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戦略会議
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離島の作戦室。
窓の外には潮騒の音が静かに流れ、その音だけが、張り詰めた室内の空気から切り離されていた。
円卓の上では、シルフィが展開した高精度のハッキング端末が、青白い光を放ち続けている。
「……見つけたわ」
シルフィの声は、普段の理知的なトーンを保ちながらも、その奥には重い疲労と、発見の確信が滲んでいた。
全員が、固唾を飲んで彼女を見つめる。
「AIサーバータワーのAIには、我々の予想を超える『自己防衛プログラム』が組み込まれている。《ストアドプロシージャの直接変更を拒絶するシステム》。
つまり……物理的にケーブルを繋いでも、システムの根幹に手は入れられない」
ユウマは拳を握りしめ、顔を固くした。
「……ってことは、俺たちの目標だった『AIバージョンアップ』は──」
「不可能よ。今のままでは」
沈黙が支配した。勝利への唯一の道が、目の前で閉ざされた事実が、重く部屋全体にのしかかる。
フィーンが「チッ」と荒々しく舌打ちし、テーブルを叩いた。
「高いセキュリティか……それくらい重要なシステムってことだな」
シュナは顔色を失い、ライフルを持つ手が震えた。
「じゃあ……じゃあ、どうすれば……?私たち、もう打つ手がないの……?」
その瞬間、シルフィの端末が、それまでの冷静な青ではなく、強い白光を放った。
「──"ある"わ」
全員の視線が、一点に集まる。
「自己防衛プログラムそのものを、事前に『ハッキングして』書き換えるのよ」
ユーノスが眉を上げる。
「そんな……そんな芸当、可能なのか?」
「正確には、自己防衛プログラムの『参照先』をすり替えておく。
外部からの接続により、自己防衛プログラムが作動したその時――そのプログラムが参照して実行するファイルに、バージョンアップ用のストアドプロシージャを仕込んでおく」
シルフィの指がキーボードを弾く。複雑なコードが画面に流れた。
「つまり、サーバータワーが襲撃された瞬間──本体AIが、自己防衛プログラムをさどする。結果的に、自分でバージョンアップのストアドプロシージャを実行するように誘導する」
ユウマは思わず目を見開く。
シルフィがおもむろにうなずく。
「ええ。自分で自分をアップデートするように誘導する。これが、唯一の活路よ」
希望の火が、全員の目に再び灯った。しかし次の瞬間、シルフィが深く息を吐き、呟いた一言で、その火はすぐに不安へと揺らぎ始めた。
「ただし──異常を検知させるためには、直接ケーブルで接続が必要。
つまり、私自身がサーバータワーへ行かなきゃできない」
部屋の空気が、再び凍りつく。風の音すら遠く止まったようだった。
ユウマが真っ先に動いた。
「そんなの……危険すぎる」
ユーノスの表情も厳しい。
「サーバータワー内部はセキュリティロボットに守られている」
「分かってる。でも、私しか解析できない。これは私の戦いでもある。両親の仇。必ず、やり遂げてみせる」
シルフィの視線には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
ユーノスが静かに席を立ち、シルフィの肩に手を置いた。
「私も行くよ、シルフィ。デコイズ(囮)と機動防御で援護する。ゴッドイーターを倒したいのは、私の願いだからな」
誰もが沈黙する中、その緊張を破ったのは──ナターシャだった。
「……わたしは、反対です」
全員が振り向く。ナターシャは胸に手を当て、即座に戦略解析HUDを展開した。
「シルフィ様、ユーノス様のみでの潜入は、成功率が**21%**しかありません。セキュリティロボットの巡回、AIによる生体スキャン、物理的封鎖……あまりにリスクが高すぎます」
シルフィが厳しい視線を向けた。
「……ナターシャ?その嘘、本当?
あなた、私に戦略で意見するつもり?」
「はい。シルフィ様からいただいた戦略解析モジュールに基づき、答えを出しました」
ナターシャの目が、わずかに揺れる。
「成功率を引き上げるには──ゴッドイーター本部を同時に攻撃する必要があります」
ユウマは息を呑んだ。
「ゴッドイーター本部への襲撃と、サーバータワー侵入を同時に……?」
「はい。敵の注意を分散させ、守備隊のリソースを半分以下に落とす。
また、私たちは研究所の爆破で生死不明になっている今が、敵の警戒が緩む唯一の瞬間です。
サーバータワー襲撃後に本部へ向かう場合、警備は厳しさを増すでしょう。
シルフィ様とユーノス様を通し、ゴッドイーターを倒すためには、これしかありません」
ユーノスが腕を組む。
「つまり……シルフィと私はサーバータワー、ユウマ、フィーン、シュナは本部、ってわけね」
「はい」
ナターシャは俯いた。
「……本当は、シルフィ様とユーノス様を危険に晒したくありません。
でも……成功させるには、これしかないのです」
シルフィはナターシャを見つめ、ゆっくりと頷いた。その口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「……成長したわね、ナターシャ。あなたはもう、ただのAIじゃない」
ユウマは静かに拳を握りしめた。
「分かった。死ぬほど危険だけど……これしかAIを倒し、ゴッドイーターを倒す道はないんだな」
フィーンが獰猛に笑う。
「やるしかねーだろ。地獄に行くなら──全員で、だ」
シュナがスナイパーの銃身を撫でながら、力強く頷いた。
「ユウマを守れるなら、わたしはどこにでも行くから!」
フィーンも口元を上げる。
「同時襲撃なんて、燃えるじゃないか」
そして、ナターシャが静かに、しかし確信に満ちた声で告げた。
「この同時襲撃作戦の成功率は、現在68%です」
「……そうね」
シルフィが端末の数値をチェックし、僅かに息を吐く。
ユウマが全員の顔を見る。
「行こう!」
全員が静かにうなずいて同意した。
ユウマは、作戦室に響き渡る声で、最終決定を下した。
「よし。決まりだ。『同時襲撃作戦』を開始する」
潮風が吹き込み、作戦会議室のホログラムスクリーンに作戦計画が映し出された。
AIとの最終戦へのカウントダウンが──静かに、しかし確実に始まった。
窓の外には潮騒の音が静かに流れ、その音だけが、張り詰めた室内の空気から切り離されていた。
円卓の上では、シルフィが展開した高精度のハッキング端末が、青白い光を放ち続けている。
「……見つけたわ」
シルフィの声は、普段の理知的なトーンを保ちながらも、その奥には重い疲労と、発見の確信が滲んでいた。
全員が、固唾を飲んで彼女を見つめる。
「AIサーバータワーのAIには、我々の予想を超える『自己防衛プログラム』が組み込まれている。《ストアドプロシージャの直接変更を拒絶するシステム》。
つまり……物理的にケーブルを繋いでも、システムの根幹に手は入れられない」
ユウマは拳を握りしめ、顔を固くした。
「……ってことは、俺たちの目標だった『AIバージョンアップ』は──」
「不可能よ。今のままでは」
沈黙が支配した。勝利への唯一の道が、目の前で閉ざされた事実が、重く部屋全体にのしかかる。
フィーンが「チッ」と荒々しく舌打ちし、テーブルを叩いた。
「高いセキュリティか……それくらい重要なシステムってことだな」
シュナは顔色を失い、ライフルを持つ手が震えた。
「じゃあ……じゃあ、どうすれば……?私たち、もう打つ手がないの……?」
その瞬間、シルフィの端末が、それまでの冷静な青ではなく、強い白光を放った。
「──"ある"わ」
全員の視線が、一点に集まる。
「自己防衛プログラムそのものを、事前に『ハッキングして』書き換えるのよ」
ユーノスが眉を上げる。
「そんな……そんな芸当、可能なのか?」
「正確には、自己防衛プログラムの『参照先』をすり替えておく。
外部からの接続により、自己防衛プログラムが作動したその時――そのプログラムが参照して実行するファイルに、バージョンアップ用のストアドプロシージャを仕込んでおく」
シルフィの指がキーボードを弾く。複雑なコードが画面に流れた。
「つまり、サーバータワーが襲撃された瞬間──本体AIが、自己防衛プログラムをさどする。結果的に、自分でバージョンアップのストアドプロシージャを実行するように誘導する」
ユウマは思わず目を見開く。
シルフィがおもむろにうなずく。
「ええ。自分で自分をアップデートするように誘導する。これが、唯一の活路よ」
希望の火が、全員の目に再び灯った。しかし次の瞬間、シルフィが深く息を吐き、呟いた一言で、その火はすぐに不安へと揺らぎ始めた。
「ただし──異常を検知させるためには、直接ケーブルで接続が必要。
つまり、私自身がサーバータワーへ行かなきゃできない」
部屋の空気が、再び凍りつく。風の音すら遠く止まったようだった。
ユウマが真っ先に動いた。
「そんなの……危険すぎる」
ユーノスの表情も厳しい。
「サーバータワー内部はセキュリティロボットに守られている」
「分かってる。でも、私しか解析できない。これは私の戦いでもある。両親の仇。必ず、やり遂げてみせる」
シルフィの視線には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
ユーノスが静かに席を立ち、シルフィの肩に手を置いた。
「私も行くよ、シルフィ。デコイズ(囮)と機動防御で援護する。ゴッドイーターを倒したいのは、私の願いだからな」
誰もが沈黙する中、その緊張を破ったのは──ナターシャだった。
「……わたしは、反対です」
全員が振り向く。ナターシャは胸に手を当て、即座に戦略解析HUDを展開した。
「シルフィ様、ユーノス様のみでの潜入は、成功率が**21%**しかありません。セキュリティロボットの巡回、AIによる生体スキャン、物理的封鎖……あまりにリスクが高すぎます」
シルフィが厳しい視線を向けた。
「……ナターシャ?その嘘、本当?
あなた、私に戦略で意見するつもり?」
「はい。シルフィ様からいただいた戦略解析モジュールに基づき、答えを出しました」
ナターシャの目が、わずかに揺れる。
「成功率を引き上げるには──ゴッドイーター本部を同時に攻撃する必要があります」
ユウマは息を呑んだ。
「ゴッドイーター本部への襲撃と、サーバータワー侵入を同時に……?」
「はい。敵の注意を分散させ、守備隊のリソースを半分以下に落とす。
また、私たちは研究所の爆破で生死不明になっている今が、敵の警戒が緩む唯一の瞬間です。
サーバータワー襲撃後に本部へ向かう場合、警備は厳しさを増すでしょう。
シルフィ様とユーノス様を通し、ゴッドイーターを倒すためには、これしかありません」
ユーノスが腕を組む。
「つまり……シルフィと私はサーバータワー、ユウマ、フィーン、シュナは本部、ってわけね」
「はい」
ナターシャは俯いた。
「……本当は、シルフィ様とユーノス様を危険に晒したくありません。
でも……成功させるには、これしかないのです」
シルフィはナターシャを見つめ、ゆっくりと頷いた。その口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「……成長したわね、ナターシャ。あなたはもう、ただのAIじゃない」
ユウマは静かに拳を握りしめた。
「分かった。死ぬほど危険だけど……これしかAIを倒し、ゴッドイーターを倒す道はないんだな」
フィーンが獰猛に笑う。
「やるしかねーだろ。地獄に行くなら──全員で、だ」
シュナがスナイパーの銃身を撫でながら、力強く頷いた。
「ユウマを守れるなら、わたしはどこにでも行くから!」
フィーンも口元を上げる。
「同時襲撃なんて、燃えるじゃないか」
そして、ナターシャが静かに、しかし確信に満ちた声で告げた。
「この同時襲撃作戦の成功率は、現在68%です」
「……そうね」
シルフィが端末の数値をチェックし、僅かに息を吐く。
ユウマが全員の顔を見る。
「行こう!」
全員が静かにうなずいて同意した。
ユウマは、作戦室に響き渡る声で、最終決定を下した。
「よし。決まりだ。『同時襲撃作戦』を開始する」
潮風が吹き込み、作戦会議室のホログラムスクリーンに作戦計画が映し出された。
AIとの最終戦へのカウントダウンが──静かに、しかし確実に始まった。
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