68 / 68
シルフィの夜這い
しおりを挟む
その夜、ユウマはひとり、離島の潮騒を聞きながら、暗い天井を見つめていた。
明日──シルフィとユーノスは、AIサーバータワーへ向かう。
成功率68%。なんだか引っかかる。
ナターシャが高めてくれたとはいえ、敵本部への襲撃と並行する作戦だ。
どちらかが欠ければ、どちらも失敗する。
(……眠れるわけ、ないよな)
目を閉じた瞬間、ノック音がした。
控えめな、でも一度でシルフィだとわかるような、丁寧で精密なリズム。
「ユウマ。入っていい?」
「もちろん。どうぞ」
扉が静かに開き、薄い白光の中から、シルフィが姿を現した。
戦闘用の冷酷さではなく、仲間、いや
、恋人としての優しい表情。
しかしその奥に、かすかに曇りがあった。
「……寝てなかったのね」
「そっちこそ」
シルフィは苦笑して、ユウマの横に腰を下ろした。
距離が近い。
こんなに近いシルフィを見るのは、初めてかもしれない。
海風がカーテンを揺らし、部屋に塩の香りを運んだ。
「今夜は、誰の番でもないから……来ちゃダメなんだけど」
「来てくれて嬉しいよ」
するとシルフィは、ふっと目を伏せた。
「ユウマ。……出会ってからのこと、覚えてる?」
唐突な問いに、ユウマは一瞬だけ戸惑った。
だが、すぐに思い出す。
「……覚えてるよ。全部」
あの日。
ガンゲルシティの公園で、鬼ごっこをしたこと。
初めて彼女がユウマの前に現れた時──
まだ互いに信用もなかった頃。
「最初のころ、わたし……ユウマのこと、警戒してたのよ?」
「知ってるよ。すっごい目してたもん」
「ふふ……やっぱり覚えてるのね」
シルフィは微笑みながら、ゆっくりとユウマの肩に頭を預けた。
「あなたは……怖いくらい真っ直ぐで……
でも、どんな時も仲間を見捨てなかった……」
声が震えた。
「……わたし……本当にユウマを好きよ」
ユウマは息を呑む。
明日……死ぬかもしれない作戦だからか?
その事実が、重く深く、ユウマの心を抉った。
「シルフィ。……明日は無茶するなよ」
「その嘘、本当?」
「こっちこそ、聞きたいよ。なぁ、成功率68%って本当なのかな」
「それは、嘘よ。私とナターシャでついた嘘。本当は6.8%」
「やっぱり」
「……けど、どうしても決行したいのよ」
シルフィはユウマの手を、そっと握った。
「わたしが初めてユウマを好きだって思うのはどんな時かわかる?」
「……え? そんなの分からないよ」
「たくさんあるのよ」
シルフィは静かに語り出した。
「あなたが、初めてわたしに“頼った日”。
あの時、あなたは敵に囲まれて、仲間を守ろうとして……
自分が死ぬのを当たり前みたいに受け入れていた」
ユウマの胸が、ズキッと痛んだ。
「わたしはその時、初めて理解したの。
“この人は……危なっかしい。放っておいたら死ぬ”ってね」
「そんなことあったっけ」
「ふふふ。それと、戦場でのキス」
「いや、それは……」
「ダメ?キスだけで止められない日もあったけど」
シルフィはユウマの胸に額を寄せた。
「ユウマ。
わたしね……あなたと過ごした全部を覚えてる。
嬉しかったことも、笑ったことも……怒ったことも」
瞳が、ほんの少し潤んでいた。
「だから、明日……ちゃんと戻ってくるわ。
あなたとの“続き”が、まだたくさんあるもの」
ユウマはその瞬間、胸の奥底から込み上げる感情を抑えられなくなった。
「シルフィ。絶対、帰ってこいよ」
「ええ。必ず。
だからユウマ──お願いがあるの」
「なんでも言えよ」
シルフィはユウマを見つめ、静かに微笑んだ。
「明日、もしわたしが戻ったら──
あなたが最初に呼ぶ名前は、わたしにしてほしいの」
「……!」
「嫉妬深い仲間がいっぱいいるのは分かってる。でも……
わたし、あなたに“戻ったよ”って一番に聞いてほしいの」
その願いは、あまりにも可愛くて、切なくて。
ユウマは思わず笑ってしまった。
「分かった。絶対に最初に呼ぶよ。
……おかえりって」
「うん……」
シルフィは満足したように、ユウマの肩に身を預けた。
潮騒が静かに響く中──
二人だけの、短く、しかし永遠のように深い時間が流れた。
そしてシルフィは、ユウマの胸に囁くように言った。
「ユウマ。……ありがとう──成功させてみせるわ」
「……ああ。約束だ」
シルフィはほてった身体をユウマに寄せた。
ユウマはシルフィのねっとりとしたキスを受け入れた。
明日──シルフィとユーノスは、AIサーバータワーへ向かう。
成功率68%。なんだか引っかかる。
ナターシャが高めてくれたとはいえ、敵本部への襲撃と並行する作戦だ。
どちらかが欠ければ、どちらも失敗する。
(……眠れるわけ、ないよな)
目を閉じた瞬間、ノック音がした。
控えめな、でも一度でシルフィだとわかるような、丁寧で精密なリズム。
「ユウマ。入っていい?」
「もちろん。どうぞ」
扉が静かに開き、薄い白光の中から、シルフィが姿を現した。
戦闘用の冷酷さではなく、仲間、いや
、恋人としての優しい表情。
しかしその奥に、かすかに曇りがあった。
「……寝てなかったのね」
「そっちこそ」
シルフィは苦笑して、ユウマの横に腰を下ろした。
距離が近い。
こんなに近いシルフィを見るのは、初めてかもしれない。
海風がカーテンを揺らし、部屋に塩の香りを運んだ。
「今夜は、誰の番でもないから……来ちゃダメなんだけど」
「来てくれて嬉しいよ」
するとシルフィは、ふっと目を伏せた。
「ユウマ。……出会ってからのこと、覚えてる?」
唐突な問いに、ユウマは一瞬だけ戸惑った。
だが、すぐに思い出す。
「……覚えてるよ。全部」
あの日。
ガンゲルシティの公園で、鬼ごっこをしたこと。
初めて彼女がユウマの前に現れた時──
まだ互いに信用もなかった頃。
「最初のころ、わたし……ユウマのこと、警戒してたのよ?」
「知ってるよ。すっごい目してたもん」
「ふふ……やっぱり覚えてるのね」
シルフィは微笑みながら、ゆっくりとユウマの肩に頭を預けた。
「あなたは……怖いくらい真っ直ぐで……
でも、どんな時も仲間を見捨てなかった……」
声が震えた。
「……わたし……本当にユウマを好きよ」
ユウマは息を呑む。
明日……死ぬかもしれない作戦だからか?
その事実が、重く深く、ユウマの心を抉った。
「シルフィ。……明日は無茶するなよ」
「その嘘、本当?」
「こっちこそ、聞きたいよ。なぁ、成功率68%って本当なのかな」
「それは、嘘よ。私とナターシャでついた嘘。本当は6.8%」
「やっぱり」
「……けど、どうしても決行したいのよ」
シルフィはユウマの手を、そっと握った。
「わたしが初めてユウマを好きだって思うのはどんな時かわかる?」
「……え? そんなの分からないよ」
「たくさんあるのよ」
シルフィは静かに語り出した。
「あなたが、初めてわたしに“頼った日”。
あの時、あなたは敵に囲まれて、仲間を守ろうとして……
自分が死ぬのを当たり前みたいに受け入れていた」
ユウマの胸が、ズキッと痛んだ。
「わたしはその時、初めて理解したの。
“この人は……危なっかしい。放っておいたら死ぬ”ってね」
「そんなことあったっけ」
「ふふふ。それと、戦場でのキス」
「いや、それは……」
「ダメ?キスだけで止められない日もあったけど」
シルフィはユウマの胸に額を寄せた。
「ユウマ。
わたしね……あなたと過ごした全部を覚えてる。
嬉しかったことも、笑ったことも……怒ったことも」
瞳が、ほんの少し潤んでいた。
「だから、明日……ちゃんと戻ってくるわ。
あなたとの“続き”が、まだたくさんあるもの」
ユウマはその瞬間、胸の奥底から込み上げる感情を抑えられなくなった。
「シルフィ。絶対、帰ってこいよ」
「ええ。必ず。
だからユウマ──お願いがあるの」
「なんでも言えよ」
シルフィはユウマを見つめ、静かに微笑んだ。
「明日、もしわたしが戻ったら──
あなたが最初に呼ぶ名前は、わたしにしてほしいの」
「……!」
「嫉妬深い仲間がいっぱいいるのは分かってる。でも……
わたし、あなたに“戻ったよ”って一番に聞いてほしいの」
その願いは、あまりにも可愛くて、切なくて。
ユウマは思わず笑ってしまった。
「分かった。絶対に最初に呼ぶよ。
……おかえりって」
「うん……」
シルフィは満足したように、ユウマの肩に身を預けた。
潮騒が静かに響く中──
二人だけの、短く、しかし永遠のように深い時間が流れた。
そしてシルフィは、ユウマの胸に囁くように言った。
「ユウマ。……ありがとう──成功させてみせるわ」
「……ああ。約束だ」
シルフィはほてった身体をユウマに寄せた。
ユウマはシルフィのねっとりとしたキスを受け入れた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる