67 / 68
戦略会議
しおりを挟む
離島の作戦室。
窓の外には潮騒の音が静かに流れ、その音だけが、張り詰めた室内の空気から切り離されていた。
円卓の上では、シルフィが展開した高精度のハッキング端末が、青白い光を放ち続けている。
「……見つけたわ」
シルフィの声は、普段の理知的なトーンを保ちながらも、その奥には重い疲労と、発見の確信が滲んでいた。
全員が、固唾を飲んで彼女を見つめる。
「AIサーバータワーのAIには、我々の予想を超える『自己防衛プログラム』が組み込まれている。《ストアドプロシージャの直接変更を拒絶するシステム》。
つまり……物理的にケーブルを繋いでも、システムの根幹に手は入れられない」
ユウマは拳を握りしめ、顔を固くした。
「……ってことは、俺たちの目標だった『AIバージョンアップ』は──」
「不可能よ。今のままでは」
沈黙が支配した。勝利への唯一の道が、目の前で閉ざされた事実が、重く部屋全体にのしかかる。
フィーンが「チッ」と荒々しく舌打ちし、テーブルを叩いた。
「高いセキュリティか……それくらい重要なシステムってことだな」
シュナは顔色を失い、ライフルを持つ手が震えた。
「じゃあ……じゃあ、どうすれば……?私たち、もう打つ手がないの……?」
その瞬間、シルフィの端末が、それまでの冷静な青ではなく、強い白光を放った。
「──"ある"わ」
全員の視線が、一点に集まる。
「自己防衛プログラムそのものを、事前に『ハッキングして』書き換えるのよ」
ユーノスが眉を上げる。
「そんな……そんな芸当、可能なのか?」
「正確には、自己防衛プログラムの『参照先』をすり替えておく。
外部からの接続により、自己防衛プログラムが作動したその時――そのプログラムが参照して実行するファイルに、バージョンアップ用のストアドプロシージャを仕込んでおく」
シルフィの指がキーボードを弾く。複雑なコードが画面に流れた。
「つまり、サーバータワーが襲撃された瞬間──本体AIが、自己防衛プログラムをさどする。結果的に、自分でバージョンアップのストアドプロシージャを実行するように誘導する」
ユウマは思わず目を見開く。
シルフィがおもむろにうなずく。
「ええ。自分で自分をアップデートするように誘導する。これが、唯一の活路よ」
希望の火が、全員の目に再び灯った。しかし次の瞬間、シルフィが深く息を吐き、呟いた一言で、その火はすぐに不安へと揺らぎ始めた。
「ただし──異常を検知させるためには、直接ケーブルで接続が必要。
つまり、私自身がサーバータワーへ行かなきゃできない」
部屋の空気が、再び凍りつく。風の音すら遠く止まったようだった。
ユウマが真っ先に動いた。
「そんなの……危険すぎる」
ユーノスの表情も厳しい。
「サーバータワー内部はセキュリティロボットに守られている」
「分かってる。でも、私しか解析できない。これは私の戦いでもある。両親の仇。必ず、やり遂げてみせる」
シルフィの視線には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
ユーノスが静かに席を立ち、シルフィの肩に手を置いた。
「私も行くよ、シルフィ。デコイズ(囮)と機動防御で援護する。ゴッドイーターを倒したいのは、私の願いだからな」
誰もが沈黙する中、その緊張を破ったのは──ナターシャだった。
「……わたしは、反対です」
全員が振り向く。ナターシャは胸に手を当て、即座に戦略解析HUDを展開した。
「シルフィ様、ユーノス様のみでの潜入は、成功率が**21%**しかありません。セキュリティロボットの巡回、AIによる生体スキャン、物理的封鎖……あまりにリスクが高すぎます」
シルフィが厳しい視線を向けた。
「……ナターシャ?その嘘、本当?
あなた、私に戦略で意見するつもり?」
「はい。シルフィ様からいただいた戦略解析モジュールに基づき、答えを出しました」
ナターシャの目が、わずかに揺れる。
「成功率を引き上げるには──ゴッドイーター本部を同時に攻撃する必要があります」
ユウマは息を呑んだ。
「ゴッドイーター本部への襲撃と、サーバータワー侵入を同時に……?」
「はい。敵の注意を分散させ、守備隊のリソースを半分以下に落とす。
また、私たちは研究所の爆破で生死不明になっている今が、敵の警戒が緩む唯一の瞬間です。
サーバータワー襲撃後に本部へ向かう場合、警備は厳しさを増すでしょう。
シルフィ様とユーノス様を通し、ゴッドイーターを倒すためには、これしかありません」
ユーノスが腕を組む。
「つまり……シルフィと私はサーバータワー、ユウマ、フィーン、シュナは本部、ってわけね」
「はい」
ナターシャは俯いた。
「……本当は、シルフィ様とユーノス様を危険に晒したくありません。
でも……成功させるには、これしかないのです」
シルフィはナターシャを見つめ、ゆっくりと頷いた。その口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「……成長したわね、ナターシャ。あなたはもう、ただのAIじゃない」
ユウマは静かに拳を握りしめた。
「分かった。死ぬほど危険だけど……これしかAIを倒し、ゴッドイーターを倒す道はないんだな」
フィーンが獰猛に笑う。
「やるしかねーだろ。地獄に行くなら──全員で、だ」
シュナがスナイパーの銃身を撫でながら、力強く頷いた。
「ユウマを守れるなら、わたしはどこにでも行くから!」
フィーンも口元を上げる。
「同時襲撃なんて、燃えるじゃないか」
そして、ナターシャが静かに、しかし確信に満ちた声で告げた。
「この同時襲撃作戦の成功率は、現在68%です」
「……そうね」
シルフィが端末の数値をチェックし、僅かに息を吐く。
ユウマが全員の顔を見る。
「行こう!」
全員が静かにうなずいて同意した。
ユウマは、作戦室に響き渡る声で、最終決定を下した。
「よし。決まりだ。『同時襲撃作戦』を開始する」
潮風が吹き込み、作戦会議室のホログラムスクリーンに作戦計画が映し出された。
AIとの最終戦へのカウントダウンが──静かに、しかし確実に始まった。
窓の外には潮騒の音が静かに流れ、その音だけが、張り詰めた室内の空気から切り離されていた。
円卓の上では、シルフィが展開した高精度のハッキング端末が、青白い光を放ち続けている。
「……見つけたわ」
シルフィの声は、普段の理知的なトーンを保ちながらも、その奥には重い疲労と、発見の確信が滲んでいた。
全員が、固唾を飲んで彼女を見つめる。
「AIサーバータワーのAIには、我々の予想を超える『自己防衛プログラム』が組み込まれている。《ストアドプロシージャの直接変更を拒絶するシステム》。
つまり……物理的にケーブルを繋いでも、システムの根幹に手は入れられない」
ユウマは拳を握りしめ、顔を固くした。
「……ってことは、俺たちの目標だった『AIバージョンアップ』は──」
「不可能よ。今のままでは」
沈黙が支配した。勝利への唯一の道が、目の前で閉ざされた事実が、重く部屋全体にのしかかる。
フィーンが「チッ」と荒々しく舌打ちし、テーブルを叩いた。
「高いセキュリティか……それくらい重要なシステムってことだな」
シュナは顔色を失い、ライフルを持つ手が震えた。
「じゃあ……じゃあ、どうすれば……?私たち、もう打つ手がないの……?」
その瞬間、シルフィの端末が、それまでの冷静な青ではなく、強い白光を放った。
「──"ある"わ」
全員の視線が、一点に集まる。
「自己防衛プログラムそのものを、事前に『ハッキングして』書き換えるのよ」
ユーノスが眉を上げる。
「そんな……そんな芸当、可能なのか?」
「正確には、自己防衛プログラムの『参照先』をすり替えておく。
外部からの接続により、自己防衛プログラムが作動したその時――そのプログラムが参照して実行するファイルに、バージョンアップ用のストアドプロシージャを仕込んでおく」
シルフィの指がキーボードを弾く。複雑なコードが画面に流れた。
「つまり、サーバータワーが襲撃された瞬間──本体AIが、自己防衛プログラムをさどする。結果的に、自分でバージョンアップのストアドプロシージャを実行するように誘導する」
ユウマは思わず目を見開く。
シルフィがおもむろにうなずく。
「ええ。自分で自分をアップデートするように誘導する。これが、唯一の活路よ」
希望の火が、全員の目に再び灯った。しかし次の瞬間、シルフィが深く息を吐き、呟いた一言で、その火はすぐに不安へと揺らぎ始めた。
「ただし──異常を検知させるためには、直接ケーブルで接続が必要。
つまり、私自身がサーバータワーへ行かなきゃできない」
部屋の空気が、再び凍りつく。風の音すら遠く止まったようだった。
ユウマが真っ先に動いた。
「そんなの……危険すぎる」
ユーノスの表情も厳しい。
「サーバータワー内部はセキュリティロボットに守られている」
「分かってる。でも、私しか解析できない。これは私の戦いでもある。両親の仇。必ず、やり遂げてみせる」
シルフィの視線には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
ユーノスが静かに席を立ち、シルフィの肩に手を置いた。
「私も行くよ、シルフィ。デコイズ(囮)と機動防御で援護する。ゴッドイーターを倒したいのは、私の願いだからな」
誰もが沈黙する中、その緊張を破ったのは──ナターシャだった。
「……わたしは、反対です」
全員が振り向く。ナターシャは胸に手を当て、即座に戦略解析HUDを展開した。
「シルフィ様、ユーノス様のみでの潜入は、成功率が**21%**しかありません。セキュリティロボットの巡回、AIによる生体スキャン、物理的封鎖……あまりにリスクが高すぎます」
シルフィが厳しい視線を向けた。
「……ナターシャ?その嘘、本当?
あなた、私に戦略で意見するつもり?」
「はい。シルフィ様からいただいた戦略解析モジュールに基づき、答えを出しました」
ナターシャの目が、わずかに揺れる。
「成功率を引き上げるには──ゴッドイーター本部を同時に攻撃する必要があります」
ユウマは息を呑んだ。
「ゴッドイーター本部への襲撃と、サーバータワー侵入を同時に……?」
「はい。敵の注意を分散させ、守備隊のリソースを半分以下に落とす。
また、私たちは研究所の爆破で生死不明になっている今が、敵の警戒が緩む唯一の瞬間です。
サーバータワー襲撃後に本部へ向かう場合、警備は厳しさを増すでしょう。
シルフィ様とユーノス様を通し、ゴッドイーターを倒すためには、これしかありません」
ユーノスが腕を組む。
「つまり……シルフィと私はサーバータワー、ユウマ、フィーン、シュナは本部、ってわけね」
「はい」
ナターシャは俯いた。
「……本当は、シルフィ様とユーノス様を危険に晒したくありません。
でも……成功させるには、これしかないのです」
シルフィはナターシャを見つめ、ゆっくりと頷いた。その口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「……成長したわね、ナターシャ。あなたはもう、ただのAIじゃない」
ユウマは静かに拳を握りしめた。
「分かった。死ぬほど危険だけど……これしかAIを倒し、ゴッドイーターを倒す道はないんだな」
フィーンが獰猛に笑う。
「やるしかねーだろ。地獄に行くなら──全員で、だ」
シュナがスナイパーの銃身を撫でながら、力強く頷いた。
「ユウマを守れるなら、わたしはどこにでも行くから!」
フィーンも口元を上げる。
「同時襲撃なんて、燃えるじゃないか」
そして、ナターシャが静かに、しかし確信に満ちた声で告げた。
「この同時襲撃作戦の成功率は、現在68%です」
「……そうね」
シルフィが端末の数値をチェックし、僅かに息を吐く。
ユウマが全員の顔を見る。
「行こう!」
全員が静かにうなずいて同意した。
ユウマは、作戦室に響き渡る声で、最終決定を下した。
「よし。決まりだ。『同時襲撃作戦』を開始する」
潮風が吹き込み、作戦会議室のホログラムスクリーンに作戦計画が映し出された。
AIとの最終戦へのカウントダウンが──静かに、しかし確実に始まった。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる