香りに包まれて

アキノナツ

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出会い

【閑話】露と消え。

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堂島どうじま視点。


ーーーーーー


俺の酒のペースで飲ませてしまった。

この様子はどう見ても、あまりよろしくない。

見た目はしっかりしてるが、よく喋る。
うん、よく喋る。

「私はね、あの法服が着たかったんだよ。何にも染まらない、何事も受け入れ審議するあの黒い法服。……憧れ止まりだったけどね」
水割りのグラスが揺れる。

あきらくんなら着れたのでは?」

「ムリムリムリ~いッ! みんな優秀なんだよぉ~。私なんかより、ズズーっとね。日本は安泰だ」
ちょっと悲しそうに笑う。

「晶くんが裁判官だったら、俺と会う事もなかったか」
もしの世界はなんだか色褪せる。
グラスの中の氷を指先で突いていた。

「晶くんは、男の人に好意を寄せられる事にどう思う?」
なんて回りくどい。

俺はこの人が好きだと思う。
何度も自問自答の末……今、確信した。

「好意かぁ。いいね」
心躍る。
この人の一挙一動に気分が乱高下。

そばかすが散ってる顔がくしゃっと歪んだ。
笑ってるのに悲しそうだ。

「好かれるのは悪い気がしないなぁ。私はトゲトゲしちゃって、好かれてるようで、好かれてないんだよ。分かってるんだ」

グラスが傾く。氷が涼やかに鳴る。

「いいんだよ。みんな自分が可愛い」
職場では人間関係がうまく行ってないのだろうか。

「ーーー恋人欲しいな。堂島どうじまさんの恋人は美人さんだろうね。美男美女。眼福だねッ。今度会わせてよぉ~」

恋人欲しい?!
ココいます! 恋人候補がいます!

後半なんか言ってたけど、ムシッ!
今だ! 今、言ってしまおう!

「晶。俺が恋人になってはダメ?」

「恋人ぉ~?」
キョトンと見てる。グラスは離さない。

「そう。晶の事、好きなんだ。恋人になって欲しい」
「好きなのか? 嬉しいねぇ~」
グラスに口をつけながら、笑ってる。

「いいよぉ~。堂島さんの恋人いいねぇ。推しの恋人。最高じゃん」
うっそりと目が細まる。

空いてる方の手を掴むように握ると、周りの目など気にする事なく、その手に口づけした。

「ありがとう。週末デートしよ?」
「デートかぁ。映画一緒に観ようよ。誰も私が観たいのを一緒に観てくれないんだよぉ~」

映画? お安い御用だ!
晶は映画が好きなのか。

「観ましょう! ご一緒しますよ」
明日…は、無理だな。日曜にしよう。楽しみだな!

「因みに、堂島さんの好きなジャンルは?」
この気遣い。晶は優しいなッ。

「俺はSFモノですかね。冒険活劇みたいなファンタジー寄りのが好きかな」
大きなスクリーンで観るのだから、広大な風景が広がるのがいいじゃないか。

「ふゥゥ~ん」
グラスが空になった。
バーテンダーにおかわりを要求してる。

こちらをチラリと見られたので、軽く終わりを示す。
「そろそろ帰りませんか?」
「あー、キリがいいか。そうしようか」

ポヤポヤしながら、帰る準備を始めてる。
酔ってても、なんだか手際がいい。

おっと、うかうかしてると置いてかれそうだ。
カードで会計を済ませる。

タクシーを拾い乗り込み、走り出して暫くすると、晶が船を漕ぎ出してしまった。
事前に住所は聞き出せていたので良かった。

笑顔で別れた。

いい日だった。

イケ好かないヤツが縁を持ってくれたのが癪だが。
今度見かけたら、、、不能にしてやる。

運転手が怪訝にこちらを伺ってる。
おっと、こんな顔を彼には見せられないな。



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