに戦果だった。
しかし、その結果――
フィーンたちは砂嵐の中でも完璧に罠を回避。
一度も爆破トラップに触れることなく、
シュナの元へ一直線で到達した。
台地にフィーンたちが来てから、ものの数分の出来事だった。
まずユーノスが風を切る音で場所を察知し、
次にシルフィが爆薬ルートを逆算して最適ルートを確定し、
そして最後に――
「あたしに本気を出させるなんて、なかなかいい戦略だったよ、ナターシャ」
砂煙から現れたフィーンが、
ナターシャの喉元に銃を突きつけていた。ナターシャは、そのままダウン。
その5秒後。
シュナもダウン。
二人とも、想定よりずっと早く落とされた。
──そして今。
高台の岩石エリアの中心に一人。
ユウマは、三人に包囲されている。
「……だからなんで、俺が三人まとめて相手にすんだよ……」
味方ながら末恐ろしい戦力だ。
この三人が揃って敵に回ることなど、
普通は「負け確の反則ゲーム」だ。
かと言って、ここで諦めて帰るなんてできないんだよね。
喉の奥で、何かが燃える。
フィーンの声が薄闇を裂いた。
「ユウマ……残りは、お前一人だ」
「さぁ。どうするの?」
ユーノスが妖艶に笑う。
「逃げ道はゼロ。戦うしかないわね」
シルフィが銃を構える。
ユウマは深呼吸した。
ナターシャの戦場は失敗した……
でも、あいつの“意思”はここに残ってる。
爆薬は無力化されてあるが、そこには確かに存在している。
風は強い。
薄闇は視界を奪う。
戦略が崩れたなら、ここからは……俺の力でなんとかするしかない。
ユウマはデフォルトM4を構えた。三点バースト。フルオート機能は付いていない。
「三人まとめて来いよ。
――俺が全部ひっくり返す」
終盤戦が、幕を開ける。
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