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お薬ってすごいね?
しおりを挟むやはり感覚がないのは不便だ。
不安だ。
端的に思うのは不安だ。漠然と不安が全身を覆って、俺を支配している。
涙は出てこないが、不安で寂しい。
ただ感覚がひとつでもあるいうのは、段ちがいの安定感をもたらしてくれた。
自分はここにいる。その証明するものに手を伸ばす。手放せない。
相手の肩に顎をおいて、頬に彼の髪や皮膚を感じてると、安心する。
心が落ち着いて来るのだ。彼は俺の安定剤だ。
抱き合って頭の中で会話してるのはまったりと時が過ぎる。
不安はあるけど、身体を触れ合いって落ち着く。
身体全体をふわっと何かが包んで消えた。
身体の不快感がスッと消えてさっぱりする。
ん?
『浄化魔法です』
魔法が使える世界なのだと言うのは話の流れでなんとなく分かっていたが、便利なものだ。
『魔法で感覚の補完を考えていますが、方法が思いつかなくて。一先ず、薬で感覚を戻して、対策を考えましょう』
ジュラがポンポンと手を動かして、離れるよと合図をくれる。
あの襲うようなセックスの後、会話の中で名前を教えてもらった。
俺は、『フミ』と名乗る事にした。
フルで名乗ってみたが、ジュラが聞き取りにくそうだと思った返しに、全てを名乗るのは良くない気がしたので、こうしてみた。
寂しさが募るが我慢。
シーツを掴むが心許なくなって、膝を抱えて座って待つ。
『お待たせしました。口を開けて、舌を出して下さい』
信頼関係がなければこんな事は出来ないだろう。俺は今この先生、ジュラに頼り切ってる。彼しか頼れる者はいないのだから。
『薬を置きます。ゆっくり溶かして下さい』
舌の上にそっと置かれた。
口に戻して、ゆっくり溶かす。
徐々に匂いが微かに戻り、目を開ければ光を感じる。視線を動かせば、側に青い髪の人影が見える。
「さて、この薬はあまり使いたくないので。ささっと魔力測定してみましょう」
魔力測定の結果。
魔法が使えた。
俺に魔法が使えるかどうか。この世界で生活するには必修事項である。良かった。
薬の使い過ぎは反対に感覚を殺してしまうらしい。あくまでも緊急処置なのだそうだ。
そして、文献では、年単位で効くはずが自分に対しては数時間しか持たないらしい。ジュラが自分の腕が悪いと溢していたが、そうじゃない気がする。そう伝えたら、苦笑いだった。美人さんはどんな表情でも美人さんです。
激しい感情の起伏が無ければ消費は緩やかぽかった。
そして、俺が使える魔法は音波系だった。風属性らしい。パンと音がなれば周りの様子を肌感覚で知る事ができる。
コウモリやイルカの超音波的なものかなと考えてみた。
生活魔法もある程度使えた。
コレでここで生活するのはなんとかなりそうだ。
そして、自分は利かない鼻で『ケーキ』を探し、できれば『唯一のケーキ』を探し、接触を持たないといけないらしい。
えーと、コレは公然的に浮気を促されてる?
ジュラになんとなく愛情のようなものを感じてる俺としては、ジュラから離れたくない。
「ジュラは一緒に来てくれないの?」
コレは最初の刷り込みのようなものなのだろうか。
俺の初めての人だもの。ジュラも自分が身近過ぎるだけだと言ってた。外で環境も変われば変化するだろうとも。
ジュラが『ケーキ』だったというもの関係してるとも言われた。
「すみません。私はあなたの『唯一』ではなかったので、一つの感覚しか戻して上げられませんでした」
とても残念そうに言われた。
コレは、フラれたという事?
泣きたい。
「旅に慣れるまではついて行きますよ」
細い眉がヘニョっと垂れた。
ジュラは優しい。絆されたいう事か?
「フミが慣れるまでですよ? あまり留守にはできないので」
代理で来てくれる医者を探すまで、この診療所で感覚が死んでても動ける訓練をしていた。
この村にジュラ以外に甘い香りのする人は居なかった。
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